これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

高速ディナー

2014年03月16日 17時23分57秒 | エッセイ
 その日は雨だった。風も強く、嵐のような荒天の中、私は友人たちとのディナーに出かけた。
 店先で傘をたたみ、ドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
「7時に予約した〇〇です」
「少々お待ちください」
 幹事の友人の名前を告げたが、予約リストに入っていなかったようで、ウエイターの反応がよくない。私は店を間違えたのかと不安になった。
 しかし、もらったメールを確認してみると、やはり間違えではないようだ。
「お待たせいたしました。〇〇様は、たしかに本日7時にご予約されていましたが、日程を来週の水曜日に変更されています。ご本人に確認をとりますので、おかけになってお待ちください」
 私は耳を疑った。なぜ、その連絡が私に回ってこないのだろう。ウエイターとは別に、私も彼女に「何か変更されましたか?」とメールを送ってみた。
「今、〇〇様とご連絡がとれました。日程変更のご連絡をし忘れたとのお話でした」
「そうですか」
 その日は3人で会うことになっていたが、誰かの都合が悪くなったのだろう。日取りを変えたあと、私のところに連絡をくれなかったから、こうなったというわけだ。
「本日はいかがなさいますか。お席はご用意できますので、お食事することは可能ですが」
 混乱した頭で考えた。外は雨だし、私はお腹がすいている。家に帰っても、夕食は用意されていない。だったら、とるべき道はひとつである。
「じゃあ、食事していきます」
「かしこまりました」
 突然のトラブルに見舞われ、落胆した私を励ますように、彼はとびきりの笑顔を浮かべてテーブルに案内した。南青山の洒落たレストランともなると、ひとりで来ている客はいない。カップルか夫婦の組み合わせばかりだ。窓際の、目立たない席を選んだのも、配慮のひとつという気がした。
 コースを選び、ワインを注文したあと、〇〇さんから返信がきた。
「ごめんなさい。予定が混乱しました。全員に連絡がまわっているつもりでした。ではまた」
 これには呆れた。全然、謝っているように見えない。「ではまた」と言われても、次はないだろう。
 非常識な人とは、関わりを持たないのが一番である。

「新タマネギのスープです」



 中央にはジェラートが載せられ、口当たりのよい一品だった。
 お皿を下げに来たとき、ウエイターに話しかける。
「お料理のインターバルを短くできますか? 話し相手がいないもので」
「かしこまりました。できるだけ頑張ります」
 彼は、力こぶを作るジェスチャーで、努力する姿勢を見せてくれた。
 実際、このあとのスピードは速かった。チャッチャとお皿が運ばれてくる。
「サヨリとタケノコのカルパッチョです」



「ホタテのソテーです」



「フルーツトマトの冷製カッペリーニです」



「イカスミのパスタです」



 どのお料理も、それぞれの素材の味が生かされており、申し分のない仕上がりだ。あのまま帰っていたら、この美味しさは味わえなかった。残って正解である。
「宮崎・尾崎牛のステーキです。ランプ肉を使っています」



 これは残念ながら、ステーキソースがしょっぱかった。肉が淡白な分、ソースには甘味が欲しいところだ。いや、肉に脂分があればよかったのかも? 
「スパークリングワインのジュレです」



 やっとデザートにたどり着いた。



 このあと、焼き菓子とカフェラテも出てきたが、所要時間は1時間半ほど。かなりの高速ディナーである。最後はシェフもやってきて、わざわざお見送りしてくれた。温かくていいお店だった。
「雨も上がりましたよ」
 ウエイターがドアを開けると、さきほどの嵐が嘘のように外は静まっていた。コートに袖を通し、濡れた傘を受け取って、私は駅に向かって歩き出した。
 3月は別れの季節。
 4月は出会いの季節。
 また、素敵なお店で、美味しいお料理を楽しみたい。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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