今の相場全般を表現するのに、Nerve-racking(神経消耗)という表現が相応しそうだ。ニューヨーク・タイムズは40年も運用業界にいるファンド会社の社長Grantham氏の言葉を引用している。彼はこのような相場は見たことがなく、バリュー投資家(割安銘柄を探す投資家)にとって実に神経を消耗する相場だという。つまりもう底値だと思って少し株を買うと翌日には「俺はなんて馬鹿だったんだ」と反省するハメに陥るからだ。
しかし彼の思いは我々共通のものだし、無理からぬかもしれない。今の金融業界の混乱は我々には経験のないものだからだ。例えていうと80年代後半の日本のバブルの崩壊、ブラックマンデー、90年代後半のアジア通貨危機、LTCMの破滅、2001年のアルゼンチンの通貨危機などが一度におきている状態だ。ブランクマンデーの時もその後日本は株価の最高値を更新した。日本の不動産バブルの崩壊は日本だけの出来事だった。LTCMの破綻については中央銀行や大手銀行が連携して危機を回避した。つまり危機は世界の一部で起きてもしっかりしているところはしっかりしていたのである。しかし今回世界で起きていることは過去数年に一度バラバラに起きていたことが、一度に起きている。どこかが悪くてもどこかは良いという状態ではなくなってきた。ただ相対的には日本は今回は傷が浅いと見られている。それと皮肉なことに震源地のアメリカの通貨ながら、決済通貨だけにドルへの需要が高まっている。
つまり消去法的に日本円と米ドルに資金が逃避し、エマージング通貨は暴落している。通貨の暴落はドル建て等外貨建て債務の弁済負担を重くして、デフォルトリスクを高める。新興国企業のデフォルト増加は先進国の金融業界にダメージを与え、貸出抑制につながる。
従って今の喫緊の課題はエマージング通貨の下落防止だ。これで過去の金融混乱時のメニューは出揃ったように見えるがまだ出るのだろうか?「ある」と考えた方が良いだろう。
それはクレジット・デフォルト・スワップだ。これは過去の金融危機時には市場が小さくてほとんど問題にならなかった。金融危機という暴風雨のフルコースを味合うにはもう少し時間がかかるかもしれない・・・と私は考え始めている。