これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ブリヂストンびずちゅかん

2010年08月22日 20時51分42秒 | エッセイ
 エッセイ教室の先輩、芳子さんと知美さんから「ブリヂストン美術館に行かない?」と誘われた。
 美術は好きだが詳しくない。芳子さんは水彩絵の具を使って、花の絵などを描くという。知美さんは、地元の美術館でボランティアをした経験があり、専門知識が豊富だ。
 ひとまず、パソコンを使って場所の検索をした。最寄駅は京橋か日本橋という一等地である。
「お母さん、これどこの地図?」
「それはね、ブリヂストンびずちゅかん……じゃなかった、美術館の地図よ」
 一方、私は美術だか、びずちゅだか、わからないレベルである。でも、世間で認められた人たちの、渾身の作品に詰まった想いはわかる。見ていると、心が豊かになってきて好きだ。難しいことはわからなくても、自分が満足すればそれでいいのだ。
 11時に美術館で待ち合わせをした。



 看板が見えると、おのぼりさんの私でもひと安心だ。



 ちょうど、ヘンリー・ムアというアーティストのテーマ展示をしているようだった。
「ここはね、作家の辻仁成くんが、『都心で一番好きな美術館』って言ってるのよ」
 言いだしっぺの知美さんが、美術館の解説をする。「辻くん」呼ばわりするところが素敵だ。
 だが、すぐに「辻くん」の気持ちが理解できた。とても静かで品があり、落ち着いた場所なのだから。
 このところ、娘に付き合って、ガキがうようよしている恐竜展や哺乳類展に行ってきた私にとって、心のクリーニングができるような気がした。
「ここは、熟年夫婦向きなんじゃないでしょうか」
 仲睦まじくエレベーターに乗り込む夫婦を見て、私が言うと、知美さんが一拍置いて返した。
「そうね……。熟年夫婦に、熟年のわけありカップルとか」
 
 まずは、ロダンの「考える人」がお出迎えする。この複製は、世界でも20数箇所の美術館にしかないそうだ。もうちょっと大きければいいのに、と思った。
 著名な作家・彫刻家の作品が多いせいか、何人もの警備員を見かけた。平日の昼間とあって、客は両手に余る程度しかいない。もしかして、警備員のほうが多かったかもしれない。
 制服を着て、いかつい顔をした警備員が立っていると、どうにも居心地が悪い。しかし、警備員が常駐している部屋と、巡回している部屋とがあることに気づいた。高額の美術品がある部屋には常駐して、そうじゃない部屋は巡回程度なのではないか。

 私が気に入った作品は、アンリ・ルソーの「イブリー河岸」である。明るく夢のある景色が好きで、ポストカードを購入した。



 ゴッホの「モンマルトルの風車」もいい。こちらは、紅茶になっていたのでお土産にした。



 それから、白髪(しらが)一雄の「観音普陀落浄土」だ。この画家は、見たことも聞いたこともなかったのだが、抽象的に見えて緻密な計算の元に描かれた作品に、鬼気迫るものを感じた。手元に置いて、何度も鑑賞したくなる。
 こちらもポストカードを買った。



 それからそれから。この美術館最大の目玉なのだろうか。ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の缶を買った。中には飴が入っている。
 飴がなくなったら、何か他のものを入れて使いたい。でも、何を入れればいいか、思いつかない。



 1時間ほどで優雅な鑑賞は終わった。
 他のエッセイ仲間と合流し、食事をしたあとは家路につく。
 お土産をバッグから出したら、娘が近寄ってきた。
「何買ってきたの?」
「紅茶と飴とポストカードよ」
「えっ、これ、飴が入ってるの? 蚊取り線香かと思った」
「…………」
 あら、蚊取り線香ですか。
 親子して、びずちゅかんなのだと苦笑する。
 使えないことはないかもしれないが、女性を美しく描くことに長けたルノワールがショックを受け、化けて出るかもしれないな……。

*追記*
 空っぽになった飴の缶は、今では輪ゴム入れと化しています。
 ルノワール殿、ごめんなさいまし……。






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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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14 コメント

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飛行船かわゆい! (白玉ときどきハルヒ)
2010-08-22 21:51:04
美の基準は人それぞれなので、自分の感性に素直になろう、と思うのですが・・・
つい、多くの人が足を止めている作品の前では、訳知り顔に 同じように止まってしまいます↓

