里やまのくらしを記録する会

埼玉県比企郡嵐山町のくらしアーカイブ

編集後記 大塚基氏 1994年

2011-01-25 21:36:11 | 七郷中学校

 三十余年前の中学一年一組の女子(紛失したのか全員ではないようです)の夏休みの宿題としての作文集がみつかりました。
 当時、この作文を書いた十三名の者は、まさか三十余年を越えて、作文集として発行されるとは思いもよらなかったことと思います。
 しかし、その作文の中から家族のしっかりとした結びつきと、仕事の大事さを学びながら、自然と調和した子供達の生き生きとした様子が読み取れ、心を打つものが感じられます。
 また、この作文の中にある生活そのものが、長い間かかって築き上げた日本の文化そのものであったような気がします。
 そこで今、時代が違うと言う言葉で捨てられようとする、ちょっと前の生活の中で、子供達が何を考えながら過ごしていたのかを振り返り、果たして何が幸せなのかを考える材料にできればと思いこの作文集をまとめてみました。
 そして、発展という言葉の裏側で寂しく消えようとする、農村の心の香りを、一人でも多くの人に嗅いでいただき、かみしめていただけたら幸せに思います。
   1994年12月17日
    嵐山町柔道会七郷柔道場創設20周年を記念して
                        大塚基氏

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


13 草取り 七郷中学校一年一組 えつこ

2011-01-24 21:33:00 | 七郷中学校

 今日は桑畑の草取りだ。朝早くから桑畑にいって草を取りはじめた。
 あさ早くから畑にでて、仕事をすることはなんと気持ちがいいのだろう。朝早く起きてだれも吸っていない空気を、一人でのびのびと吸う気持ちはなんともいえない。胸の中にたまっていた、悪い空気をはくことはなんと気持ちがいいのだろう。
 それに比べれば桑は可愛そうなものだ。草がうんとはえたため苦しいだろうなあ。その苦しそうな桑のひとさくを取ってやると、桑は、「ありがとう」と言っているようだ。しかし、桑のところにはえている草をとってやれば、それだけで桑は私に頭をさげてお礼を言っているようで一本でも早く草を取ってやりたい。しかし、だんだん疲れてきて遅くなる手が私はくやしくてならない。
 だが実際に私達が桑のような気持ちになって、桑がいきいきとして、ぐんぐん伸び育つことを考えながら、一本でもいいからよけいに草をむしってやりたいとおもう。
 自分達の実際の例をあげれば、私がある人にお金を借りたとする。その人はもう長く貸したのだから、ここいらで*1返して貰いたいと言うでしょう。でもその時ちょうど病人がでてお金を払わなければならない。借りた人にお金が返せないので、すまないが、幾日かお金を返すのをのばしてくれとたのむ。その人がその家のようすをみて、それでは可愛そうだと思い、いくにちかのばしてもいいと言ってくれればその家は助かる。だから私達が桑畑の草取りをしてやれば桑も伸び伸びする。これと私は同じだと思います。
 実際に桑はもう草が大きくなって少しの風も入らなくなり、日光も入らず、本当にこれでは桑は枯れてしまいそうです。ですから、私達が朝早くにおきてもんぺ*2をはき、長袖を着て、顔にはてぬぐいをまいていくわけですが、でもこの姿でいぐと*3蚊もびっくりしてにげてしまって蚊にもさされず仕事もはかどるけれど暑くて仕方がない。
 今日は自分で早く起きて草取りです。その取った後を見てもすがすがしく感じ、草をとりきるまで私は手を休めなかった。手を休めずにしていたら、もう太陽がでてくるまでには取り終わった。その取り終わった桑畑を上から見おろすと、いままでとはちがってみんないきいきとしている。私は、「やっときれいになった」とひとり言をいいながら顔の汗をふいた。
 私が家に帰るときも、まだだれも通らなかった。私は、これで桑がどんどん伸びるだろうと思いながら、我が家の方へ帰っていった。その後から日の光もうれしそうに、私をてらしながらついて来るようだった。

