V.あい色の部屋(虹の世界) D059.益虫 「カールはそう思うのね。ええっと、そうだわ。蜘蛛って益虫って聞いたことがあるわ。でも、人間を食べたら、誰も益虫なんていわないわ」 「益虫か、それは智恵ある人間の考え方だね。益虫は人間の利益にかなうから、むやみに殺してはいけないというわけだ。日本では、毒のある蜘蛛なんて昔は住んでいなかったものねえー」 貿易がさかんになり、温暖化とともに毒蜘蛛も日本で住むようになってきている。 カールは、人間にもまともな人がいるんだなあーと思う。 木の横には、ベンチが三つならんでいた。木々もよく手入れされているように見えた。 「ここは、どこかの公園ね」 とユリカはあたりを見まわして言った。 カールは「虹の世界の公園だ、ア・ハー」と笑った。 「そんなこと、わかっているわよ」とユリカはおそるおそる外に歩きだして行った。 公園には、若いカップルがいたり、小さな子どもが三輪車に乗っていた。 公園を歩きながら「ここの世界も地上と、かわりがないのね」とユリカは安心していた。 カールは「そうかな。地上にだっていろんな世界があるだろうに」と、また年寄りじみた口調で言い、しまったという顔をした。ユリカに苛められないか、心配している。 ユリカは「もっと、むこうに行こうよ」とカールを誘った。 「ああ」 カールは、はうスピードをあげた。 あんなに小さいのに、人間の早足くらいはスピードが出るのだとユリカは驚いた。 公園の階段を登ると、ビル街が見えた。 「すごい、高層ビルがたくさんならんでいるわ」 ユリカはおどろきの声をあげて、そしてカールを見た。 「ちがうよ。あれは、高層ビルとちがって、“超”高層ビルって言うんだよ」 「そうなの」 力なくユリカは言った。そんなのどうだっていいじゃないのと思った。 「そうさ、“超”がつくんだよ」 カールは威張っていた。 気をとりなおしたユリカは、 「すごいってことでしょう」 と笑った。 カールは得意になっていた。ユリカは公園のむこうのビルを指さしいう。 「あのビルはツインビルって言うんでしょう。知っているわ」 「そうだよ」 「四十階くらいあるのかしら」 「そうだね」 「何階か、きいているのよ」 「“超”高層ビルだよ。とっても、高いんだよ」 ユリカは、そうか! おチビさんのカールには、高層ビル、いいえ、“超”高層ビルの階数を数えることはやっかいなことなのねと思えた。 そして、ユリカは、指をさしながら、 「一、二、三、……」 ビルの階数を数えはじめた。 「あっ、また、まちがえた」 カールは、ベンチで丸くなって眠った。ユリカは、 「62階か、すごいなー」 もし停電してエレベーターが動かなくなったら、 大変だと思った。 ここは東京のように冷たい鉄とガラスとコンクリートでできた街のように思えた。 カールは「あ、あー、よく眠った」と言った。 ビルの下を見ると、自動車が、道をレース場にして、走っているかのようだった。ユリカは、これじゃ、まるで東京だわと思った。 「あっちに行こうよ」とカールは言った。 二人はビル街に行った。 ビルの下にどこかで、見たことがある人を見かけた。 でも、浮浪者に知り合いなんかいないわとユリカは思った。 「右や左のだんな様」 ユリカは、その声に聞き覚えがあった。 ユリカは、その人に近づいて行った。 「王様!」 親しみをこめて話した。 「この人が、王様」 カールは首を横にした。
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