ひろむしの知りたがり日記

好奇心の赴くまま
なんでも見たい!
知りたい!
考えたい!

「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (2)

2014年06月02日 | 日記
【第2章】 チャーリー・チャンの息子

ブルース・リーがハリウッド映画界入りするのは、1964年8月2日にロングビーチで行われた第1回国際空手トーナメントで披露したデモンストレーションがきっかけでした。
大会にはハリウッドでも有名なヘア・スタイリストのジェイ・セブリングが見に来ていました。彼はブルースの功夫に強い衝撃を受けます。美容室のお得意さんに、「バットマン」(BAT MAN)のプロデューサーをしているウイリアム・ドジエがいました。ウイリアムが中国人刑事ものの新シリーズ「チャ-リー・チャンズ・ナンバーワン・サン」に出演できる役者を探していると話していたのを思い出したジェイは、主催者のエド・パーカーから大会のフィルムを借りて、20世紀フォックスのスタジオでウイリアムに見せました。それを見たウイリアムもブルースの動きに感銘を受け、彼にスクリーン・テストを受けさせます。
この時のフィルムはのちに、TV版「グリーン・ホーネット」を再編集して作られた劇場版が日本で公開された時に、短編映画として併映されました。24歳の若きブルースが功夫について語り、実演してみせる貴重な映像で、これを見られたことによって、本編ではあくまでもサブキャラであるブルースのアクションを十分に堪能できなかったファンの不完全燃焼感も、いくらかは癒されたものです。
余談ですが、連続短編映画版でカトーを演じたケイ・ルークは、かつてチャーリー・チャンの息子役をやったことがあります。彼は後年ブルースが主演を熱望したTVシリーズ「燃えよ!カンフー」で主人公の師匠に扮しており(『「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(1)』参照)、もし、ブルースの願いが叶っていたら、新旧カトー夢の(?)共演が実現していたことになります。これは、ぜひ見てみたかったものです。
「ナンバーワン・サン」の企画は残念ながら流れてしまいますが、ドジエはブルースの起用にこだわり、「バットマン」の後に続く連続TVアクションに使うことを決めます。かつてケイ・ルークが演じていたカトーに武術の達人という設定はありませんでした。カトーが単なる優秀な助手から、腕っぷしも立つ頼もしいパートナーへと進化したのは、ブルースの配役あってのことだったといえるでしょう。

【第3章】 シリアス過ぎたTV版「グリーン・ホーネット」

「バットマン」を制作したグリーンウェイ・プロと20世紀フォックス・テレビジョンが手がけた「グリーン・ホーネット」は、1966年6月6日に収録が開始されました。そして同年の9月9日、ABCテレビで金曜午後7時30分というゴールデンタイムに放映がスタートします。日本でも1967年1月17日から放送されました。
主人公グリーン・ホーネット(ヴァン・ウイリアムズ)が相棒のカトー(ブルース)と、さまざまに秘密の仕掛けを凝らした黒い車「ブラックビューティ」を駆使して悪と戦うという設定は、バットマンとロビン、そしてバットモービルの関係とたいへんよく似ています。そういった背景から、ウイリアム・ドジエがこの作品を「バットマン」の後番組に持ってきたのは十分うなずける話です。
デイリー・センチネル新聞社と同テレビ局を経営するブリット・リードは、一度事あればビジネス・スーツに青緑のマスク、手袋、灰緑のソフト帽という出立ちのグリーン・ホーネットに姿を変えます。普段は白シャツに黒い蝶ネクタイという執事風スタイルのカトーも、立ち襟のスーツにいかにも運転手らしい制帽を被り、やはり青緑のマスクという格好でブリットに従います。2人はブラックビューティに乗り込むや、ブリット邸の地下に設けられた秘密基地から事件現場に向かって颯爽と駆けつけます。
ブリットは状況に応じて、敵を傷つけずに倒す「ホーネット・ガス銃」や、相手の凶器を一瞬にして破壊する威力を持つ「ホーネット・ステッキ」といったハイテク武器を用い、素手で闘う時は、もっぱら敵を拳で殴りつけます。カトーはブリットとは対照的に、拳銃を持った敵に対しては竹で作った手製の投げ矢を素早く投げつけて動きを封じます。時にヌンチャクを使うこともありますが、彼の最大の武器は何と言っても強力なキックです。変幻自在に繰り出される彼の蹴りに、相手はなす術もなく打ち倒されていきます。
ブリットが饒舌に喋り、相手に脅しをかけたり駆け引きをしている間も、カトーはほとんど口をきかず、ただ黙々とそばに寄り添ってブリットを守ります。彼は機敏にして冷静で、悪人たちを退治し終え、ブリットが悠々と現場を立ち去った後に1人戻り、床に倒れている悪人の中に、まだ意識のある者を見つけるとすかさず蹴りを入れ、完全に気絶したのを見届けてから、その場を後にするという周到さを見せたりもします。

              
              劇場版のDVD「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット」

「バットマン」に続くヒット・シリーズになることを期待されて始まった「グリーン・ホーネット」でしたが、わずか1クール(全26話)で終了してしまいました。失敗の原因は、意外にも現代社会を反映させたシリアスな作品を作ろうとしたことのようです。1960年代当時は、まだまだ娯楽性の高い現実離れしたドラマの方が受ける時代でした。斬新なものを作ろうとした制作者側の意気込みが、空回りしてしまう結果となったのです。
「グリーン・ホーネット」には、「バットマン」に出てくるジョーカーやキャット・ウーマンのような荒唐無稽な悪役キャラは登場せず、街に巣食うギャング団や密輸組織など実際にいてもおかしくない凶悪な犯罪者たちが相手でした。また、第11話「人間狩り」に出てくる、社会の裏側で暗躍する者たちをターゲットに抹殺を繰り返す秘密組織の殺人リストに名があったことからもわかるように、世間の目からはグリーン・ホーネット自身も犯罪者と見なされる、いわゆるダーク・ヒーローであり、純然たる正義の味方として位置づけられなかったことも、人気を獲得できなかった要因だったといわれます。
こうして短命に終ったTV版「グリーン・ホーネット」ですが、やがてブルース・リーが世界的なスーパー・スターとなったことによって、闇の底から浮かび上がることになります。次回はそのことに触れたいと思いますが、まずその前に、「グリーン・ホーネット」と違って最初から日の目を見ることができたもう1つの幸運な仮面ヒーローもの「バットマン」との間に企画された、コラボのエピソードから話を始めることにしましょう。


【参考文献】
スクリーン・デラックス『ブルース・リー伝説』近代映画社、2002年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年
関誠著「「グリーン・ホーネット」魅力の源泉はブルース・リーにあり!」『キネマ旬報』2月上旬号
 キネマ旬報社、2011年
ポール・ボウマン著、高崎拓哉訳『ブルース・リー トレジャーズ』トレジャーパブリッシング、2014年


最新の画像もっと見る

コメントを投稿