*1 ここいらで:この辺で
*2 もんぺ:作業ズボン
*3 いぐと:行くと

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


12 約束 七郷中学校一年一組 みちこ

2011-01-23 20:44:05 | 七郷中学校

 私は毎日毎日桑つみをしていた。そして父が、「みちこ、今年はよく桑つみをしたから、花火の時に家中そろって花火を見に行くか。」といつも言っていた。
 いよいよ花火の日になると父は、「今日はつごうが悪くなってしまった」と言うのでいけなくなってしまったので、私たちは縁側にでて、みんながバスのていりゅう所でバスを待っているのをうらやましそうに見ていた。
 そこへ洗濯をすました母がきて、「あんなに良くやくそくしたんだから父ちゃんの都合が悪くても母ちゃんが連れていくよ、今日は投げ市でにぎやかだから。」と言ったので大よろこびでしたくをして出かけて行った。
 バスのていりゅう所で待っていると、まもなくバスが来た。バスの中はとてもきゅうくつでした。まもなくバスは大橋の上を通りかけた所でちょっとゆるく走りかけた。私達は駅まで行かずに*1途中で降りてしまった。
 そして投げ市へ行って見たら目のくらむほど、いろいろな物がとても安いねだんで売っていた。どの人もみんな汗びっしょりで売っていた。買う人も一生懸命いいのを見つけようと、一生懸命かきまわしている。
 「さあいらっしゃい、さあいらっしゃい」と声のかれるほどどなって売っている人もいた。やがて買い物をすまして八木橋*2に行った。一階、二、三、四階の上は屋上だった。子供のおもちゃや自転車や洋服やいろいろな物がたくさんならんでいる。お菓子売り場もある。
 そして、婦人の洋服を売っている所へ来たら、まどごしに人形の人*3がいろいろな服を着てならんでいる。妹の紀代子は、「母ちゃんあんないいふくを着た人がたくさんいるよ。」と人形をほんとの人とまちがえてしまった。守秋は、子供のおもちゃ売り場へいって、「母ちゃんよ、ほんとにこのロボットは動くのかな。」と夢見る気持ちでききました。母ちゃんが、「ほんとに動くよ、ほら、ここんとこにねじがあるだんべー、ほこんとこ*4のねじをまくとガチャガチャ動くのだろう。」といろいろ説明してくれた。
 やがて四階を通りぬけて屋上へあがった。熊谷の街がひと目で見わたせる。まったく私も、熊谷がこんなに広い所だとは思っていなかった。「まったく熊谷は広い町だなあ」とつくづくと思った。とたん、紀代子がとても大きな声で、「あっ、ねえちゃん、汽車が見えるよ、どこへ行く汽車だんべ。」と言ったので、私は、「東京でも行くんだろう。」と知っているふりをしてうそを言ってしまった。それから食堂で昼食をしてからまた、「せっかくきたんだから一日あそんでいくべーや。」と言うので熊谷の町の景色を見ながら、ぶらぶらと熊谷の町の中を歩いていた。そのうち雨が降ってきたので、私達は急いですぐそばの菓子やさんで雨やどりをさせてもらった。やがて雨もあがったと思ったら、ぞくぞくと人がつつみの上にあがってくる。そのうちにきれいなはなびが続けさまにあがった。私は、「良くこんなきれいな花火が人の手で作られるものだ」と思った。
 けれどもあんまり遅くなるといけないので、六時ごろのバスでかえってきた。
 帰ってきてから母は、「さあ、これで母ちゃんと父ちゃんはお前たちとの約束は果たしたわけだよ。」と明るく笑った。私も、「約束したことはちゃんと守るべきだ」と思った。

