龍の声

龍の声は、天の声

 第6話「惜別、永遠の別れ」

2024-06-30 10:22:32 | 日本

残された貴重な時間を意義あるものに。そんな思いの一日だったような松本中尉は、テキパキと行動し、夜は「駒我家」の小父さん等に、お別れの挨拶をとのことで、「坊や、一緒に来いよ」と呼ばれ、私は一緒に駒我家へと向った。

お店は空襲の影響か閑散として、芸奴連中のお姉さん達も談笑にふけりながら、手持ちぶささにたむろしていた。そこへ松本中尉が顔を出した途端、こぞって驚いた様子で、今日は来る日じゃないのに・・。来るべきときが来たことを、皆、感じていた。
しばらく奥の部屋で叔父と語り合っていたが、松本中尉馴染みの美和子の案内で、奥の四畳半の部屋へ通された。

松本中尉はあぐらをかき、うつむいて貧乏揺すりをし・・。しばらく沈黙が続き、やっと口を開いた。「俺・・、俺・・、明後日、飛ぶことになった・・。」と言った途端、美和子は畳にうつ伏して、大声を上げ、体を震わせ、泣き叫んだ。私はここに居るべきではないと、ソッとラムネを片手に抜け出した。日ごろからおとなしい芸奴と言われていた美和子さん。その狂乱ぶりには周りが驚いていたようだった。

男と女。相寄る二つの魂。結ばれることのない束の間の愛。外では、しとしとと無常の雨が円窓を濡らしていた。