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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

愛しいひと

2011-01-22 22:02:27 | 小説
 仕事人間のエリート夫瞭平が突然蒸発し、一人息子にも出て行かれた専業主婦の笠松睦子が、夫を蔑ろにしてきたことや息子を甘やかすとともに干渉しすぎたことを後悔しつつ、仕事を始め、まわりに当たり散らし依存してきた自分を一歩引いて見つめ直すという専業主婦成長小説。
 基本的に妻側の視点と妻側のストーリーですし、結局は妻側に都合よく展開するのですが、瞭平の蒸発が、仕事一筋に走り続けた疲労の蓄積とともに、家庭での居場所の喪失、たまに早く帰ると妻には「あら、やだ。おとうさん、ご飯食べるの?なら、ご飯、"チン"だわ。え?ビール?入れてないないわよ。だって帰ってくると思ってなかったもの。いいじゃないの。毎晩外で飲んでるんだし、おいしいもの食べてるんだから」と言われ、息子には「え、風呂?待ってよ。今、俺がはいろうとしてたんだよ。・・・予定狂うなあ」と言われ(54ページ)というのが引き金を引きぷつんと切れたというところ、中年男のツボ押さえてるなぁと感じます。年齢的にもほぼ瞭平と同じおじさんには身につまされるなぁ。


明野照葉 文藝春秋 2010年2月25日発行
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南極で宇宙をみつけた!

2011-01-22 20:12:37 | ノンフィクション
 2003年11月~2005年3月に第45次南極観測越冬隊に記者としては初めての女性として同行した朝日新聞記者が、2009年11月~2010年3月の第51次観測隊に同行した際の記録。
 基本的に新しいこと、初めてのことに価値を見いだす新聞社で2度目の南極行きを実現する過程の苦労話で始まり、同時進行で朝日新聞社のサイトで連載していた記事「ホワイトメール」に、当時は書けなかったアクシデントや裏話と感想で構成されています。
 他のグループの必死の作業中に支援せずに食事を始めたことや食材の使用順とかをめぐっての感情的な対立や、1人の観測隊員を送り出すために背後で支えるおびただしい数の人々への思いといったあたりは、南極観測という過酷な環境での一大プロジェクトの性質をよくあらわしているように思えました。
 どんな吹雪の中でも小用は野外で、服を脱がなくてすむ男性がうらやましいと著者は書いていますけど、南極の吹雪の中で屋外で立ちションしたら凍傷にならないのかなぁ。「雪をトイレットペーパー代わりにしてみたこともある」(166ページ)っていうのも・・・


中山由美 草思社 2010年11月25日発行
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吸涙鬼

2011-01-22 17:09:41 | 物語・ファンタジー・SF
 治療法のない遺伝病で20歳までの命と定められた女子高生のわたし(芳川)と、とんでもない走力と驚異的な回復力を持つ謎の青年榊冬馬の禁断の恋を描いた恋愛ファンタジー小説。
 特殊な能力を持つ故に製薬会社組織からつけ狙われ、また一般人の反感を買い、その中で生き延びられるように無抵抗で殴られけがをしてもすぐに回復でき逃げ足が速く進化し、人の涙を吸うことで生きながらえ、涙を誘うために激しい感情と快感を相手の脳に注ぎ込み相手をおかしくしてしまうという「吸涙鬼」という存在の設定がかなりのウェイトを占める作品です。その部分はストーリーの展開の要となり、本来は、ネタバレ的な要素ですけど、タイトルでそれが出てしまっています。
 この涙を吸うことで相手が精神的に破綻するということへの吸涙鬼の苦悩から、人との恋愛を禁断の愛と位置づけ、その切なさを描くところが味わいどころの小説です。そう言ってしまうと、昨今はあまたあるヴァンパイア・ラブストーリーの1つということになります。それに「わたし」の正体不明の奇病、屋上庭園の植物などの怪しげで隠微な雰囲気を漂わせたところが、読み味かなというところです。


市川拓司 講談社 2010年7月15日発行
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