*1 行かずに:行かないで
*2 八木橋:デパートの名
*3 人形の人:マネキン人形
*4 ほこんとこ:ここのところ

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


11 ぶちの死 七郷中学校一年一組 きぬえ

2011-01-20 18:10:21 | 七郷中学校

 私の家には、ぶちと言う猫がいました。ぶちと言う猫は、毎晩一匹~三匹のねずみをとってくるえらい猫でした。毎晩ねずみを取ってきてじゃらしたり、かまったりしたことさえありました。ところが最近年をとって病気にかかって死んでしまいました。
 台風の夜のことでした。家中で夕飯を食べていると、後の方で「ニャーン」と言う声がしたので、私は後を見ました。すると、突然お母さんが食べるのをやめて、「あっ、ぶちがお勝手*1に上がろうと手足を延ばして、目をくりくりさせている。きぬえ、ぶちが上がれないから上がらしてやりな*2。」と早口で言ったので、お父さんやみんながたまげて、夕飯も食べずに見ている。私はすぐ夕飯を食べるのをやめて、ぶちをお勝手に上げました。ぶちは年を取っていたので体が弱っていたのでした。
 ぶちはお勝手に上がるのに疲れて、静かに目をつぶって寝てしまいました。
 食べ終わっておぜんをかたづけようとすると、お母さんが、「ぶちは弱っているのだから、静かにしておきなさい。」と言いました。私も、にいさんも、みんなそう思ったので静かにさせそいて*3やりました。
 そしておじいさんは、「こんなだからおじいさんはみんなより先に寝るよ。」と言って寝てしまいました。そして布団の中に入るとおじいさんは、「ぶちは良く働いたのにかわいそうだな。」と言いました。お母さんはお勝手もとのかたづけが終わると、「ぶちはかわいそうだ。」と言って、お母さんの前掛けの古*4を持ってきて、涼しかったのですいてやりました。静かに暖かそうに眠っています。
 そして、もうみんな眠ってしまって、私と、お母さんだけになってしまいました。「ぶちはかわいそうだ。」と言って、のりのかんずめをぶちの口のそばにおつけてやると、ぶちは目をつぶったまま少し食べてやめてしまいました。そして、私とお母さんも、「もう遅いから休むことにしましょう。」といって寝てしまいました。
 その翌朝、私がふと目を覚ますとまだ台風はやみませんでした。すると、なにか家の人が言うのが耳に聞こえてきました。「かわいそうだったなあ。」と言う声や、「よく働いたのにおしいことをしたなあ」と言う声がしたので私は「おかしいなあ」と思って、寝まきのまま飛び起きてみるとなんでもなさげなのです*5。お父さんやおばさんは、だまって蚕に桑の葉をくれていました。そして私は、「おかしいなあ」思いながら戸ぶ口*6をでるとすぐまえにぶちが死んでいました。私はぶちがかわいそうで胸がいっぱいになってしまいました。
 そして私は、「ぶちがとうとう死んでしまった。」というとお母さんがお勝手もとでご飯を炊きながら、「きぬえ、もう死んでしまったのだからしょうがないんだよ。」と言いました。私も、「それもそうだなあ」と思いました。兄さんも弟もぶちのいる近くにきて、「かわいそうだったなあ。」と何回も繰りかえして言いました。
 そしてお母さんが、「きぬえ、ご飯だからみんなを呼んできなさい。」といったので桑の葉をくれているお父さん、おばさん、それからおじいさんを呼んできました。そしてぶちを戸ぶ口の前においたままみんなと一緒にご飯を食べようとすると、ぶちのことが頭に入ってご飯が喉をとうりませんでした。私はご飯もろくに*7食べず黙ってみんなの食べるのを見ているだけでした。
 「家中で可愛がっていたぶちが死んでしまった。」とおじいさんが言いました。私はおじいさんに、「ぶちはいつ、どこにいける*8の。」と聞きました。そしたら、「そうだなあ、今日はかば山へいけに行くんだよ。」と言いました。お母さんは前の家に行くと、前かけの古いのを持って来ました。「きぬえ、この前かけでぶちを包んでおきなさい。」と言いました。私はすぐぶちを包もうと、すぐそばまでいくとなんだかこわい気がしてなかなか包めません。私はなんだかやな気持*9がしてならないからお母さんにたのみました。「それじゃお母さんが包むよ。」と言いました。私はお母さんが包むのをみていました。包み終わってから、今度は、こやしぶくろ*10に入れてなわでしばりました。
 私はお茶を飲んでいるおじいさんに、「おじいさん、ぶちを袋に入れてしばっておいたから、はかば山へいけて下さい」と言うとおじいさんは、「ああ、いけて来るよ。」と言いました。私は死んだぶちのことを、「ぶちはもうはかば山へいけられるんだよ。」と言いながら袋へ入っているぶちをなぜました。そして、おじいさんはとうぐわと袋に入っているぶちをかかえてはかば山へいけに行きました。
 そのあと家中で、「もうぶちは、はかば山に行ってしまった。」とそれぞれに言いました。「かわいそうながら、もう二度とはかば山から帰ってきないのだ。」と私はそう思いました。「かわいそうなぶち」私は一週間たっても、一ヶ月たっても忘れることが出来ませんでした。

*1 お勝手:台所
*2 やりな:やりなさい
*3 させそいて:させておいて
*4 古:古いの
*5 なさげなのです:ないようなのです
*6 戸ぶ口:家の出入口
*7 ろくに:いくらも
*8 いける:埋葬する
*9 やな気持:いやな気持
*10 こやしぶくろ:肥料を入れる袋

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


10 台風のくる日 七郷中学校一年一組 あきこ

2011-01-17 23:25:23 | 七郷中学校

 朝早く、私は、東の空を見たら空はどんよりとくもり、私におそりかかりそうな空もようです。空の黒さとうってかわった音楽が隣の家のラジオから流れ、私の家の前の花はゆらゆらと揺れ、私に、「あきこさん、一緒におどりましょう」とよびかけているようです。
 その時、隣の家のラジオが、「台風六号は紀伊半島の沖合を今とおっています。あさってあたりに関東地方に向かっています。どの家もご注意ください。」とゆって*1いました。私はなんだかこわくなり、ラジオを聞いたとたん家の中にとびこみました。
 ごはんを食べながら、「かあちゃん、となりの家のラジオが台風のことをいっていたようだからかけてもいい。」と言ったら、さっき隣のラジオが言っていたようなことをいっていました。そのうち雨がザーザーと降ってきました。母は小さな声で、「ずいぶん降ってきたなあ。」と言って空を見あげました。でもすぐやみました。母は、「おばあさんと一緒に桑つみにいってくる。」と言ってでかけました。
 私はなんだか怖くなりました。だって私が一人なのですもの。でもびくびくしながらもちゃんこ*2を洗ったり、ぞうきんがけをしたりしていました。私は台風のことを聞こうと思いラジオをかけたら、「台風は今だんだん関東地方にむかっております。ご注意ください。」といいました。私は心配でたまりません。また空を見あげました。空の雲は、「風をおこせ、雨をふらせろ、お前の家をたたきつぶせ。」と言っているようです。私はますますこわくなり、つい、「かあちゃん早くこうよー*3」と大きな声で、小さな子のように言ってしまいました。
 台風は去り、私の方*4は心配したわりには少しの被害で、あまりひどい被害はうけませんでした。私はよかったなあとおもい空を見あげました。空の雲は、白い尾を引いたような薄い雲でした。
 私はつい「よかった」と小さな声で言ってしまいました。

