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埼玉県比企郡嵐山町の記録アーカイブ

化けものの 栗原正敏 1928年11月

2009年09月26日 | 栗原正敏(日記、作文)

   化けものの  昭和3年(1928)11月10日
           第3学年乙組18番 栗原正敏
  化物の正体見たりかれ尾花 横井也有(よこいやゆう)*
 村の社に祭あり、余興ありといふ。出ることのきらひでない僕は、明日の試験をも一点のくもりまなく十五夜の月のようにからりと忘れ、見物にぞ行く。
 田舎の祭はなかなかに面白い。あまりに広くもない社の庭は老幼男女が一ぱいだ。
 若き男女の行き交ふもあり、子どもの手を引いた老人もある。余興も村人がやること故、面白さも一しほ加はる。
 面白さのために時のたつのも忘れて十二時近くになった。其の中、明日の起床時間が気になり出した。
 然し人々はまだ帰らない。僕の家の近くの人にはまだ帰りそうな顔をしてゐる人はまだ一人もゐない。
 帰るのをさそうわけにはいかない。が、帰りたいと思ふともうたまらなく眠たくなる。然し一人で帰るだけの勇気はない。その中にねむけはさす。とてもたまらない。
 思い切って社を出た。あれ程のにぎやかさも社の石段を降りるとしんとしてしづまりかへってゐる。
 僕の臆病神はそろそろと出現し出した。路もよくは見えないくらいの暗さである。僕はずんずんと急いできた。
 と道傍にちらりと動いたものがある。化物だ。僕の神経はさえた。が、どうも化物にしてはをかしいとよくよく見るとなんのことだ。かれたすすきであった。それを見てからはびくともせずに家に帰った。

*1702年(元禄15)-1783年(天明3)。尾張藩の武士、国学者、俳人。俳文集『鶉衣』(うずらころも)。「化物の正体見たり枯尾花」「枯れ尾花」は、枯れたススキの穂。
  参照: 竹内睦夫さんのHP『俳句の森』「横井也有
   HP『
小さな資料室資料282 横井也有「奈良団賛」
   HP『名古屋なんでも情報27 横井也有-鶉衣の世界



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