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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

婚活マエストロ

2025-04-08 23:31:45 | 小説
 40歳の在宅Web雑文ライター猪名川健人が、家主の紹介で婚活業者ドリーム・ハピネス・プランニングの紹介記事を書くという依頼を受け、婚活パーティーに参加することとなり、司会を務める従業員の鏡原奈緒子に惹かれて行くという体裁のほのぼの系小説。
 版元(文藝春秋)のサイトでの紹介(こちら)では、「本屋大賞受賞『成瀬は天下を取りにいく』を超える、爆走型ヒロインが誕生!」とされているのですが、鏡原奈緒子は、とても「爆走型」とは思えません。先に(予約してから確保するまで長~くかかったので)このキャッチを見てしまい、読んでいる間中違和感に苛まれました。そもそも、前作の成瀬あかりだって、生真面目で空気を読まないだけで、爆走型には、私には見えませんでしたし。ましてや、成瀬が空気を読まない我が道を行くタイプなのに対して鏡原はむしろ人の思いを読んでうまく場を調整するタイプで、このキャッチは、版元の編集者が読めてないのかと、「読まれる覚悟」の桜庭一樹の恨めしげな思いさえ感じてしまいます。
 私には、むしろ、成瀬といい、鏡原といい、それほど外れている設定でもないのに、微妙な違いで人物をおもしろく描いてしまうところに作者の作風があるのかなと思えました。
 「ホームページ・ビルダー」で作ったサイトは、2023年10月に更新されているだけで「マジか」「このホームページ、生きている」と驚かれてしまい(13ページ)、ホームページがそういうものだというだけで「令和の世の中で評判になるような会社とは思えない」(27ページ)そうです。ホームページビルダーでサイトを手作りしている者としては、忸怩たる思いを持ちました。どーせ、そーですよ。ウジウジ…


宮島未奈 文藝春秋 2024年10月30日発行
「別冊文藝春秋」連載
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読まれる覚悟

2025-04-06 19:34:27 | 人文・社会科学系
 既にベテランの域に達した著名な作家である著者が、小説を書き出版したとき、読者の反応、評論・文芸批評などを受けたときなどに思ってきたこと、自分が取ってきた態度等について書いた本。
 タイトルからは、これから小説を書くことを考えている読者(ちくまプリマー新書ですから、基本、中高生想定)に、小説を書く以上、あんなこと、こんなことがあります、覚悟して臨んでねという本のような印象を受けます。しかし、実際には、小説家の側の覚悟よりも、経験を語りながら、小説家だって傷つくんだ、無責任な評論家は許せないというニュアンス、ただし他方で自分も読者として偏見を持ち、またそういう読み方をしていることも多々あるので簡単ではない、みたいな反発とためらいを語っている感じです。あと、マイノリティが受ける差別、屈辱と他方で自分がマジョリティ側である領域で自分が犯しているかも知れない問題など…
 誤読については、小説家に限らず、私自身、自分のサイトに書いたことについて、どうやったらそういうふうに読めるのか全くわからないような誤読をしてくる人がいるのを少なからず経験しています。小説の場合、本来的に想像の幅を持たせているので作者としてそれを縛らないという姿勢になるわけですが、法律や裁判実務のことで誤解を放置するとよくないことが起こるので、とても悩ましく思っています。


桜庭一樹 ちくまプリマー新書 2025年1月10日発行
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原発と司法 国の責任を認めない最高裁判決の罪

2025-04-05 23:33:50 | 人文・社会科学系
 2014年5月21日に大飯原発3号機・4号機の運転差し止めの判決(住民側勝訴)を書いた裁判長であった著者が2023年と2024年に行った講演の講演録に加筆して出版したブックレット。
 原発の本質的な危険性、特に他の施設と異なり事故時に運転を止めてもなお高熱を発して燃料が溶け落ちて放射能を放出するという特殊な危険性を語るとともに、未来の危険性を想定して現在の運転を差し止めるよりも容易に認められるはずの実際に発生した事故による損害の賠償請求の裁判で最高裁が国の責任を否定したことに対する危機感がにじみ出ています。
 原発の危険性について理解しやすいことに加えて、業界的には、国の責任を否定した最高裁判決の裁判長を名指しして、42年も裁判官を続けてこの判決を書いた翌月には東電から多数の裁判等を依頼されて多額の報酬を受けている弁護士事務所に就職したのは、下級裁判所の裁判官に「公正らしさ」を求めてきた最高裁にあるまじきことと強く批判しているところ(41~42ページ)が注目されます。おーっ、よく言ったと…