*1 ゆって:言って
*2 ちゃんこ:茶碗
*3 こうよ:来てください
*4 私の方:私の地方

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


9 花火 七郷中学校一年一組 とく

2011-01-13 23:18:35 | 七郷中学校

 私は、おかあさんと、けんちゃんと、きよさんと、おひろさんとで花火を見にいきました。おかあさんが、「ちちばし*1行く。」とゆったら、おひろさんが、「ちちばしのほが*2良く見えるだべ。」とゆった。「おねんだいのひさいさんの裏の畑でも見えるだんべー。」と私はゆった*3。私ときよさんとけんちゃんでばらばらかけていって、上あがったら良く見えるので、私は声をはりあげて、「良くみえるよ。」とゆった。そしてあがって見ていたら、あきよちゃんと、としこちゃんがかけてきて、「そこでも良くみえる。」とゆった。私は、「良く見えるよ。」とゆった。
 あきよちゃんが、「そこにゆかたを着ているのはだれ。」とゆうから、私は、「おれと。」ゆったら、「なんだとくちゃんか。」とあきよちゃんはゆった。私は、「あきよちゃんちちばしで見えた。」とゆったら、あきよちゃんが、「良くみえるよ。な、とこちゃん。」とゆった。おかあさんが、「あきよちゃん、ちちばし人いた。」ゆったら、としこちゃんが、「いるけど男ばかり。」とゆった。
 土手からとしこちゃんとあきよちゃんが、ぎゃぎゃゆいながら駆けて行った。
 そしたらおひろさんが、「ああゆう子*4はぎゃぎゃ言いながらゆくん*5がおもしれんだんべ。」とゆった。そしたらもこから*6まさいちゃんとやっちゃんが来た。そして土手あがって、まさいちゃんが、「やっちゃん、だまってろ、ひでこんち*7にきたから。」とゆうと、やっちゃんが、「うん。」とゆった。そしてひでこちゃんが、「まさいちゃんなんかきなかった。」とゆうのが終わるころ「ふふふ」と笑ってしまいました。私は、「まさいちゃん笑っちゃだめだな*8。」と言うと、「そんだって*9おかしんだもの」
 松と松の間から丸いものが出てきたと思うとぱんとはねる。みんなが、「今のはきれいだったな。」と、「わあ」とかんせいをあげる。ちちばしの方からも「わあ」と言うかんせいがこっちの方まで聞こえる。
 それから家に帰ってきたのが九時です。それから寝たけどなかなか眠れない。十時もしている*10。母や父や姉は、ぐぐといびきをかいて寝ている。私はまだ眠れない。そして花火が終わったとみえて、うちの前の県道を熊谷の方からバスやオートバイが帰ってきてうるさくて眠れない。
 でもそれからよく眠れた。

*1 ちちばし:場所の名
*2 ほが:ほうが
*3 ゆった:言った
*4 ああゆう子:あのような子
*5 ゆくん:行くのが
*6 もこから:向こうから
*7 ひでこんち:ひでこちゃん
*8 だめだな:だめだよ
*9 そんだって:そういっても
*10 もしている:にもなっている

