Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

駒崎さん×常見さん 『ひとり親を救え!プロジェクト』論争についての所見+α

 

今、ネット界で、『ひとり親を救え!プロジェクト』のことが話題になっている。

中身としては、ひとり親家庭(その多くが母子家庭)の親の所得が低く、貧困の連鎖を生み、子どもの不平等を増長させているので、財政支援をもっとしっかりやってくれ、というもの。

上のサイトには、こう書いてある。


日本の母子家庭の就労率は約81%で世界でもトップクラスですが、正職員の率は39%しかなく、パート、アルバイト等非正規雇用が47%です。パートの仕事を2つも3つも掛け持ちをしても収入は少なく、平均年間就労収入は181万円しかありません。父子家庭も子育てのために残業や休日出勤が難しいため、やむを得ず非正規や派遣になるなど生活が安定しづらい状況です。その結果、日本のひとり親家庭の子どもの貧困率は54.6%と、先進国で最悪です。

このように苦しいひとり親家庭の生活を安定させるために児童扶養手当があります。児童扶養手当は、扶養している1人目の子どもには、所得の制限はありますが、最高月額42,000円が出ます。しかし、2人目には、どんなに所得が少なくても月額5000円、さらに3人目以降は、月額3,000円しか出ません。

引用元


このように、このプロジェクトは、政府に児童扶養手当の金額を上げろ、という要望を政府に提出するものになっている。

このプロジェクトを立ち上げた人物の一人が、ネット界で人気の高い駒崎弘樹さんである。

慶應大SFC出身の若き「社会企業家」。

その人気はますます高まっている。

この駒崎さんに異論を唱えたのが、常見陽平さんという(僕と同世代の)大学教員。

彼のTwitterの発言が、炎上したとか…

そして、彼は自身のブログで、次のような記事を書いた。

ひとり親は応援するが、「ひとり親を救え!プロジェクト」を応援しないことにした

彼の違和感は、このプロジェクトの内容というよりは、駒崎さんへの不信や疑いに対するもののようだ。

さらに…

この駒崎VS常見の対立に、別の観点から異論(?)を出したのが、今一生さんだった。

常見さんと駒崎さんのツイートで考えた「ひとり親家庭」

今さんは、「支援」という言葉が大嫌いだ、と言う。

だから、「救え!」という言葉にも違和感をもつのだろう。

彼は言う。

誰かと対等な関係を築こうと思えば、一方的に支援を施してやろうなんて気持ちにはなれない。
むしろ、一緒に同じ汗を流し、同じ目標への達成努力を分かち合いたいと望むだろう。

今さんも、このプロジェクトに潜む根深い問題を暗に指摘しているように思われる。

確かに、根深いのである。。。


僕も一応、10年くらい前からこの問題にはコミットしているし、訳書に『離婚家庭の子どもの援助』という本があるので、一応、見解だけでも記しておきたい。

(ま、上の方々みたいに著名人じゃないので、何の影響力もないだろうけど…汗)

①このプロジェクトは、子どもの支援云々ではなく、ひとり親家庭(対象はほぼ母子家庭)への公的支援(児童扶養手当)の拡充を政治的に要求するものである。

②このプロジェクトの目的は、「ひとり親の児童扶養手当の複数子加算増額を求めること」である。

③よって、このプロジェクト自体は、ごくまっとうなプロジェクトであり、それほど斬新なものではない。(そして、それはそれとして大切なことである/が、根深い問題は残る)

④「ひとり親家庭の子ども」のことを考えると、このプロジェクトによって、実際に「今」、親の離婚や別居のことで悩んでいる子どもや、それゆえに勉強に身が入らない子どもが救われるわけではない。このプロジェクトは、あくまでも、ひとりで子どもを育てる親への財政支援を求めるものである。(だが、そこに、どうしても「子ども」という視点が入り込んでくる)

⑤ひとり親家庭の子どもの支援という観点からすれば、このプロジェクトは、これに(必ずしも)貢献するものではない。

⑥お金も大事だが、「学力の低下」や「不平等」を引き起こすのは、お金だけではない。親の別居や離婚は、それ以外に色々な問題を引き起こす。子どもにとっても、それは大きな負担やストレスや不安材料になる

⑦ひとり親家庭の問題は、だいたい「貧困」や「格差」の問題として語られてしまい、その結果、子どもの繊細な心の問題は置き去りにされてしまう傾向が、国内外を問わず、強い。(おそらく常見さんの違和感は、そういうところから来ているように思う)

⑧それから、日本の場合、「母子神話」が強く、また「母親が子どもを引き取るべき」という考えも強く、養育能力がないにもかかわらず(また、父親が引き取った方が望ましいにもかかわらず)、無理をして、母親が子どもの親権を取ってしまうケースも多い(それに、日本は、他の先進国みたいに、共同親権が認められておらず、夫妻は離婚の際に必ず対立する)。

⑨日本は母子家庭が圧倒的に多いので、「ステップファミリー」や「パッチワークファミリー」を作ることが難しくなる。基本的に再婚は、子連れ同士の男女の再婚(子を連れた離婚男性と子を連れた離婚女性)が望ましいのだが、日本だと、子連れ=母子となるので、再婚をする上で圧倒的なハンデを背負うことになる。

⑩…つまり、今回のこの議論は、ひとり親家庭の支援やその未来について考えるものではなく、あくまでも「母子家庭」を想定した児童扶養手当の問題でしかなく、数多あるこのひとり親家庭の問題の本質に迫るものではない、ということ。これが、ポイント(というか注意点)だと思う。

⑪さらには、日本には、「離婚調停」を専門にする公的な調停員がいない。ゆえに、日本人の離婚は「泥沼化」することが多い。また、離婚家庭の子どもに特化した支援も極めて脆弱である。別居や離婚に苦しむ子どもたちは、自分の思いを口にすることなく、心の中に封じ、そして、自尊心を傷つけている(全員とはいわないけれど…)。そうした問題に発展するならよいけど、今回の議論で、そこまで発展するかどうか。

⑫(子どもの成長や発達や人間形成にとって)本当に大切なことは、お金ではない。(お金が大事なのは言うまでもない…)

⑬でも、日本人は、何でもお金にして考える。日本人にとっては、愛よりも、支援よりも、まずは、お金なのである。悲しいけど、日本人の思想は「現世御利益」。「実利」を重視する。悲しき拝金主義。(とはいえ、福祉政策にお金を十分にかけているとも言えない)

⑭僕としては、単にプロジェクトの是非を問うだけで終わるのではなく、この議論が「ひとり親家庭」のより深い理解へと向かうきっかけとなってもらえたら、と思う。

⑮そして、できたら、訳書『離婚家庭の子どもの援助』を読んでいただけたら、と思います。素敵で真面目な本です。

(最後は、宣伝になってしまった、、、汗)

詳しくはこちら!

これ、本当にいい本なんです…(売れないけど、、、涙)

あと!!

著者のシュトロバッハさんを呼んで、講演会もしました

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