金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

深刻なアジアの人材不足

2007年08月21日 | 国際・政治

昨日(8月20日)中華航空機が那覇空港に着陸し駐機後、炎上するという事故があった。不幸中の幸いは人身事故がなかったことだ。事故原因はこれから解明されることになるが、気になることは中華航空というエアラインは過去から事故が多いということだ。事故の多さの原因として私はベテランのパイロットや整備員の不足やトレーニングの不足があるのではないか?と推測している。最近読んだエコノミスト誌によるとアジアではパイロット等のプロフェッショナルが恒常的に不足しているということだ。プロフェッショナルの不足は成長の大きな障害となるとともに、大きな事故の要因にもなりうる。エコノミスト誌のポイントは以下のとおりだ。

  • アジアでは規制緩和とともに多くの新しい航空会社が設立され、需要を満たすべく航空会社は新しいサービスを提供している。しかし同時にひどくパイロットが不足している。ボーイング社の民間パイロット・トレーニング学校もAlteonトレーニングによると、インドでは現在3千人以下のパイロットしかいないが2025年までには1万2千人以上のパイロットが必要になる。中国では航空旅行の増加に追いつくだけでも年間2千2百人のパイロットが必要であり、これは2025年までに4万人のパイロットを必要とすることを意味する。
  • しかし大手エアラインでも、年間数百人のパイロットを教育するので手一杯で、お互いにパイロットを取り合っている状態だ。フィリッピン航空は過去3年で75人のパイロットを外国のエアラインに奪われた。
  • パイロットだけでなく「法律家」「会計士」「医師」などの不足も目立っている。中国には12万2千人の弁護士がいるが、これは米国のカリフォルニア州の弁護士の数より7万人少ない。多くのビジネスピープルはカリフォルニアは弁護士が多すぎるというが中国では全く弁護士のいない地方がある。

優秀な幹部社員の不足も大きな問題だ。エコノミスト誌はマッキンゼーの研究を紹介しているが、それによると向こう10年で中国では7万5千人の幹部社員が必要だが、現在のストックは3千人から5千人に過ぎない。

技術のある専門職の不足は「職員の頻繁な退職」と「賃金の上昇」という形で現れる。エコノミスト誌によるとTurnover rateつまり従業員に対する辞める人の割合はアジアのある地域では3割を超えるという。

アジアの急速な経済成長に人材供給が追いついていかない。そこで優秀な人材を企業が高い給料を払って取り合いをする。その結果専門職の給料と離職率が上昇しているというのがアジアの問題で、これが持続的な成長のボトルネックになるとともに、製品やサービスの質の低下につながっている。

多少高くてもJALかANAに乗りますか?とまでいうと偏見が過ぎるとお叱りを受けるかもしれないので、それは読者諸氏のご判断にお任せしましょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

先が読みにくいストーリー

2007年08月21日 | 金融

毎月一回地域金融機関向けの雑誌に小文を書いている。締め切りは月末なのだが、今までは余裕を見て20日頃には寄稿していた。しかし今月は金融市場が落ち着くか落ち着かないか見極めが難しく中々筆を取る気にならない。月刊誌に寄稿する難しさは「食べ頃読み頃の記事を届ける」ことにあるのだろう。今起きていることを書くのではなく、今起きていることが1,2ヶ月先にどの様な影響を与えているかを想像して書くということは楽しいが、一方乏しい予見能力を絞るという苦しみがある。

実際この雑誌の4月号には「バブルの予兆はあるのか?」という題の投稿をしてバブル発生の可能性を述べたが、現在起きている現象を総て的確に予測し得た訳ではない。予見ということは難しいと思う次第だ。

今の瞬間、私にとって予測し難いことは「連銀の窓口貸付強化政策が短期金融市場の混乱を抑えられるか?」ということである。先週末連銀は公定歩合を0.5%引下げるとともに、銀行に対する有担保貸付期間をオーバーナイトから30日に延長した。これは概ね好感されていると思うのだが、投資家の安全指向が勝っている様にも見える。この綱引きを見極めるにはもう少し日数が必要だ。