樋口英明 岩波ブックレット 2025年1月7日発行
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ロンドンの姉妹、思い出のパリへ行く

2025-04-04 23:11:02 | 小説
 2022年春、ロンドンに住む画廊主アーチー・ウィリアムソンが97歳になる2人の大伯母ペニーとジョゼフィーンにフランス政府からレジオン・ドヌール勲章が授与されることになって2人をパリに連れて行き、パリで騒動が起こるというエピソードに過去のエピソードを組み合わせた小説。
 人名を覚えるのが実は苦手な私には、登場人物の一覧があるにもかかわらずそこに記載のない名前が多数登場し、時代が行きつ戻りつし、場所も転々とする展開に、スムーズについて行けず、頭に入りにくくて読みにくい作品でした。
 姉妹間で長らく相手に言えない自分の秘密を抱えているというのが、人生そういうものかなという感慨を持たせ、しかしそれを秘密と思っていたのは自分だけで実はバレていたとかいうのにもまた、それもありなんと思い、しみじみしました。


原題:The Excitements
C・J・レイ 訳:髙山祥子
東京創元社 2024年11月8日発行(原書も2024年)

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イニシエーション・ラブ

2025-04-01 13:55:49 | 小説
 地味で口下手な静岡の大学4年生鈴木夕樹が、合コンで知り合った2つ年下の歯科衛生士成岡繭子から積極的なアプローチを受けて交際するようになり…という展開の恋愛小説。
 女性と付き合ったこともなかった(47ページ)地味男が、合コン相手の女性から積極的にアプローチされ、のみならず「芸能人以外にもこんな人がふつうに世の中にいるんだ」と思うほどきれいな(151~152ページ)「アイドルも顔負けという美人」(235ページ)の同僚からも迫られ、という男の妄想を満開にしていると、ふつうに読んでいるとそう思う設定です。
 裏側カバーの紹介に「最後から2行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する」とされています。で、その最後から2行目を読んでも、石丸美弥子の性格設定の方に着目すると、それもありなんとも思えてしまいます。
 読んでいるうちに、作者が成岡繭子の裏側を書いたどんでん返しをしないはずがないという違和感が募りながら、一読目では、なんでそれがなく終わったの?と思ってしまったのが不覚でした。確かに再読してみると作者が多数のヒントを並べてくれているのがわかります(最速だと132ページ)。せめて繰り返し登場した「男女7人」にちゃんと注目していればと悔しく思いました。


乾くるみ 文春文庫 2007年4月10日発行(単行本は2004年4月:原書房)
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陽だまりの彼女

2025-03-31 00:04:39 | 小説
 交通広告代理店に勤務して3年目の営業担当奥田浩介が、今ではクライアントの広報担当となっている、中学時代に周囲から「学年有数のバカ」と蔑まれていじめられていた渡来真緒と、10年ぶりに再会し、その変貌ぶりに驚きながら交際を始め…という展開のオカルト恋愛小説。
 再会した元同級生が魅力的に変身していてギャップ萌えし、相手からも好意を示されという流れは、おっさん読者には恥ずかしくて身もだえしてしまいそうなうれしい設定です。裏側カバーに「完全無欠の恋愛小説」とあるのも、おっさんのノスタルジーと妄想にマッチするという点では、受け容れていい気もします。
 このまま行くとおっさんの妄想に奉仕するだけで小説にならんということで設けられたラストかとは思いますが、私にはどうも取って付けたような感じが残りました。


越谷オサム 新潮文庫 2011年6月1日発行(単行本は2008年4月)
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天使の卵

2025-03-30 17:45:35 | 小説
 芸大受験を目指して浪人している19歳の予備校生一本槍歩太が、10年来心を病んで入院中の父を担当する8歳年上で交際中の彼女の姉でもある精神科医五堂春妃に恋い焦がれるという設定の恋愛小説。
 年上の女性に恋心を持ち、それがかなって行くどきどき感わくわく感幸福感は、やはり19歳の時に年上の医療従事者とお付き合いさせていただいた経験のある者にとっては、甘酸っぱくも至上の読み物で、抗いがたい魅力があります。
 恋愛小説で、相手が一度としてよそ見しない安心感、そして相手が年上の女性なのに保護者のように思い振る舞える(いつもではなくそういう場面もあるということですが)優越感というか自尊心への配慮といったあたりが、作者のその後の大ヒット作「おいしいコーヒーのいれ方」にも通ずるところですが、若年男性(ガキんちょ男)に媚びすぎじゃない?とも感じます(そのうっぷんを晴らしたくなって「ダブルファンタジー」以降ではっちゃけたのかなとも思えますが)。


