これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ウソつき写真

2009年07月16日 20時27分34秒 | エッセイ
「東京都職員カード」というものを、私は持っている。
 それは、氏名と顔写真に加えて、「上記のものは、東京都職員であることを証明します」という文字の入っているプラスティック製のカードだ。
 有効期限は発行から5年間。私のカードは、平成19年10月31日で期限切れとなり、しばらく放置したままだった。
 理由は単純である。

 だって、写真撮るのがイヤなんだもん!!

 自分のイメージはいつまでも若いままなのに、仕上がった写真を目にしたときの衝撃といったらない。「なんじゃ~、こりゃあー!」と叫びたくなるようなほうれい線に、目の下のクマに代表される疲労感、肌の衰えは隠しようがない。しかも、カメラの性能がいいほど衝撃は大きくなる。
 まあ、一種の現実逃避というやつだ。

 しかし、知り合いの日記を読んで気が変わった。彼女は、池袋の某百貨店に入っている写真館で身分証明書写真を撮影したのだが、気になる部分を修整してもらい、お見合い写真にも使えそうな出来栄えになったという。

 これは、私も便乗せねば!!

 彼女から詳細を聞き出し、早速職員カード用の写真を撮りに行った。
「はい、アゴひいてください。右肩少し上げられますか~?」
 カメラマンの男性の指示に従い、何枚か撮影した。そのあと、パソコン画面に写真を取り込み、修整作業に入った。
「はい、じゃあ、ここに座って一緒にご覧になってください」
 画面には、指名手配犯のような私の顔が、4枚並んでこちらを見つめていた。「キャーッ!!」と悲鳴を上げたくなるような人相の悪さだ。思わず目をそらした。
 男性は、私の動揺を知ってか知らずか、やや事務的に話を進めた。
「この中から、どれか一つを選んでください」
 全部イヤですと答えたくなった。おそるおそる画面に視線を戻して、身の毛もよだつ写真の群れから、一番マシかもしれないと思えるものを選んだ。
 次に男性は、選ばれた一枚を、画面いっぱいにデカデカと拡大した。
 大きくなった自分の顔が「ドーン」と現れた瞬間、私は後ろにのけぞった。心臓に悪すぎる!!
 男性は写真をジッと見ると、マウスを巧みに動かし、肌の色を明るくしはじめた。くすんでしおれていた肌が、水気を含んでつややかに生き返ったようだった。
 今度はマウスポインタを口元に移動し、口角をほんの少し上げた。うんと上げることもできるし、下げることもできるらしい。1センチ上げるだけで表情が明るくなり、5歳くらい若く見えるから不思議だ……。
「この髪は消しちゃっていいですか?」
 見ると、頬に髪が一本へばりついている。「はい」と答えるとマウスが消しゴムに変わり、修正液を塗るように消されていった。頭の輪郭からはみ出している髪も、消しゴムでキレイに整えられていった。
 私はひたすら、彼の技術に感心するばかりだった。
「他に直してほしいところはありますか?」
 この調子ならば、目を大きくしたり、シワをなくしたりすることも可能だろう。でも、別人になっても意味がない。まとわりついてくる欲望を振り払いながら、私はキッパリ言った。
「いえ、もうこれで十分です!」

 後日、更新した職員カードが出来上がった。さすがに、満足のいく仕上がりだったので、周りの同僚にも修整写真の威力を見てもらった。
「大学生みたい~!」
「キレイに撮れていますね」
 どの人も驚き褒めちぎる。「そうでしょ、そうでしょ」と私も天狗になった。修整写真というより、ウソつき写真というか、詐欺写真というか……。
 問題は有効期限だ。平成24年10月31日となっているから、残りわずか3年ではないか。

 先日、同僚の佐藤ゆき子ちゃんが、副校長と話をしていた。
「先生、私の職員カードの有効期限が切れたのですが、なくて困ることってありますか?」
「うーん、このカードは身分証明書にはならないから、郵便局の振込みには使えないんだよね。実は、僕も半年前に切れたままで、更新してないんですよ」
「出勤時のカードリーダは、期限切れでも使えますものね」
「強いて言えば、時間外に都庁に入るときは必要かな。それ以外は免許証があれば問題ないと思います」
 私は耳をダンボにして、二人のやり取りを聞いていた。時間外の都庁なぞ、まずあり得ない。

 東京都職員カードって、診察券レベルなのかしら??
 じゃあ、定年までこのカードを使うか~!



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コメント (22)
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