散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

サイコロ

2010-12-20 19:25:37 | 思考錯誤
旅から帰って郵便物の山を片付けていると、黒枠の封筒が派手な広告の間から落ちた。
鼓動が一つ二つ飛んだ。

私よりも幾つか若かったその人は大病と戦っていた。
ある展覧会場で私の仕事を気に入ってくれて、何点かを買ってくださった。
髪を失って目深に被った帽子の下から真っ白な顔が覗いていた。
それからは展覧会の案内を出すたびに顔を見せてくれるのだった。
すこしずつ元気になっているかのように見えたのだ。一度はやっと髪が生えてきたのよ、とうれしそうに話していたのだ。
お悔やみの言葉少なく、一枚の小さな絵を添えて彼女の伴侶だった女性に送った。
しばらくして真っ赤な大きな封筒が届いた。そこから出てきたのは、紙で工作した色とりどりのサイコロが積み上げられた写真が印刷されたカードだった。
中にビー球が入っているサイコロの作り方が彼女の言葉で書かれている。(ビー球は出来ることなら透明の物という注意書きもある)
カラフルにいろ塗られたサイコロはカラコロカラコロと音を立てながらぎこちなく転がるに違いない。
語るようにカラコロカラコロと転がるだろう。
送られてきたカードの裏には彼女の伴侶から
「今日、あれからはじめて家族みんなでCが好きだったあなたの絵を眺めてみました。するとCが微笑みながら絵を鑑賞している姿が見えました。心が安らぎました、ありがとう」と記されていた。私もこれから彼女のサイコロを作ってみよう。カラコロカラコロと楽しいことをおしゃべりをしてみよう。

私ならば何を残してゆくのだろうか?