これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

無駄な時間

2011年02月10日 19時37分17秒 | エッセイ
 職員会議に出す議題があり、担当者に資料作成を依頼した。
 しかし、出来上がってきた文書には、見慣れぬ漢字が並んでいる。
「大學」
「受驗」
「關する」
「會議」
 読めないことはないが、なぜこんな漢字を使うのだろう。違和感を感じながら進んでいくと、さらに難解な漢字が登場した。
「缺席」
「對象」
「變へる」
 文脈から、「けっせき」「たいしょう」「かえる」と読むと判明したが、ひらがなも変だ。
「ゐない」
「なつてをり」
「かんがへられる」
「であらう」
 古典の授業を受けているかのような、レトロな表現のオンパレードである。
 作成者は、日本史担当の大ベテランだ。黙っていれば、品のある紳士なのだが、口を開くと理屈っぽくていけない。私は眉をひそめ、直談判しに行った。
「先生、会議に出す文書には、一般的な漢字を使ってもらえませんか」
 しかし、男性は聞く耳を持たない。
「一般的もなにも、これが正しい漢字なんですよ。こちらを使うべきです」
「でも、この仮名づかいだって、現代的じゃありませんよね」
「そうですか? 私はいつもこれですけど」
 
 ダメじゃ、こりゃ。

 地歴公民科、つまり社会科には総じて頑固な人が多い。「1時間目と3時間目の授業を代わってほしい」くらいの頼みなら承諾しても、自分の主義・主張を曲げる依頼には断じて応じない。もちろん、柔軟性のある教員もいるけれども、極めて少数派である。
 彼は日本史を教える立場から、日本文化を継承していくことに強いこだわりを持っているらしい。おそらく、「時代の流れだから」「一般的だから」という理由で説得しても、無駄な努力に終わるだろう。
 成果が得られないことに、時間と労力を費やすほど、私は暇ではない。早々に見切りをつけたほうが得策だ。
 だったら、この古めかしい文書をあちこちにバラまき、反発をあおったほうが話が早い。「ほら、○○さんも、××さんもそれ以外の方も、これではわからないと言ってますよ」と迫れば、渋々ではあるが修正するに違いない。

 資料を配ると、思った通りの反応が返ってきた。
「何、この漢字、何て読むの?」
「大事な内容なのに、頭に入ってこない」
「どうして、こんな書き方なんですか?」
 誰もが度肝を抜かれたように、資料に見入っている。そして口を揃えて、「書き直させてください」と注文してきた。
 だが、もっといい方法を教えてくれた人がいる。
「あのね、公文書規定違反になりますよって言えばいいんです」
「公文書規定ですか?」
「そう。議案書なんかも公文書のひとつだから、この規定が適用されるんです。常用漢字表に載っている漢字を使うこととか、現代かなづかいをすることなどと定められています」
「へー」
 早速、彼に規定の話をすると、いともたやすく資料の手直しに取り掛かった。やはり、社会科は法に敏感だ。
 かくして、私は無駄な時間を使わないですんだ。
 と思ったのだが……。
 この日記を書くにあたり、いちいち漢字を部首入力し、かなりの時間を費やすはめになった。
 特に「缺」と「變」が、なかなか変換できなくて困った。
 結局、無駄な時間を使っている。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (20)
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