これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

うしろ髪

2011年02月03日 20時31分32秒 | エッセイ
 今日は事業所訪問をした。
 私が割り当てられたのは、自宅近辺の4社である。地元とはいえ、練馬区は広いので、まずは初めての場所から回る。
 石神井公園駅からバスで10分ほどのその事業所は、高級住宅街の一角にあった。大きくて立派な家が立ち並び、なかなか見応えがある。
 用談を終えて帰りのバスを待つ。
 すると、バス停の向かい側にも、茶色のエレガントな建物があると気づいた。どうやら何かの店舗らしい。看板には「NOE」と書いてあった。

 ノアって読むのかな?

 その瞬間、古い記憶が呼び起こされた。
 10年ほど前に、当時の同僚からもらったチョコレートが美味しくて、箱の裏の店名を確認したことがある。たしか、「おかしの家ノア」と書かれていたのではなかったか。
 私は首を伸ばして、遠い入口をのぞいた。ぼんやりと、ケーキの入ったショーケースが見える。箱入りの焼き菓子も並んでいる。やはり、ここはお菓子屋さんなのだ。あの店に違いない。

 買いに行かなくちゃ!

 ちょうど信号が青になった。渡りに船と思ったが、持ち物を考えて、冷静さを取り戻した。
 お菓子を買ったら、手荷物が増える。これから、事業所をさらに3カ所回らなければならないのに、お菓子の袋を持っていたら手土産と勘違いされそうだ。期待させておいて、そのまま持ち帰るのは失礼だろう。

 じゃあ、駅のコインロッカーに入れておいたら?

 それはいいアイデアかもしれないが、そこまでする必要があるのか。場所はわかったのだから、時間のあるときに、改めて買いにくればいいではないか。
 ウジウジと自問自答していたら、遠くからバスがやってくるのが目に入った。次の約束まであまり時間がない。このバスを逃したら、さらに10分待たねばならない。
 私は泣く泣く買い物をあきらめた。

 うしろ髪を引かれるなぁ……。

 バスに乗り込むと、ノアの見える席に座り、未練がましく窓から店舗を眺めていた。
 残念無念。

 役目を終えて帰宅し、家族と夕食をとった。
「今日は節分だから、豆もどうぞ」と私の分が割り当てられる。
 ずっと、年齢分の数を食べるのだと思っていたが、数え年が正しいから、年齢プラス1の数を食べることになるらしい。
「ママは44個だよ」
 あっさり言われたものの、お茶碗半分ほどの相当な量になる。すっかり忘れて、いつも通りの食事をすませたあとでは厳しい。
 昨年、米寿を迎えた義母は、この倍の89個だ。おそらく、食べきれないだろう。
 縁起物だからと、どうにか食べ終えたが、「ゲープ」と言いそうなくらい満腹になった。

 ノアで買わなくてよかったかも……。

 チラリとそんな思いがよぎったが、すぐに打ち消される。
 なんたって、別腹ですから。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (16)
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