紅茶や蚊取り線香、じゃない飴の缶に名画が描かれているなんて、贅沢ですね。
インテリアにもなるし、実用にも使えるしね。
返信する
そうそう (砂希)
2010-08-22 22:48:35
>白玉ときどきハルヒさん

その通りです!
著名な画家、知名度の高い作品は、先入観が邪魔して純粋に評価できませんよね。
アンリ・ルソーも然り。
私は思想家のジャン=ジャック・ルソーが描いた絵なのかと思いました(笑)
全然違う人でしたが~。
友人はマグネットを買っていましたよ。
冷蔵庫につけるんだそうです。
どうせなら、役に立つものがいいですね。
返信する
例の… (Yano)
2010-08-23 01:40:47
例のうちの親父は、絵画だ彫刻だ壷だと、芸術品ばかり飾りたがる人なんだけど、オレにはさっぱりでね。風呂に飾ってあった絵を見て「何だこれ?」なんて思っていたら、有名らしい(?)棟方志功の絵だったんだけど、それすら知らなかったぐらいだしね。さすがにロダンの「考える人」は分かるけど、他にはミレーの「落ち穂拾い」しか知らないかも…。
何らかの形で芸術の世界に関わったり、自分が創作してみると見方が変わるんだろうけどね。
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へー (砂希)
2010-08-23 06:29:01
>Yanoさん

お父さんは芸術家肌なんだね。
棟方志功の絵は私もわからないな。
「落ち穂拾い」がわかるなら、「モナリザ」も大丈夫だね(笑)
美術館はいくつか回ったけれど、見たそばから作品名を忘れてしまうよ。
画家も、マネとかモネとか、ややこしいし。
売れない時代があった画家は、よく自分の力を信じられたなと感心してしまう。
返信する
Unknown (片割れ月)
2010-08-23 07:55:52
なかなかの作品ばかりのようですね。
私も「イブリー河岸」は好きなほうです。
こちらにも美術館はあるのですが作品自体が超熟年向けで。どうも。。
以前事務の女性がその美術館を観るためにわざわざ出かけたことを思い出しました。
私は佇まいが美術館向きでないのか警備員の熱い視線を感じる時がしばしばです。
ルノワールの蚊取り線香は売れるかもね。
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静かで落ち着いた・・・ (さくれ)
2010-08-23 12:26:26
私もここ十数年は、
お子ちゃまとか若いカップルとかがうじゃうじゃいる博物館とか○○展しか行ってないな~。
熟年カップルが似合う、静かで落ち着いた美術館にいってみたいものです。
あ。でも。
案外静かすぎると落ち着かないかも!?
返信する
美術館大好き! (ヤッギー)
2010-08-23 15:19:59
ブリジストン美術館、懐かしいです~。

昔よく行きましたよ~。

アンリ・ルソーは私も好きです。
現代絵画が多いですよね~。
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うま~い (砂希)
2010-08-23 19:56:19
>片割れ月さん

ほほっ、警備員の熱い視線ですか~!
チューされなくてよかったですね(笑)
ピカソも何枚かありました。
友人は、「私はこの時代のピカソが好きなんだけど…」としみじみ語っていましたよ。
だんだん、何を描いているのかわからなくなりましたからね。
事務の女性は行動的ですね。
古い彫刻も多くて、紀元前24世紀などという説明文に驚きました。
返信する
たしかに~! (砂希)
2010-08-23 20:00:51
>さくれさん

静かすぎると、靴音まで響きますからね。
おしゃべりもはばかられる雰囲気でした。
でもでも、辻仁成が登場したら、瞬間どよめくかも~(笑)
おそらく、一日の入館料収入よりも、警備員の人件費や光熱費、設備費のほうが高くつくと思われます。
さすがは石橋財団ですよ。
その分、タイヤ値下げとかしないのかしら…。
返信する
ご存じですか (砂希)
2010-08-23 20:04:34
>ヤッギーさん

えっえ~!
お詳しいんですね。
アンリ・ルソーは日曜画家と呼ばれていたそうですが、どの絵も夢や希望にあふれていて、見ていて楽しくなります。
ヒロ・ヤマガタに通じる要素があるのかと。
美術館にもよしあしがあるようですが、誰といくかにもよりますね。
デートスポットにもいいかも。
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