伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

反転 闇社会の守護神と呼ばれて

2008-02-10 20:14:39 | ノンフィクション
 特捜部検事時代に多数の疑獄事件を手がけ、弁護士に転身した後は暴力団やバブル紳士たちの弁護を多数引き受けて、手形詐欺容疑で起訴されて実刑判決を受けて上告中(執筆時。2008年2月12日上告棄却)の著者によるノンフィクション。
 検察時代の疑獄事件への圧力や人間関係も含めた裏話、弁護士になった後の暴力団やバブル紳士と政治家の実名入りの危ない話が多数書かれており、ノンフィクション好きには読みどころに事欠きません。検察官時代にしても弁護士時代にしても、守秘義務大丈夫かなと思ってしまいますが(どうせ辞めることになるんだからということでしょうけどね)。また弁護士になってからの部分は、依頼者層や金銭感覚、弁護方針のほぼ全てに私は違和感を覚えますけどね(別世界の弁護士なんですね)。
 私にとっては、具体的な疑獄事件での政治家たちの反応や、その事件で調べがここまで進んだのにこういう経過で潰れたという話も大変興味深いですが、それとは別に一般事件も含めて被疑者や弁護士に対してどのように対応していたかの方が驚きでした。民社党の代議士の取調でいきなり怒鳴りつけて灰皿を壁に投げつけた(73頁)なんていうのが最初の方に出てきてビックリしますが、そんなのかわいい方で、机を激しく叩きながらフロア中に響きわたるほどの大声を発して責め立てる(140頁)、被疑者を立たせたまま尋問することもしばしばだった(140頁)とか、検察ではなく警察の話としてですが「府警庁舎の地下にあった取調室では殴る蹴るが日常的におこなわれ、しばしば暴力団員のうめき声が聞こえてきたものだった」「アバラ骨を折るなんかザラだ」(131頁)それで暴力団員が傷害事件で告訴してきても刑事や検事は「何をねむたいことぬかしとるんじゃ。お前らに人権なんぞあるかい」といった調子で突っぱね不起訴にする、そういうことがしょっちゅうあった(132~133頁)なんてことまで書かれています。
 最初の勾留期間の10日間は弁護士が被疑者の接見に来ても「大事な調べだから今日は勘弁してください」「今日は現場検証に連れて行くから」などと口実を作って接見させず被疑者を孤独にさせて自白に追い込んだ(140頁)とか、「狭い拘置所の取調室で、被疑者に同じことを毎日教え込むと、相手は教え込まれた事柄と自分自身の本来の記憶が錯綜しはじめる。最後にはこちらが教えてやったことを、さも自分自身の体験や知識のように自慢げに話し出すのである」「そして、多くの被疑者はいざ裁判になって、記憶を取り戻して言う。『それは検事さんに教えてもらったのです』だが、それではあとの祭りである。調書は完璧に作成されているので、裁判官は検事の言い分を信用し、いくら被疑者が本心を訴えても通用しない」(150~151頁)と、弁護士の接見を妨害し被疑者に嘘の自白をさせていたことまで書かれています。
 そういう疑いを持つことはままありますが、でもまさかそこまではねと思っていたことが、やっぱりそうだったのかと思ってしまいます。もちろん、これを書いた時点では自分が検察に起訴されて無実を訴えている立場ですから、検察官を悪く言いたい気持ちがあるのは当然でその分割り引くべきでしょうけど、それにしても元検事が自分の経験として書いた検察捜査の実情ですので資料価値は高いと思います。


田中森一 幻冬舎 2007年6月25日発行
コメント
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