今年度も、Haveの愛とBeの愛についての講義を行いました。
先生や保育士を目指す人に、小手先の技術ではない「本質的な事柄」「抽象的な事柄」について考えてもらいたい、と思って、あれこれやっていく中で、この話が、学生たちの心に響くという経験をしてきました。
大学の先生ならきっと「ええなぁ~」って思ってもらえると思いますが、このHave/Beの話をすると、100人近い学生たちが、ほとんど眠ることなく、サボることなく、みんな我が事として、すごく集中して聴いてくれるんです(内面的に本当に集中しているかどうかはわからないけれど、やっている側からはそう見えるんです)。
教育や保育の本質は「愛すること」。(経済の本質が「稼ぐこと」であるように)
それは、かつてのペスタロッチーの時代から始まる近代の教育学(後の保育学)の基礎中の基礎となっています。が、そのことをしっかりと教えている(養成系の)先生がどれだけいるのか…。
愛するということはどういうことか。また、愛することはどういうことではないか。それをしっかりと学術的に(つまり感情論ではなく)語ることこそ、幼児教育や保育で最も大事なことだと確信しています。
が、それを、小難しくなく、分かりやすく、具体的に、且つしっかりと学生たちに伝えるのは、むちゃくちゃ難しいです。アガペーやら、エロスやら、カリタスやら、色やら、なんやらと小難しい概念を並べ立てても、若い学生たちの心には残りません(大事な概念だとは思っていますが…)。
それを、誰もが知っている英単語である「Have」と「Be」で語っていく。それはそれはとても面白いんです。フロムのパクリではありますが、それでも、若い子たちの心に届く話になることができるんです。
…
そんなHaveとBeの話ですが、先日、とある学生から面白い話を教えてもらったんです。
テスト勉強を友達としていて、壇蜜さんのことが話題になったそうなんです。
で、その学生はこんなツイートを見つけたんですって。
壇蜜さんが、結婚した理由で
— るる💃 (@lulu_re_love) January 25, 2022
「ひとりで生きられないから結婚するのではなく、自分ひとりでも生きられる自信がついたから誰かと一緒にいられるようになった」
と言ってたの、幸せな結婚の本質だなと思った
その学生は、この時、「これ見て友達と、Beじゃね???って盛り上がったんです」って(◎_◎;)。
この壇蜜さんのコメントを見て、僕も、「おお、これはフロムが指摘していたことだ!」って思いました。
この壇蜜さんのコメントは、僕の愛読雑誌でもある【婦人公論】のサイトに出ているもんでした。
そこで、檀蜜さんはこんな風に語っていました。
…
祖父が40歳の若さで亡くなったこともあり、「とりあえず40歳までは生きろ」というのがわが家の家訓でした。その年齢まであと1年と迫った昨年、「40歳以降もちゃんと生きられそう」という見込みが立ったので、してもいいかなと思ったのが、結婚を決めたもうひとつの理由です。
生前、祖父は、1回離婚した後に祖母にぐいぐい言い寄って、3人も子どもをもうけたパワフルな人。父も毛布1枚だけ持って、母の元に転がり込んだとか。その血筋から考えると、40歳以降も生きられる見込みが立ったなら、私も誰かの元にぐいぐい行っちゃってもいいだろうって。
私にとって「ちゃんと生きられる」の意味は、経済的・精神的に自立して生きられるということです。ひとりで生きられないから結婚するのではなく、自分ひとりでも生きられる自信がついたから誰かと一緒にいられるようになったわけで。
「未熟な2人が力を合わせて」という形もありますが、私の場合は違います。それは幼い頃から両親に、「誰かに頼って生きていくのはダメ」と言われてきたことも、大きいかもしれません。
もちろん、男性に頼って生きていける女性はそれでいいと思います。「頼れること」はひとつの才能ですからね。でも、私にはその才能が希薄で。男性に頼れないのは、父がずっと単身赴任で、保育士として働いていた母と私の2人で、幼い頃から家事を分担してきた経験があるからかも。
このフレーズはとても素敵ですね。
「ひとりで生きられないから」ではなく、「ひとりでも生きられる自信がついたから」結婚する、という選択。
この部分を読んで、学生たちは、「あ、フロムのBeの愛だ!」と思ったみたいです。
こういう感覚的な知的経験こそ、学生時代にしてもらいたいって僕は思っていましたし、今も思っています。
個別具体的な話から、一般的抽象的法則性を見いだすことを「帰納法」と言いますが、上の学生たちはまさにその帰納的な経験をした、ということでもあります。そして、その一般的・全体的な視点や法則性のことを、「理論」と言います。壇さんの言葉からフロムのBeを看取したという点で、彼女はきっと理論の断片に触れることができたと思います。
壇蜜さんの結婚話の中に、フロムの愛すること(アート=技法)のエッセンスを見いだしたのですから、ここはしっかり褒めてあげたいなって思いますし、また、こういう経験を増やすことが教育者としての僕の使命だとも思います。
あと、どうでもいいですが、壇蜜さんのお母さんも保育士をしていたんですね…。保育士の子どもとして、壇蜜さんを見ると、また違った壇蜜さんの存在が浮かび上がってくるかもしれませんね。
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あと、壇蜜さんは、こんな風にも語っていました。
「彼は性格的にとても落ち着いていて、些細なことで騒ぎ立てない人なので、安心して一緒にいられます。その一方で、漫画家という職業柄、やはり繊細なところもありますね。そこは心配なんですが、おせっかいは焼かずにおこうと」
壇蜜さんは、「何もしないこと」ができる人でもありました。
心配はするけど、何もしない。「何もしないことをする」という技法も、壇蜜さんから学ぶことができるんです。何もしないことをする、というのは、他の講義で僕が話す「居ること」「待つこと」とほぼ同じです。河合先生や鷲田先生の思想からお借りしたものですが…。
夫婦円満の秘訣は、「お互いに、心配しつつも、干渉しない(ほっておく=相手の自由を尊重する)」ということだと思います。
これは、お互いに自立していて、自律的に生きていないとできないことだとも思います。「相手には相手の世界があり、自分には自分の世界があり、たまたま一緒に暮らしている」というある種の悟りみたいなこと?!かな。
ここを間違えると、夫婦関係は(他の人間関係同様に)すぐに破綻してしまいますからね。
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この壇蜜さんへのインタビュー、どこも素敵なので、是非読んでみてくださいね💓
あと、<壇蜜さんのヒストリー>を描いたこの記事も凄く興味深いです。
男性も女性も、この壇蜜さんの生き方から学べることっていっぱいある気がします。
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これ、読んでみようっと。。。
歌は歌ってないのかな? PVに出てる?!