今、千葉市内で最も注目されているお店が、「つけ麺石ばし」だ。
この石ばしは、津田沼の超人気店の「必勝軒」で修行された方が独立して作られたお店。東池袋大勝軒からすると孫の代のお店ということになる。大勝軒の味を発展させて、千葉・津田沼で不動の人気を博するお店(もちろん石神本でも常連)の味を学んだ若き店主のお店、とあって、開店前から話題を呼んでいた。
聞くところによると、オープンした日にはなんとも2,3時間待ちだったんだとか。こういう展開は、普通にラーメン店を開業する人には決して為しえないことであろう。もちろん必勝軒時代からのファンがいたということもあるだろうけれど、やはり「必勝軒」、そして「大勝軒」というブランドのもつ力の大きさゆえであろう。
しかし、「必勝軒蘇我店」ではなく、「つけ麺石ばし」という名前での船出である。そこには、店主さん自身の味を作り出したいという願いが込められている、と考えてよいだろう。「石ばし」の味とはどんな味なのか。当然見る目も厳しくなる。
8月25日オープンとあって、まだまだオープン景気の最中であった。9月1日から、夜のみの営業となったが、すごい行列ができていた。13,4人は並んでいたかな。この付近でこれだけ行列ができるなんて、やはり、さすがだなぁと思った。並んでいる人たちを見ると、サラリーマンや学生っぽい人のみならず、女性もいた。(ただし、店内には人を入れておらず、席が空いていてもすぐに座らせない方法をとっているので、「行列ありき」のスタイルでやっていこうとしているのが窺える。いいか悪いかは別として)
店内は店主さんとスタッフの男性と女性の三人体制だった。メニューはいたってシンプルで、つけめん(750円)とラーメン(700円)のみ。チャーシュー丼などサイドメニューはなかった。チャーシューや生卵やメンマのトッピングはあった。今回は、つけめん、ラーメン両方をオーダー。
ラーメンは、見た目的にはまさに「大勝軒」~「必勝軒」そのもの。スープの色は大勝軒をより今風にした感じのもの。固ゆでで味付けしていないゆで卵がなんか山岸izmの匂いがしてよかった。スープは、イマドキの濃厚豚骨魚介ほどにドロドロしておらず、結構サラサラっとしているが、コクは抜群。大勝軒系の比ではないほどにふくよかで深みのある味わいだった。まさに必勝軒の味そのもの、というか近いというか、そういう感じになっていた。それほどしつこくないのに、強烈なコクとキレ。さすがである。メンマはすっとしたスープできちんと味付けされていたが、それほど特徴があるわけではなかった。チャーシューは、ちょっと薄っぺらくてがっかり。大勝軒ならではのパサパサガッツリだったらよかったかな。
麺は(思ったより)結構細かった。真ん丸の麺で、もちもちっとしたソフト麺のような食感のもので、200gあった(が、気持ち的にはもっと多く感じられた)。
最初は、「おおっ」と思って無我夢中で食べていたけど、途中で少し何かもの足りなさを感じた。もちろん味は素晴らしいし、まさに王道中の王道の味だったけど、量も結構あるので、やや単調に感じられた。味にもう少し変化があると最後まで無我夢中で食べられたかな、と。
つけ麺は、味の方向性としてはラーメンと一緒。大勝軒のもりそば~必勝軒の流れを汲む王道かつ伝統のつけ麺の味わい。酸っぱさもしっかり感じられる。辛味は全くない。酸味と旨味で食べさせるタイプのつけ麺だ。濃厚さもそれなりにあって、パンチも強い。コクもしっかりあって、素晴らしい出来のつけ麺だった。
イマドキのつけ麺に備わる要素をほぼすべて網羅したつけ麺で、これで人気がでないわけがないな、と思わせるような、非常に説得力のあるつけ麺だった。麺はやはり中細タイプの麺で、とても食べやすい。最近なんだか太い麺を敬遠するお店が増えてきているような気がする。浅草開花楼系の極太麺へのアンチテーゼか。
ラーメンもつけ麺も、実によくできた逸品だった。店主さんの様子を窺う限り、とても真面目に必勝軒で勉強されたんだろうな、と感じた。見事に大勝軒~必勝軒の伝統を受け継いだまさにラーメン界のエリートラーメンと言えるだろう。きっとオープン景気が終わっても、しっかりたくさんのお客さんに愛されるお店になるだろう。
ただ、正直、「これでいいのかな」と思わざるを得なかった。エリートタイプのラーメンで、まさに王道で、セオリー通りで、必勝の法則にのっとっている。すきのない味で、完璧に完成された味。それで十分だと言われればそうなのだが、なんか完璧すぎて怖くなる。いじわるく書けば、「この手のラーメンやつけ麺なら、他でも食べられる」、とも言えそうだ。現代のラーメン界のお手本となるラーメン・つけ麺だけに、ある程度の水準をクリアしたラーメン屋さんとあまり違わない。要するに、「石ばし」の味と感じられないのだ。もちろん、その石ばしらしさはこれから見つけていけばよいのだろうけれど、今の段階では、「上手にコピーした技巧派ラーメン店」の域を出ていないと思う。
千葉だと、「必勝軒」や「目黒屋」や「はたかくる」や「つなみ」や「GENTEN」や「麦家」や「志の田」や「兎に角」や「とみ田」や「青山」など、近からず遠からず、必勝・王道パターンにのったラーメン店が数多くある。ここに挙げたラーメン店はどのお店もそれなりに成功している。しかし、それは、そのお店そのものに魅力があるのではなく、その時代にあったラーメンを作っているからなのだと思う。もうすでに都内ではこの手のラーメン店に対して距離をとろうとしている人も少なくない。そういうことを考えると、やはり「自分の店の味」をしっかりと見出すことが必須であるし、そういうお店が生き残っていくのである。
石ばしのラーメンとつけ麺は、たしかに優秀だったし、抜群に美味しく感じられた。が、その一方で「またこの味か・・・」という感じも無きにしも非ずだった。今後、石ばしがどのような方向に向かって歩みゆくのか、楽しみに待ちたいところだ。