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


8 花火 七郷中学校一年一組 みちこ

2011-01-11 23:52:43 | 七郷中学校

 私は、22日に母と妹と三人で花火を見に行きました。バスは満員でした。妹はバスに酔いそうになってしまいました。窓のそばにいったら酔いませんでした。
 私達は、バスから降りると仕掛け花火がよく見えるように橋をわたって向う岸に行きました。向う岸につくとすぐ始まりました。一番初めは打ち上げ花火でした。そら一面に広がってとてもきれいでした。だんだん見ていくうちに仕掛けが四つ終わりました。こんどは水中金魚です。荒川の水の中へ金魚みたいなものがたくさん浮かんでいます。前の方の人がみんな立ってしまったので見えなくなってしまいました。それで、後の方の人が大きな声を出しておこっていました。前の方の人は、人のことはかまわず自分さえ良ければ良いのだという考えかたと思うけれども、なんでも人をどかしても見れば気がすむのか、自分だけ良ければそれでよいのか。だれだか分からないけれど人に迷惑をかけるようなことはしないほうがよいと思う。
 水中金魚を見てから、道にあがって行こうとしたら人がたくさんいて通れなかったのできみよちゃん達と押し合って上にあがった。巡査が橋の上で見ている人にあぶないからどきなさいと注意していた。私達も橋の上で歩きながら花火を見た。そのうち、警察の自動車がサイレンをならして橋の上を通りながら、「今日、交通事故があったからあまり橋の上で見ないで下さい。」といった。私は、「どんな事故がおきたのかなあ」と思った。「人が死んだのかなあ、それとも軽症かな」と思った。事故に逢った人はかわいそうだなあ。
 橋の上で歩きながら見ていくうちに仕掛け花火がはじまる。みんな立ち止まってながめる。私がはやくバスのところにいこうと言ってもみんな平気で見ています。また仕掛け花火が始まるとまた立ち止まってしまう。私はそんなにゆっくり見なくてもよいと思う。
 打ち上げ花火が始まるとみんな空を見上げる。ドンと火の玉のように空に昇っていってはねる。はねるととてもきれいだ。仕掛け花火が九台終わってもまだ平気で見ている。十台終わった時はまだ橋のまん中だった。それから人ごみの中を急いで歩くのはたいへんだ。バスの所に来るともうバスはいっぱいだった。私は、「まだ立っているのかなあ、いやだなあ」と思った。みんなに仕掛け花火をいく台見てきたのか聞くと、八台見てきた時はいっぱいだったそうだ。
 帰りのバスもきゅうくつのを*1我慢をしてきた。古里の吉田入口で三十人ぐらいおりた。私はやっとすわれた。うれしかった。みんなもすわれた。
 農協の所へつくと迎えに来ていた人もいた。私達はどの仕掛け花火がよかったかを話しながら家に帰った。

*1 きゅうくつのを:きゅうくつなのを

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


7 仕事 七郷中学校一年一組 えいこ

2011-01-08 18:07:39 | 七郷中学校

 私がせんたくをしていたら、かあちゃんが、「せんたくをしちゃったら桑ばら*1の草むしりに行くべー。」と言ったので、私は、「やだ。」と言いました。かあちゃんが、「なんでー。」とまた言ったから、私は、「暑いからやだ。」といったら、とうちゃんが、「でっかいなりして遊んでいちゃ*2だめだ。」と言ったので、「いぐよう*3。」とゆったら、とうちゃんが、「草けずり*4を持て。」と言った。そこで私は、「そのかわりキャンデーをかってくんないな。」と言ったら、とうちゃんがお金をくれたので、四本かってきて一本つ*5分けてやったら、一本あまったので、とうちゃんと私で半分におっかいて、とうちゃんにやったら、私のがおっこってしまったので、とうちゃんのキャンデーをくれた。
 みんなは、なめきってから草むしりを始めた。私のだけ残っていたので草取りをしながらキャンデーをなめた。
 そしてだんだん暑くなってきたので、いそいで草むしりをしていたら手の切った所がぴりぴりといたくなったので、それからは急いで草むしりをしなかった。そしたらだんだんと背中と頭を、日光の暑いのがさしてきたから、てぬぐいをかぶった。そのうちにお茶休みに家にいってお茶をのんで手ぬぐいをあらった。
 すぐにお昼になると言うので、私はいがなかった*6。
 とうちゃんとかあちゃんは草むしりに行った。あと少しでお昼のサイレンがなある所だったのでより一生懸命にしていたらお昼になった。
 私はお茶をわかしました。お茶をついでいたら、とうちゃんとかあちゃんが来たのでおひる*7をくった*8。なおいちが眠っていたが起きてしまったので、かあちゃんが乳をくれたら、乳を少しっきり*9しか飲まないで、手を茶わんにつっこんで、ご飯をこぼしてしまったので、かあちゃんが拾っていたら、はしをつかんで口に入れるといったから、私が菓子をくれたらおっぱなした*10。
 おひるが食い終わったら、茶わんをふやかして、あとや*11の道へ行って涼んだ。

*1 桑ばら:桑畑
*2 いちゃ:いては
*3 いぐよう:行くよ
*4 草けづり:草をけずる道具
*5 一本つ:一本ずつ
*6 いがなかった:いかなかた
*7 おひる:昼食
*8 くった:食べた
*9 少しっきり:少ししか
*10 おっぱなした:はなした
*11 あとや:裏の家?

