全英女子オープン・ゴルフがはじまった。今年で31回を数えるのだという。宮里藍が好調に発進していて、今後の展開に期待がかかる。先日の参院選で見事当選した「さくらパパ」も現地入りして、娘の横峯さくらに指示をあたえるなど、当分テレ朝の放送からは目が離せない。
舞台は聖地セント・アンドリュース。このコースの攻略には「創造力」が必要だと語ったのは、過去2度全英オープンの優勝経験をもつタイガー・ウッズである。Links ( リンクス=海岸近くのゴルフコース)特有の風は、ボールの行方をかく乱し、波打つようなウェアウェーからは、ピンの位置が見えない。
私は、英国の鱒釣りと英国のゴルフをリタイア後の「やりたい事リスト」に挙げているのだが、夢の実現に使う道具として、釣りはハウス・オブ・ハーディーのオールド・タックル、ゴルフはヒッコリーのクラブと密かに計画している。
丁寧に整備され、いかにも人工の美を演出する多くのゴルフ場と異なり、セント・アンドリュースは、まさしく荒野である。ゴルフ発祥の舞台を思わせる荒涼たる風景は、激しい風が似合い、低く立ち込める灰色の雲が似合う。
セント・アンドリュースの光景に触れるたびに、私はT.S.エリオットの「荒地」を思い出す。
四月は残酷極まる月だ 、というフレーズで始まるエリオットの代表作。アメリカの生まれながら、後に英国に帰化した詩人である。西脇順三郎の翻訳で知られる本作も、エズラ・パウンドとの推敲を重ねる前のタイトルは「荒地」ではなく、「彼は様々な声色で警官の真似をする」という変わったものだったらしい。
エリオットの作品の中で変わったタイトルと言えば、次のように奇妙なものもある。「キャッツ=ポッサムおじさんの猫と付き合う法 ( Old possum's book of practical cats )。これはミュージカル「キャッツ」の原作で、エリオットが書き下ろした童話である。
「キャッツ」は世界のあちこちで観た。ウィーン、ハンブルク、ニューヨーク、東京では2回、そしてロンドンでは3回。音楽的にもっとも優れていたのはハンブルクの公演、印象に残ったのはウィーン。なにしろ劇場がテアトル・アンデア・ウィーンである。モーツァルトの「魔笛」が初演された劇場で、アンドリュー・ロイド・ウェーバーのミュージカルを観る贅沢さは一生忘れられない。
(写真はセント・アンドリュース)