龍の声

龍の声は、天の声

「NPO法人Homedoor (ホームドア)①」

2022-11-16 07:22:05 | 日本

ホームレス状態を生み出さない日本にするために!


・団体名 認定NPO法人Homedoor (ホームドア)
・VISION ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる
・設立 2010年4月
・活動内容 ホームレスの人をはじめとする生活困窮者への就労支援、生活支援
・ホームレス化予防事業
・ホームレス問題に関する啓蒙活動

・連絡先 〒531-0074
大阪府大阪市北区本庄東1-9-14(アクセス)
TEL : 06-6147-7018 (電話応対時間:平日11:00~18:00)
Mail :info@homedoor.org

・スタッフ 運営 スタッフ 11名(内、フルタイム7名)
・おかえりキッチン スタッフ 7名(内、フルタイム1名)
・就労支援を受けている従業員数 20名(のべ200名)

理事 川口 加奈
松本 浩美
竹原 啓二 (株式会社フューチャー・デザイン・ラボ 代表取締役会長)
岩田 真吾 (三星グループ 代表取締役社長)
監事 杉浦 元 (株式会社エリオス 代表取締役社長)


◎川口 加奈(認定NPO法人Homedoor 理事長)

14歳でホームレス問題に出合い、ホームレス襲撃事件の根絶をめざし、炊出しなどの活動を開始。
19歳でHomedoorを設立し、シェアサイクルHUBchari事業等で生活困窮者ら累計4000名以上に就労支援や生活支援を提供する。
Googleインパクトチャレンジ グランプリ、人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣賞等を受賞。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2022/3)に出演。
大阪市立大学卒業。
1991年 大阪府高石市生まれ。
著書:「14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」(ダイヤモンド社)


◎中学2年で出会った「ホームレス問題」

東京の山谷、横浜の寿町と並ぶ日本三大ドヤ街の1つが大阪の釜ヶ崎である。ドヤとは「宿(やど)」の逆さ言葉で、日雇い労働者が寝泊まりする簡易宿泊所が立ち並ぶ場所をいう。川口加奈氏は、ある日曜日、釜ヶ崎の公園で、そうした宿にも泊まれないホームレスの人たちにおにぎりを配る炊き出しというボランティア活動に参加していた。2005年、当時14歳の中学2年生。

きっかけは電車通学の帰途ふと目にした光景だった。ホームレスの人たちが整列し、何かをもらっていた。家に帰り、ネットで、釜ヶ崎のこと、日雇いのこと、その仕事さえない人たちがホームレスになりやすいこと、そして、炊き出しのことを知る。百聞は一見に如かず。部活に行ってくる、と母親には嘘をつき、足を運んだのだ。

川口氏が振り返る。「小学生の頃から読書が好きで、『はだしのゲン』『ガラスのうさぎ』など、戦争の悲惨さを描いた物語にはまっていました。ちょうどイラク戦争が起き、生まれる時代や国が違っていたら、自分も同じような悲惨な目に遭っていたかもしれないと。将来は国際協力機関で働きたいと思っていたのですが、通学路の近くに貧困状態の人がいるなんて、夢にも思いませんでした」

そのときから16年の歳月が流れた。大学生のときに立ち上げた、ホームレス状態からの脱却を支援するHomedoorは現在スタッフ11名を擁し、18室ある個室型宿泊施設とカフェを運営している。これまでに就労や生活支援を提供した困窮者は3000名以上。だが、ここまでの道は決して平坦ではなかった。川口氏の奮闘を振り返ってみたい。

時計の針を中学校時代に戻す。ホームレスのことを知りたいという欲求は一応満たされた。次に感じたのは「責任」だった。知ったなりの責任を果たさねば。担任教師に交渉し、全校集会で、ホームレス問題について徹夜で書き上げた作文を読み上げたが、友達は皆、爆睡していた。

その約1年後、中学3年生になったときのことだ。学校のボランティア部に入っていた友人が、ホームレスの人たちに弁当を配る夜回り活動に参加するという。川口氏は急遽、入部し、当日を迎える。「あるおっちゃんに弁当を渡すと、自分こそ路上生活で寒いはずなのに『寒いから風邪ひくなよ』と逆に私を気遣ってくれた。普通のおっちゃんだ、と思いました。いたずらによる襲撃や凍死、餓死が隣り合わせで想像以上に過酷な現実を知りました」

学校は中高一貫校で、高校2年でボランティア部の部長に。ある日、学校の掲示板に張られた、中高生のボランティア活動を応援する賞のポスターが目に留まる。受賞すると15万円の活動資金が授与され、親善大使に選ばれると、米国ワシントンD.C.で行われる表彰式にも招待されるという。これはやるしかない。運よく、応募総数約3000件のなかから2名の親善大使のうちの1人に選ばれる。

現地では各国の同世代の親善大使の話に圧倒された。川口氏が英語で自分の活動について発表すると、アイルランドの親善大使の子から「あなたの活動でホームレス問題にどんな変化があったのか」と言われ、はっとする。「私の活動前と後とで問題は何も変わっていませんでした」

これまでの取り組みは、対症療法にすぎず、問題の根本的解決につながっていない……。川口氏は頭をゼロ状態にし、「夢の施設」を絵に描いてみた。ホームレスの当事者が休める個室、食事がとれるカフェ、職業訓練が受けられる教室、クリニックが並び、真ん中に公園がある。そんな絵だ。