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


6 夕飯たき 七郷中学校一年一組 かずこ

2011-01-06 22:10:22 | 七郷中学校

 私が桑つみから帰って時間をみたら三時半だった。六時頃になったら夕飯たきをしなければならない。まわすに計って*1、井戸に行って、釜をみがいた。すぐに光芳が帰ってきて、またすぐに遊びに行ってしまった。私も「遊びにいきたいなあ」と思った。それだけど、お母さんに言われた通りにしなければならない。釜のまわりはきれいだったのでみがくのは疲れなかった。そこに利子ちゃんが遊びに来たのだけど、私は、「夕飯たきするのだから行かない」と言った。そしたら利子ちゃんはつまらなさそうに家に帰っていった。私はその時、「利子ちゃんはいいなあ」と思った。そのうちにとぎ*2終わったのでほっとした。時計をみたら六時二〇分だった。私は急いでかまどに釜をかけた。くずぎ*3に火をつけて、どんどんもし始めた。くずぎは一度にぼうっともしつかった*4。それですぐに消えてしまう。そのうちに光芳と雅次が帰ってきて、光芳はお風呂に雅次は牛に餌をくれた。
 もしているうちに釜がにえたって、ふたのわきから湯気がぶくぶくと出てきたので、すぐにふたを取って少しもし火*5をひいた。
 そこにお母さんが帰ってきたから、「かあちゃん、おしる*6をにいるの*7。」と言ったら、「にいな。」と言ったので鍋を洗ってかまどにつっかけた。そしてすぐに煮えてしまった。おばあさんが来て、「かずこ、ごはんは煮えたの。」といったので、私は、「おばあさん、煮えたよう。」と大きな声で言った。そこへ光芳が来て、「ねえちゃん、ごはんのおかず作ったの。」と言ったから、「まあだよ。」といったら光芳が、「早く作れよう*8。」と言ったのですぐに作った。ようやく終わったので、ほっとして外を見たらもう暗くなっていた。そして、道に出たらおじいさんと、お父さんが向こうから帰ってきた。お父さんが、「かずこ、夕飯はできたの。」と言ったので、「とっくにできているよう。」と言った。家の中に入ったら光芳が、「ねえちゃん湯がわいたよ。」と言ったので、私はいっとう先*9に、一人で入りました。はいったあとは疲れがぬけたような気がしました。その後、雅次と光芳が入りました。
 家の人がみんなそろって夕飯を食べる時、おじいちゃんが、「かずこの煮いた*10ごはんはおいしいなあ。」と言った。
 みんながそろって、「かずこのしたのはとてもうまい。」といった。私はとても嬉しかった。それで心の中で、私はこんどはまっと*11うまくしたいと思いました。

*1 まわすに計って:ますの米の量を計って
*2 とぎ:米を洗うこと
*3 くずぎ:松葉等の落葉
*4 もしつかった:燃えついた
*5 もし火:燃やしている火
*6 おしる:おつけ
*7 にいるの:にるの
*8 作れよう:作って
*9 いっとう先:一番先
*10 煮いた:煮た
*11 まっと:もっと

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


5 夏休みの一日 七郷中学校一年一組 ともこ

2011-01-05 22:42:22 | 七郷中学校

 私が目をさますと父と母は、蚕に半分ほど桑をくれてしまっていた。食べ方をよく見ていると、おなかが空いていたかのように、がつがつ桑をたべています。
 私はしたくを取替え、朝飯を食べてから、ところどころ桑の葉のない所に少しづつ桑をくれてから、桑畑に行きました。まだ露が残っていたので、畑に入ると草の葉や桑の葉が足に触れて、かゆいやら気持ち悪いやらでした。それで私が、「露が無くなってから来ればよいのに。」と言うと、母は、「そんなに遅くなると、日が当たって、桑の葉がしなびてしまうよ。」とおっしゃいました。それからザルに桑の葉を一杯つんだので、しょいかご*1にあけ始めて良く見ると、桑の葉が、全部と言っていいほどに、私たちが切られたみたいに痛々しく傷がついていました。
 それから二杯つみました。母はしょいかごを背負って、私はザル*2を手で持って帰りました。帰ってから蚕を見ると、もう桑の青い顔はなくなって*3一面が白に変わっていました。
 父と母は桑をくれ、私は夏休みの友*4と、そのほかの宿題をしてからお昼まで遊んでいました。
 午後からは暑いので、昼寝をしたり、勉強したりでした。午後四時頃からまた桑畑に行きました。午前中にしたので、今度は母との間はあまりあかなくなったので、母に負けずにポッポッとつんで行きました。けれども母の手は機械のように動くので私はどうしてもかないません。父も一生懸命に桑の木を切っています。
 こんどは、明日の朝もくれるので、前よりももっと摘まなくてはなりません。もっとたくさん摘むのかと思うと嫌になってしまいます。けれども母の姿を見ると、私が摘まなくては、母はどうなるのかと思い、一生懸命しなくてはという気持ちが湧いてきます。
 こんどはザルに五杯ぐらい摘んで、しょいかごの中に入れて、持って帰りました。「母は毎日こんな仕事をしているのか、容易ではないだろうな」と考えながら帰るとすぐ家についてしまいました。
 こんどは家に帰っても勉強がないので、桑くれの相手をしました。くれているそばから蚕は、大変おなかがすいていたかのようにまた、がつがつ食べています。蚕は、自分の食べたい時に食べられなくて、不自由だなあと思いました。そのうち桑くれはおえました*5。炊事の手伝いを少ししました。
 夕食後、みんなは、ラジオを聞いていましたが、私は慣れない桑つみで、すっかり疲れてしまって、すぐねむってしまいました。

