これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

怪奇特集ここ一番!

2009年07月19日 21時44分20秒 | エッセイ
※ このエッセイには、テレビ放映された怖い話のエピソードが含まれていますのでご注意ください。

 私の母は、原付で10分くらいの場所にある眼科で、長年受付事務という仕事をしていた。
 話は、20年ほど前にさかのぼる。
 私たち3人娘がまだ中高生だった頃、夏休みの間だけは、母が12時から1時半までの昼休みに、昼食を作るため家に戻ってきた。
 これはなかなか骨だったようだ。汗びっしょりになって帰ってきて、娘たちには食事をさせたあと、すぐにとんぼ返りをするのだから、母は些細なことでイライラしていた。
 たとえば、家に着いたとき、玄関の鍵が開いていないと怒り出す。
「昼休みが短いんだから、気を利かせて開けておいてよ!!」となるのだ。
 他にも、朝食で使った食器が片づいていないと、かんしゃくを起こす。
「何で洗っておかないのよっ!!」と、ガミガミガミガミ小言を聞かされる羽目になる。

 夏休みの楽しみといえば、某テレビで放映される怖い話だった。正午から始まるワイドショーで、特定の期間のみ、読者から寄せられた恐怖体験などを特集していたのだ。
 娘3人も母も、この手の番組が好きだったので、欠かさず見たおぼえがある。
 怒りっぽい母も、これを見ているときはおとなしくなり、「こんなことがあるんだね~」などと不思議がっていた。
 
 一番印象に残っているのは、オフコースの『YES-YES-YES』にまつわる話である。司会の男性が、神妙な面持ちで重々しく語り始めた。
「この曲には、コンサート会場に行く途中で事故死した、女性ファンの声が入っているというんです」
 ちょうど、その日は母の帰りが遅かった。午前の診察が長引くと、その分昼休みが短くなり、母の機嫌がさらに悪くなるから注意が必要だ。私は時計をチラリと見て、時間を確認した。
 司会者は、さらに声を落としてささやいた。
「そして、この声を聞いた人の多くが、金縛りにあっているのです……」
「ええっ!!」
 テレビに釘付けだった私たちは、仰天して顔を見合わせた。これまで、怖い話はいくつも見たり聞いたりしたが、金縛りにあうというものは初めてだ。

 一体、どんな声なんだろう……。

 ドキドキしながら次を待っていたら、外で「バリバリバリ」という原付のエンジン音がとどろいた。母が帰ってきたのだ。

 何でこんなときに!!

 鍵を開けて出迎えないと、またヒステリックにわめき出すと予想がついた。

 しっしかし、テレビが……。

「では、再生、スタート!」
 司会者がお構いなしに進めるので、姉も妹も動く気配ゼロだ。霊の声は聞きたいが、母の怒鳴り声は聞きたくない。こうなったら、さっさと鍵を開けに行き、一刻も早く戻るしかない。
 私はダッシュで玄関に向かい、鍵を開けて母を出迎えたあと、大あわてでリビングに戻った。が、一歩遅かったようだ。
 画面には、ゲストが恐怖に震える様子が映っていた。
 姉と妹は、「こわ~ッ!!」と悲鳴をあげて抱き合っていた。
 やがて画面はコマーシャルに変わり、私は肝心要の場面を見逃したのだと悟った。
 姉と妹が静かになったので、私は説明を求めた。
「……どうだった?」
「すごーく、怖かったよ~」
「『私にも聞かせて』って聞こえたんだよ!!」
 二人は思い出したように、「ひーッ」と叫んでつけ加えた。
「こんなに怖いんだったら、聞かない方がよかった!!」

 その夜からしばらくの間、姉と妹は並んで寝るようになった。
「一人じゃ怖くて眠れない!」のだと言う。
「一人で眠れる」私は、運がよかったのか悪かったのか、いまだにわからない……。



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コメント (22)
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