◎仲間にけしかけられHomedoor設立

Homedoorは大学2年時に生まれた。先のボランティア賞の活動で知り合った男子大学生K君にけしかけられたのだ。「当時の私はホームレス問題とは少し距離を置いていました。それを見かねた彼が、『大使に選ばれたのにもったいない。このままでいいのか』と問いかけてきたのです」

川口氏は力不足を実感していた。大学時代は知見を広め、社会人を経験した後、30歳くらいで再びこの問題に取り組みたいと告げると、こう反論された。「今のうちから始めることで、足りない能力を把握し、社会人になって補う方がずっといい」

言い返せなかった。K君は社会起業について勉強しており、ビジネスの部分を自ら担当してくれるという。しかも、自分の友人、Aちゃんという女子学生もメンバーとして連れてきた。

K君はNPO法人が主宰する社会起業塾への応募を提案した。通ると、起業の仕方を学べるだけではなく、支援金30万円とパソコンを提供してもらえる。悩みに悩んだ団体名は「駅のプラットホームからの転落事故を防ぐホームドア、設置始まる」というニュースに触発され、そうつけた。「家のようにくつろげる居場所を提供する入り口であり、人生からの転落防止装置。2つの意味を込めました」

最年少で見事、塾に合格。「ニーズの代弁者たれ」を叩き込まれ、知り合いのつてで、釜ヶ崎のカフェで朝7時から10時までの「モーニング喫茶」を始めた。客としてやって来るおっちゃん(川口氏は当事者の人たちをそう呼ぶ)と仲良くなり、本音を聞き出そうとしたのだ。

だが、K君がそのモーニング喫茶の当番に度々遅刻するばかりか、塾から出された宿題もサボるように。とうとうHomedoorから離脱してしまう。

そんなとき、川口氏はホームレス問題の根底に「失業」があることに改めて気づく。そうであるならば、仕事を作ればいい。

得意な仕事なら苦もなく取り組めるだろう。おっちゃんたちに聞き回ると、空き缶回収に使うための自転車の修理という声が上がる。

真っ先に頭に浮かんだのが放置自転車問題だ。

「放置自転車を使ったシェアサイクルをやろうと思いました。貸し出しや返却、修理やメンテナンスといった仕事がおっちゃんたちに生まれる。自治体は問題が解決し、利用者は安く手軽に移動できる。パズルのピースがはまった気がしました」


◎もう1人の仲間も去り、独りぼっちに

しかし、ここにまた壁が立ちはだかる。シェアサイクルの拠点設置の相談に役所を訪れたが、たらい回しにされ、前に進まない。ビルやカフェ、ホテルなどの軒先を借りられないか、企業も回ってみるが、色よい返事が返ってこない。

そのうち、足りないのは実績だ、と気づく。「実証実験のため1週間だけ、置かせてほしい」という言葉が殺し文句となり、4カ所のビルが快諾。サービス名もHUBchari(ハブチャリ)と決まり、気持ちも高揚していたところ、今度はAちゃんが「辞めたい」と言ってきた。大学3年生の夏休み前で、「やはり就活をしたい」と。川口氏は「一緒にやろうよ」とは言えなかった。

「私の心も揺れ動いていました。でも、ここで辞めたら、厳しくも温かいアドバイスをくれる起業塾の人に怒られるだろうと。続けるより辞める方がしんどかった。気づいたら、1人でもやり切る覚悟が芽生える一方、本当に必要な人しか仲間に入れたくないとも考えるようになりました」

実験は成功し、メディアでも取り上げられ、廃業予定のホテルが場所を貸してくれることになった。事業がスタートできる。NPO法人Homedoorが晴れて誕生する。2011年10月のことだ。おっちゃんも雇った。5年前、おにぎりを配っていた少女が、仕事を提供する立場になったのだ。

HUBchariは2012年4月にスタートし、市内4カ所にすぎなかった拠点は、現在はドコモ・バイクシェア社と提携し、300に及ぶ。

Homedoorでは現在、次の5ステップで当事者を支援している。
・まず、「届ける」。
当事者の多い現場を巡回したり、ネットカフェやコンビニなどにチラシを置き、駆け込み寺としての自らの存在を知ってもらう。
・そして、相談に来てくれた人の「選択肢を広げる」
が次の段階だ。悩みを聞き取り、対処策を提示する。住まいがない人には本部の上にある無料の個室型宿泊施設に泊まってもらう。
・3つ目が「暮らしを支える」。
本部では宿泊者以外も、食事や洗濯、団らんをすることができ、健康相談会も実施する。
・4つ目が「働くを支える」。
HUBchari事業のほかに、企業や行政と提携し、清掃、マンション管理、駐輪管理といった業務を受託しており、希望者が働ける。チラシ折りといった内職業務も用意され、企業への紹介も行う。
・最後が「再出発に寄り添う」。
仕事を得、お金もある程度貯まり、居宅生活に移行する際、行政窓口への同行や不動産屋での物件探し、引っ越しや荷物運搬のサポートを行う。

川口氏は肩の力が抜けた自然体で、言葉を一つひとつ選びながら話す。おっちゃんたちから信頼を得ているのも人柄によるところが大きいはずだ。

それにしても、キツい仕事である。やっていてよかったと思う瞬間を尋ねた。

「ここでの仕事は私にとってもう日常の一部です。普通の会社に勤めている感じ。ただ、うちを卒業するおっちゃんが顔見せがてらお菓子を持ってきてくれる瞬間は嬉しい。私の好物のおせんべいだったらなおさらですが」











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