*1 しょいかご:背負いかご
*2 ザル:竹のかご
*3 桑の青い顔はなくなって:蚕が桑を食べてしまった様子
*4 夏休みの友:夏休みの宿題集
*5 おえました:終りました

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


大塚基氏編『ある夏休みのことです』(1994年)目次

2011-01-04 17:00:00 | 七郷中学校

はじめに

1 草むしり ゆりこ

2 私の一日 えみこ

3 花火 みちえ

4 草むしり ゆりこ

5 夏休みの一日 ともこ

6 夕飯たき かずこ

7 仕事 えいこ

8 花火 みちこ


9 花火 とく

10 台風のくる日 あきこ

11 ぶちの死 きぬえ

12 約束 みちこ

13 草とり えつこ

編集後記

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」 


4 草むしり 七郷中学校一年一組 ゆりこ

2011-01-04 16:56:24 | 七郷中学校

 毎日暑いので私は、家でぶらぶらしていたら、父に、「朝の涼しい内だけも、畑に出て草むしりをしな*1。」と言われた。
 私は、この暑いのに、草むしりをするなんてたまらなく嫌だった。けれども無理やりに畑に連れて行かれた。せみは「じいじい」鳴いて、暑さをなおさら暑く感じさせる。
 しかし、畑に行ってたまげて*2しまった。草がぼうぼう生えていて、まいてある豆は草の中で小さくなっていたが、私は、その時はまだ草のことはなにも感じなかった。
 ただ、「暑いのでいやだ」と言う事を心の中で叫んでいた。父も兄も一生懸命に草をむしっている。それで私も、負けるのが嫌でしかたなく草をむしりはじめた。
 日はだんだんと暑くなる。けれどもやり始めたらおもしろくなった。
 おもしろいというよりも私の心のなかに、「豆がかわいそうだ」と始めて感じたのだ。私は暑さを忘れて草むしりに一生懸命になった。
 「もしこの草を、だれもとってやらなければ 養分も取れなくなって草に負けて死んでしまうだろう。もしも私がこの豆だったらどうなるだろう。陽のあたらない所で、食べ物を与えられずにおかれたら、やせおとろえて死んでしまう。どんなに悲しい事だろう」そう思うと、もう暑さも、せみの声も、ぜんぜん耳に入らなくなり、ただ一生懸命に草をむしった。
 まもなく父が、「ゆりこ、家に行ってお茶休みの用意をしてくれ。」と言う。
けれど私は、このままに草を残して帰るには気がすまない。そこで妹のあやこに変わってくれるよう頼んだ。
 そのうちにあやこが、「休みだよー。」と呼んだ。そしてみんな家へ休みに行った。
 父が、「暑いのによく頑張ったな。」とほめてくれた。私はその一言にとても張り合いが出て、お茶休みをしてからもまた草むしりに行こうとした。すると父が、「暑いから早く終りにしよう。」と言った。私も気軽に返事をして行こうとすると、「ゆりこはもういいよ。」と止めた。私は父に、「行かないでいいよ」と言われたけれども、さっきの残りをむしりきるまではと思い、父より先に畑に行った。
 大きく深呼吸をして、むしった後を見ると、豆が、「ゆりこさん、草をむしってくれてどうもありがとう。おかげで助かりました。」といかにも嬉しそうに笑っているようだった。私は小さな声で、「どういたしまして。それよりもっと早く草むしりのことに気がつかなくてごめんなさいね。」と言ったら笑っているようだった。
 私はそんなに喜んでもらえるのなら、もっと一生懸命にやろうと前を見ると他の豆が、「私たちも早くむしって下さい、草にいばられて苦しくて仕方ありません。」と言っているようにみんな私の方を見つめている。
 また草をむしっている手を早めた。そのうちに、「ウー」とお昼のサイレンが鳴ってしまった。父は、「さあお昼にしよう。今日は仕事を頑張りすぎたな。」と言って嬉しそうだった。豆も私に、「ありがとう、ありがとう。」と言っている。