村山由佳 集英社文庫 1996年6月25日発行(単行本は1994年1月)
小説すばる新人賞受賞作
  
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ぼくは明日、昨日のきみとデートする

2025-03-29 20:20:28 | 小説
 叡山電車沿線の美大に通う20歳の学生南山高寿が、出会うべき運命にあった20歳の美容専門学校生福寿愛美に、2010年4月13日に通学中の車内で遭遇して声をかけてから40日間の交際を描いたSF恋愛小説。
 基本的に南山サイドの視点で描写されていて、前半は南山の幸福な浮かれた恋愛を描き、後半は福寿の心情を思い切なくなるという、奇抜な(荒唐無稽な)設定でありながら恋愛小説の王道ともいうべき読み味です。男性読者を想定した男性側からの王道ではありましょうけれど。
 映画を見たとき、って8年前ですが、抱いたシンデレラの福寿が南山に発見された手帳をいつどうやって回収したのかという疑問(映画の感想記事はこちら)は、原作では回収していない/回収する必要がないと説明されていました(265ページ)。ようやく疑問解決(もっと早く読めって)。
 福寿が手帳を置き忘れて/あえて置いて帰るのが初めてHした夜というのがなかなかに意味深な設定になります。福寿は(福寿の立場から)もっと早くそうしたくならなかったのか(もっとHしたくなかったのか)と南山の立場からは後で哀しくならないか、そこよりもより早く理解して欲しかったのか…福寿側からの内心の描写がないだけにいろいろに想像させます。


七月隆文 宝島社文庫 2014年8月20日発行(文庫書き下ろし)
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夜は短し歩けよ乙女

2025-03-28 22:17:39 | 小説
 クラブの後輩の黒髪の乙女に一目惚れしストーカーのようにつけ回しては偶然を装って目の前に現れ続ける「私」と、それを奇遇と受け止める「彼女」の半年の交錯を描いた小説。
 5月終わりの先斗町飲み歩き編、真夏の下鴨古本市放浪編、京大11月祭ゲリラ興行編、師走の風邪連鎖寝込み編ともいうべき4編の短編連作の趣です。
 恋愛小説のお薦めページでほぼ確実に出てくる作品のため、いつかは読もうと思っていて読んだものですが、大仰で妄想に満ちた文章にはなじめませんでした。舞台が京都でなじみの地名が頻出し、特に第3章は京大のキャンパスが舞台でイメージしやすいため、なんとか読み切ったという感じです。
 「私」は3回生、「彼女」は1回生で、最初の第1章は「彼女」が入学したての5月終わりということになりますが、それでもう「私」がずっとつけ回している状態とか、彼女の方は入学して2か月足らず(浪人したかは言及されていませんが、ふつうに考えて未成年)で底なしのウワバミというのはいかがなものか…解説のイラストの「彼女」の童顔とのギャップ、妊婦にふつうに見えるお腹の膨らみ具合も…


森見登美彦 角川文庫 2008年12月25日発行(単行本は2006年11月)
山本周五郎賞受賞作
2007年本屋大賞2位

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海の底

2025-03-27 23:45:40 | 小説
 海上自衛隊の潜水艦「きりしお」で実習中の夏木大和と冬原春臣が、巨大ザリガニの大群の襲撃を受けて横須賀基地の春祭りに来ていた子どもたちを逃がしきれずに「きりしお」内に籠城することとなり、救助を待ちつつ子どもたちの不満と離反対立に悩まされ…という展開の小説。
 映画を見た関係で、「レインツリーの国」、「植物図鑑」から入った私には、作者はふつうにラブコメの人と思っていたのですが、デビューの頃は、こういう怪獣をネタに自衛隊を賛美する「社会派」(解説者がそう書いている)の小説を書いていたと知り、意外に思いました。きっと、「ウルトラマン」などで科学特捜隊がウルトラマンの引き立て役に終始しているのを「悔しい」とか思って見ていた人なんでしょうね。その鬱屈を吐き出すような終盤にカタルシスがありますが、それまではむしろ自衛隊に防衛出動をさせない政治家や官僚への批判がメインで、自衛隊を違憲だなどという勢力は存在も許されない感じです(登場もしないのは、論外というか眼中にもないということなんでしょう)。


有川浩 角川文庫 2009年4月25日発行(単行本は2005年6月)
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