投資家の短期国債へのシフトは凄まじく、昨日(月曜日)3ヶ月国債は66bp、1ヶ月国債は62bp利回りが低下した。その前にそれぞれ利回りが125bp、175bp低下しているがこれは1987年のブラックマンディ以上の瞬間的な金利低下である。この国債金利の急速な低下は2兆7千億ドルという巨額の資金を抱えるマネー・マーケット・ファンドがABCPを敬遠して国債に逃避したことによる。

欧州では月曜日にABCPの8割がリファイナンスに失敗した。ただ事情通の話ではドイチェバンクが、連銀の新しい貸付条件を利用して資金調達をしたということだ。ドイチェバンクの狙いは何だろうか?連銀に協力姿勢を示すことだけではあるまい。そこに収益チャンスを見出したのではないだろうか?

ここは実は邦銀にとって、10年か15年に一度の大きな儲けのチャンスなのである。もし資産担保証券の本当の価値を見極める力がある邦銀が「投売りされている資産担保証券」を買い漁ると相当儲けることができる。

しかし邦銀にその勇気があるかどうかまで判断することは容易でない。従って今将来のことを予見する記事を書くことは中々難しいのである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暑い週末は藤沢周平を読む

2007年08月21日 | 本と雑誌

暑い先週の週末は日中クーラーの効いた部屋で久しぶりに藤沢周平を読み返して過ごした。読んだのは新井白石を主人公にした「市塵」と「周平独言」である。何故夏に藤沢周平かというと、八月の初めに彼の故郷鶴岡に遊びに行って以来読み返してみたいと思っていたからだ。

鶴岡市と隣の酒田市を中心とする庄内地方というところは、優れた人物を生み出したところだと私は思っている。文学者でいうと「小説の神様」と言われた横光利一や芥川賞作家の丸谷才一を生んでいる。鶴岡城址にある「大寶館」にはこれら郷土の偉人の資料がそろっている。ここは無料で入館できるのだが、どことなく郷土の偉人を旅行者に誇るような匂いがしないでもないが、それは嫌味なものではない。

文学者以外で著名な人は満州事変の仕掛け人石原莞爾だろう。同郷の人間が皆同じ精神的風景を持っているというのは乱暴な仮定だし、陸軍中将で退役した軍人と時代小説作家に共通点を求めるというのは強引なことかもしれない。しかし私は石原莞爾と藤沢周平にある共通点を見出している。それは精神の透明度の高さと無欲ということである。

無欲ということについて言えば、酒田の豪商本間家の人々も私欲が少なかったと私は感じている。「本間様には及びもないがせめてなりたや殿様に」いう諺を聞くと本間一族が栄華を極めたように聞こえるが、酒田の旧本間邸などを訪ねると決してそうではないことが分かる。本間家三代目本間光丘は私財を投じて植林事業を行い、酒田を日本海の風害から守り、砂丘を豊かな水田に変えていったのである。今日見渡す限り広がる緑豊かな水田は彼のお陰なのだ。

庄内の人の精神風土の中には無欲さと精神の透明さがあるとまでいうと持ち上げすぎかもしれないが、本間光丘・石原莞爾・藤沢周平の三人を見る限りこの様な風景が見えてくる。

「周平独言」の中で私の好きな一節がある。「私は所有する物は少なければ少ないほどいいと考えているのである。物をふやさず、むしろ少しずつ減らし、生きている痕跡をだんだん消しながら、やがてふっと消えるように生涯を終えることが出来たらしあわせだろうと時どき夢想する」というくだりだ。

藤沢周平は文明の利器も嫌いで少なくとも「周平独言」を書いた頃は車やクーラーも持っていなかった。私はクーラーの効いた部屋でその話を読みながら昭和五十六年頃(周平独言が書かれた時)はまだそれ程暑くなかったのだろうか?などと言い訳を考えている。藤沢周平といえども、今年の夏はクーラーなしでは済ませまいと思うが如何なものだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする