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埼玉県比企郡嵐山町の記録アーカイブ

緊縮 栗原正敏 1929年9月

2009年10月02日 | 栗原正敏(日記、作文)
   緊縮  昭和4年(1929)9月18日
       第4学年乙組14番 栗原正敏
 時、現代。場所、中学校の蹴球部脱衣場。登場人物、部員数名。
 なんだかこう書くと、劇みたいになってしまふが、何んにしても数名が雑巾の切れ端みたようなものの固りを前に置いて話し合ってゐる。よくよく見るとユニホームらしい。らしいではない。歴史あるユニホームである。破れた仲にもあの〈中〉だけはさんぜんとして光り輝いてゐる。して其の論題は如何。論題は言はずとも知れたる緊縮である。
 或者曰ク。「ずいぶん破れたなあ。これでは改造の時期にあるな。」此の言も無理はない。ユニホームとは名だけ。ずゐぶんとよく破れてゐるのである。又或者曰ク。「馬鹿言ひ。今は緊縮の世の中ではないか。」「然しいくら緊縮でもこれではなあ。」亦一人言ふ。「これでは試合が出来ないや。」亦言ふ。「なあにかまふもんか。その敗れたユニホームを着て、胸に緊縮中学とでも書いた布をはれば大したもんだぞ。」こう言ふ馬鹿にえらい君子もある。
 以上は少し軌道をはづれてゐるかも知れぬ。然しだ。世の中の人、皆此の君子の如き心掛けを持ったならば、今日の「経済問題」などは早速解決出来得ると思ふ。緊縮、緊縮。私が此の語について今更説明する迄もないと思ふ。現内閣もモートウとして進んで居られる。私は真に現内閣の緊縮政策に同意する。
 私は最後に言ふ。諸氏よ緊縮せよ。


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