川井龍介さんは、「国力が弱まった今こそ、日系社会との連携が1つのポイントであるとする論文を発表された。
参考になるため、3回にわたり記す。
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毎年秋、海外日系人大会(主催:公益財団法人海外日系人協会)が都心で開かれている。各国の実情を報告し合い、国際交流、国際理解を深めることを目的に世界各地の日系人が集まる。
その大会に関連して海外における日本語新聞など日本語メディアの関係者が集まる海外日系新聞放送大会も毎年開かれている。
この放送大会で「日系社会との連携を図ること」を通して日本のよさを世界に発信する必要があるという講演が行われた。
講演したのは、公益財団法人フォーリン・プレス・センター(FPCJ)理事長、赤阪清孝氏。FPCJは、日本新聞協会と経団連の共同出資により1976年に設立。外国メディアの日本取材や、日本から外国へのメディアを通じた情報発信を支援を使命としてきた。赤阪氏自身はブラジル、サンパウロで日本国総領事の職歴をもつ。
講演では、国の置かれた厳しい状況を確認したうえで、本来の自国の強みを十分外に向かって発揮できていないという観点から「日本からもっと世界に向けた情報発信を」というテーマで赤阪氏が訴えた。
以下、同氏の講演内容を紹介したい。
まず、「国力の勢い」について、人口、国内総生産(GDP)、政府開発援助(ODA)予算、国連への分担金、海外留学生の数などを例にとって、主要国と比較したときの低下を説明する。
海外留学生については、さきごろアメリカ国際教育研究所(IIE)による報告書から日本のメディアが紹介している。それによると、2011年秋から12年春までの学期でアメリカの大学・大学院で学ぶ日本人学生は前年から6%減って約1万9900人で、1990年代後半と比べると半分以下になった。一方、中国留学生の数は約19万人にのぼるという。
「過去十数年間で日本のアメリカにおける留学生の数はずっと下がっている。若者の内向きな面の表れかもしれない」と言う。
つぎに政府広報予算については、2006年度は100億円だったのが12年度は43億円と半分以下になっている。さらに「日本への関心」という点でいくつかデータを挙げている。
外国人から見た日本への関心が減少していると推測される事例だ。例えば、在日外国記者登録証の保持者と機関の数を見ると、1991年は保持者515人、機関337だったのが、2012年はそれぞれ309人、189とかなり減少している。
これは国際的にみて、ビジネスとしてのメディア界の力の衰えもあるだろうが、北京在住メディアの数を見ると、2004年は210社だったのが11年には356社と急増している。
欧米主要4メディア(ニューヨークタイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、ロイター通信)の報道数をみると、昨年は東北大震災の関係で日本関連が前年から急増したが、過去十年ほどを見ると、中国関連が増加しているのに対して、日本関連は、横ばいあるいは減少傾向にある。
こうした現状を踏まえて、赤阪氏はつぎに「日本からの情報発信」について触れ、まず「政治、経済、社会、文化などに関する海外向け報道のための日本の努力は、米、英、仏、独、中国などに比べて十分でない」と結論。「受信能力には優れているが、発信能力には必ずしも強くない多くの日本人」という榊原英資氏の言葉を引き合いに出す。
日本のメディア自体のあり方についても、マーティン・ファクラー(ニューヨーク・タイムズ東京支局長)の言葉を紹介し、その閉鎖性を示唆している。
「日本の記者クラブからは、これまで幾度となく取材の“ジャマ”をされてきた」、「記者会見を密室に閉じ込めようとした当事者が、体制側でなく日本のジャーナリスト本人だったというのだから暗澹たる気分になる。いったい日本の記者クラブメディアは、だれのために存在しているのか」・・・。