これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

虫の知らせ

2013年07月07日 12時12分58秒 | エッセイ
 朝食は、ひじきご飯に限る。
 カロリーが低く、鉄やカルシウムは豊富なこのメニューで、暑い夏を乗り切るつもりだ。
 その日はお腹が空いていて、少々がっついていたかもしれない。箸でご飯を口に運び、奥歯で勢いよく咀嚼したら、ガリッというイヤな音がした。どうやら目測を誤り、箸ごと噛んでしまったようだ。
 口から箸を取り出すと、先端部分が折れている。



 あーあ……。

 ふと、子どものときに聞いた、父の話を思い出した。
「お祖母ちゃんが亡くなったとき、アキヒコ叔父さんの靴ひもが切れたんだよ。すぐお父さんのところに電話がかかってきて、何かあったかって聞いてきた。靴ひもだけじゃなくて、箸が折れたときもあってな……」
 もっと昔だったら、下駄の鼻緒が切れたりすることもあったのだろう。死者は親しい者に、自分がこの世から去ったことを知らせにくるという。いつもと違う出来事があったら、放っておかないほうがいいそうだ。
 では、これは虫の知らせになるのだろうか?

 うーん。

 噛んだことが原因なので、いわゆる霊的現象とは違うとは思うが、木製の箸がこんなに簡単に折れるものだろうか。引っかかるものを感じて、退院して間もない母にメールを送ってみた。無駄に心配させてもいけないから、他の要件を前面に出す。
「夏の旅行の切符が取れたよ! その後、体調はいかがかな」
 すぐに返信が来た。
「お母さんもお父さんも元気だよ。切符ありがとう」
 何もなかったようで、ホッとする。
 91歳の義母も、楽しそうにテレビを見ているから問題ない。
 妹一家は、若いから大丈夫だろう。
 それより、多忙を極める姉が心配だ。自炊もせず、飲んだくれて体調を崩してはいないか。
「さっき、食事中に箸を噛んだら折れて、虫の知らせかもと心配になっちゃった。お父さんもお母さんも元気みたいだからよかったけど、そちらはどう?」
 姉は冷静だから、正直に書いても大丈夫だ。たぶん、今日も仕事をしているだろうから、邪魔をするのが心苦しい。
 まもなく、姉から返信が来た。
「すごい歯だわね。私は大丈夫よ」
 …………。
 そうか、私の歯が強かっただけなのか。
「忙しいからどうしているかと思った」と送ると、その返信にとどめを刺される。
「親が元気ならひとまず安心だよね。歯が折れたんじゃなくてよかったよ」
 …………。
 この頑丈な歯は、ひじきご飯の賜物なのかもしれない。
 みんな元気で安心したから、折れた箸をしつこく使っている。


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コメント (12)
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