蓮田先生。
本当に色々とありがとうございました。
Babyklappeを日本に取り入れ、「こうのとりのゆりかご」を開設した先生。
ほぼ同じ時期にドイツのBabyklappeに出会い、その大切さに気付き、同じ思いを共有して…、「名前のない母子」のために誰よりも尽力された先生でした。
僕にとっては、「師匠」でもあり、「父」でもあり、「同志」でもあり、この8年くらい、ずっとお世話になってきました。
二人だけでお食事をすることもいっぱいありました。
二人で、同じ番組に(声だけですが)出演して、「ゆりかご」の必要性を訴えたりもしました。(その後、電話で、「ああいえばよかった、こう言えばもっとよかった」と二人反省会をした時のことを今でもはっきりと覚えています)
それよりなにより、二人で一冊の本を書き上げることができたのは、僕にとっての一生涯の宝であり、財産であり、唯一無二のことでした。
蓮田先生のお言葉をしっかりと残さなければ…、との思いで、必死に取り組んだ大きな仕事でした。
あとがきにも書きましたが、いずれ大人になった「ゆりかごの子たち」に、蓮田先生の思いが伝わるように、と、なんとか形に残しておきたいと願って作った本でした。
この本を仕上げるために、いったいどれだけの時間を使ったことでしょう…。
先生は、嫌な顔一つせずに、ずっと長いことお付き合いしてくれました。
感謝しかありません(心の奥底から)。
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「こうのとりのゆりかご」は、最初から賛否両論がはっきりしていました。
前例のないものなので、反対派からの批判は痛烈なものでした。
けれど、蓮田先生の信念は、決して揺らぐものではありませんでした。
「赤ちゃんの命を救いたい」という信念と、「お母さんを守りたい」という信念は、「ゆりかご」を通して、世の中に広まったと思います。
僕も、同じ思いで、ドイツのBabyklappe(赤ちゃんポスト)を追いかけ、そして、研究者の立場から、「ゆりかご」の大切さを訴えてきました。
残念ながら、まだ一つしか存在していませんが、きっといつか、二つ目、三つ目の「ゆりかご」ができると信じて、これからも地道にこの研究を続けていこうと改めて決意しました。
2020年の現在もなお、赤ちゃんの遺棄、殺害、虐待は後をたちません。赤ちゃんだけでなく、その母親の苦しみや痛みに僕らみんながもっと寄り添っていかなければいけない、と強く思います。
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僕のかつての教え子たちも、蓮田先生に大変お世話になりました。
たくさんの教え子が蓮田先生と直接会い、そして話をしてくれました。
いつも、「先生には、素敵な学生さんがいっぱいいて、よいですね」と笑って仰ってくれました。
数年前には、何人かの勤勉な学生4人が慈恵病院に向かい、そこで蓮田先生との対話も行いました。
何時間にもわたって、うちの学生たちに「ゆりかご」や「命」のことを語ってくれました。
そのお礼をしようとしたら、蓮田先生は、「私のことはいいんです。学生さんたちのために何かしてあげてください」と(いつも)仰いました。
自分のことよりも、妊婦さんのこと、赤ちゃんのこと、そして学生たちのことを第一に考える方でした。僕もそういう人間でありたい、と強く願うようになりました。これは、蓮田先生から直接学んだ一番大切なことだと思っています。
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今、とても悲しいです。
昨年、父を亡くし、とても悲しい思いをしました。それと同じくらい、とても悲しいです。
蓮田先生は、誰よりも、僕のことを認めてくださいました。それがとても嬉しかったです。いつも、どこにいっても、「お前はダメだ」「お前は考えが甘い」「問題ばかり起こす」と言われてきた僕ですが、蓮田先生は、いつも「先生のご研究はとても素晴らしいです」と褒めてくださいました。「先生は面白い人だ」ともいっぱい言われました。
僕自身、蓮田先生に救ってもらった一人だったのかもしれません…。
なので、もうお会いできないと思うと、涙が止まりません(今も涙が出てきます…)。
…
でも、まだ、何も終わってないんです。「赤ちゃんポスト」すなわち「こうのとりのゆりかご」はまだこの国で認めてもらえていません。「内密出産」も、まだパブリックな議論にさえなっていません。蓮田先生なしで、どれだけできるかは分かりませんが、これからも、孤立無援の緊急下の状況に置かれた母子のために、自分にできることを探し続けたいと思います。
…車椅子に乗る蓮田先生と二人で夜の熊本に出て、美味しい馬刺しを食べた時のことを思い出します。「熊本の馬刺しは美味しいんですよ」と言って、僕に差し出してくれたその手を覚えています。その時に握った先生の手の力強さも、まだ感覚的に覚えています。
蓮田先生は食べることが大好きでした。
「鮎屋三代」の鮎弁当です。これが、蓮田先生の大好物でした。
…
今日は、静かに一人で蓮田先生のことを思い出して、色々考えて、ご冥福をお祈りしたいと思います。
蓮田先生、本当にありがとうございました。