磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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D059.益虫

2005年11月16日 | 【小説】 レインボー...
V.あい色の部屋(虹の世界)

D059.益虫





「カールはそう思うのね。ええっと、そうだわ。蜘蛛って益虫って聞いたことがあるわ。でも、人間を食べたら、誰も益虫なんていわないわ」

「益虫か、それは智恵ある人間の考え方だね。益虫は人間の利益にかなうから、むやみに殺してはいけないというわけだ。日本では、毒のある蜘蛛なんて昔は住んでいなかったものねえー」

 貿易がさかんになり、温暖化とともに毒蜘蛛も日本で住むようになってきている。

 カールは、人間にもまともな人がいるんだなあーと思う。
 木の横には、ベンチが三つならんでいた。木々もよく手入れされているように見えた。

「ここは、どこかの公園ね」
 とユリカはあたりを見まわして言った。

 カールは「虹の世界の公園だ、ア・ハー」と笑った。
「そんなこと、わかっているわよ」とユリカはおそるおそる外に歩きだして行った。

 公園には、若いカップルがいたり、小さな子どもが三輪車に乗っていた。
 公園を歩きながら「ここの世界も地上と、かわりがないのね」とユリカは安心していた。

 カールは「そうかな。地上にだっていろんな世界があるだろうに」と、また年寄りじみた口調で言い、しまったという顔をした。ユリカに苛められないか、心配している。

 ユリカは「もっと、むこうに行こうよ」とカールを誘った。
「ああ」
 カールは、はうスピードをあげた。

 あんなに小さいのに、人間の早足くらいはスピードが出るのだとユリカは驚いた。
 公園の階段を登ると、ビル街が見えた。

「すごい、高層ビルがたくさんならんでいるわ」
 ユリカはおどろきの声をあげて、そしてカールを見た。

「ちがうよ。あれは、高層ビルとちがって、“超”高層ビルって言うんだよ」

「そうなの」
 力なくユリカは言った。そんなのどうだっていいじゃないのと思った。

「そうさ、“超”がつくんだよ」
 カールは威張っていた。

 気をとりなおしたユリカは、
「すごいってことでしょう」
 と笑った。

 カールは得意になっていた。ユリカは公園のむこうのビルを指さしいう。
「あのビルはツインビルって言うんでしょう。知っているわ」
「そうだよ」
「四十階くらいあるのかしら」
「そうだね」

「何階か、きいているのよ」
「“超”高層ビルだよ。とっても、高いんだよ」
 ユリカは、そうか! おチビさんのカールには、高層ビル、いいえ、“超”高層ビルの階数を数えることはやっかいなことなのねと思えた。

 そして、ユリカは、指をさしながら、
「一、二、三、……」
 ビルの階数を数えはじめた。

「あっ、また、まちがえた」
 カールは、ベンチで丸くなって眠った。ユリカは、
「62階か、すごいなー」
 もし停電してエレベーターが動かなくなったら、
大変だと思った。

 ここは東京のように冷たい鉄とガラスとコンクリートでできた街のように思えた。
 カールは「あ、あー、よく眠った」と言った。

 ビルの下を見ると、自動車が、道をレース場にして、走っているかのようだった。ユリカは、これじゃ、まるで東京だわと思った。

「あっちに行こうよ」とカールは言った。
 二人はビル街に行った。

 ビルの下にどこかで、見たことがある人を見かけた。
でも、浮浪者に知り合いなんかいないわとユリカは思った。

「右や左のだんな様」
 ユリカは、その声に聞き覚えがあった。

 ユリカは、その人に近づいて行った。
「王様!」
 親しみをこめて話した。

「この人が、王様」
 カールは首を横にした。





閑話休題

益虫は殺してはいけないと、
よく聞きました。

蜘蛛は殺してはいけない、
害虫を食べるからと、
習ったことがありました。

農薬を使用するということは、
益虫さえ、殺してしまうということ
らしいです。






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