*1 しな:しなさい三輪の自動車
*2 ちょいと:少し

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


3 花火 七郷中学校一年一組 みちえ

2011-01-03 11:31:21 | 七郷中学校

 きのうの、熊谷の花火はとてもきれいだった。顔見知りの吉田の小林さんという人が募集したのでたいへんみんなが集まった。
 私達のだけでも三分の二ぐらいは行ったかと思う。県道のすぐそばの道に集まった。何ごとか話しているうちにオート三輪*1が来た。オート三輪の運転手さんも一つのでこんなにいるのかとびっくりした。
 全部乗るとぎっしりであまり揺れなかった。
 途中、古里のちょい*2といった所の塩(しお)という所で、一台の白い大きな観光バスが故障していて遅れてしまった。私は何分ぐらい待つのかと心配した。でも、そのバスがどうにしたのかわきによったのでとおれた。そのバスとすれちがう時、何と言うバスかと思って見たら武蔵観光というバスで、暖房車と書いてあった。このバスは「いいバスだな」と思った。
 このバスを通り過ぎると熊谷市内に向かってもうスピードで走り始めた。私はへりに乗っているので、風を切ってよい気持だった。早いのでじきに*3ついて、みんな一緒に土手に花火を見に行くとたいへんなこみようだった。花火を見ながら土手に行く途中にみんなとはぐれてしまった。隣の家の三人と、私の家の祖母と、母と、私は一緒だったが、ほかの家の人達とははぐれてしまった。私達が困っていると、となりの叔父さんが見つけてくれて一緒になった。ほっと一息すると、花火がまっていたかのように美しく上がり始めた。土手の芝の所におちついて、家から持ってきたにぎり飯を食べながら見た。
 いろいろな花火が、やなぎのようなのや、大きく広がって胡麻をえる*4ようにバチバチと色が変わって吊りがさが落ちてくる。緑や赤がだんだん消えて行く。仕掛け花火も十いくつかで奇麗なのばかりでした。川の中に魚が泳いでいるのもありました。仕掛け花火が終り始めると、やたらと、いろいろな花火が上がります。この美しさはなんとも言えない美しさです。
 一番きれいだったのは、仕掛け花火では最後の大橋のでした。長く続いてその一本の線が、銀がさあさあ負って落ちてくるのです。それが本当にうつくしかった。帰りには前に一台の車も走ってないので、もうスピードで、行く時よりも早いようでした。みんなは、「こんなに早いのじゃ*5小川まで乗って行きたいなあ」と言った。それで家に帰ってもまだ十一時だった。
 きのうはこんな日でとても楽しかった。

*1 オート三輪:三輪の自動車
*2 ちょいと:少し
*3 じきに:いくらもたたないで
*4 える:いる
*5 早いのじゃ:早いのなら

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


2 私の一日 七郷中学校一年一組 えみこ

2011-01-01 23:05:32 | 七郷中学校

 前の日、母が私に、「あしたの朝くれる桑も今日つんどかなくては、しょうがないから、一生懸命つんでくんないな*1。」と言った。私も母も一生懸命つみました。父は別の方で根すぐり*2をしていた。暗くなったので家に帰った。帰ってから桑置場に桑をあけて、桑つみ*3を掛ける所に掛けてから、手を洗いに行こうと思ったら、母が、「桑をくれてくんな。」と言ったので、すぐ桑置場にみかい*4をもって桑をつめにいった。私の家では母屋から蚕に桑をくれるので、くれはじめたら父が帰って来た。父もすぐ桑くれを手伝ってくれた。みんなでくれたので三十分もくれたらくれきった。
 寝ようと思ったら、母が、「あしたの朝も早く起きて桑つみ*5を手伝ってくんないな。」と言ったので、あしたの朝は早くおきようと思って床に入ったが、起きたのが五時ごろになってしまった。どこへ摘みに行ったかを聞いとかなかった*6から、祖母に聞いたら、「みょうじん様のうしろの畑へ、朝桑が足りないので、つみにいったよ。」と言った。
 私もいそいで出かけた。三分も行くと畑についたので、さっそくつみはじめた。ざま*7は、めつぶしのざまと三番目のざまがいっていた。私はつみながら考えた。私が来たら父や母は来ていたのだから、もっと早く起きなければと思った。それに夕べ*8は寝るのが遅かったのだから、朝起きられないんだなあと思った。一生懸命につんだら、両方がいっぱいになったので家に帰った。
 蚕に桑をくれていたら、仕事にたのんでいた人が来てくれた。父と母で、「あと一杯つめばまにあうだろう」と話していた。そして来てくれた三人と私でつみに行った。立てどおし*9をつむのだから、桑を曲げてしないとつめないので曲げてつんだ。ときどき虫が食ったところからポキッと音がしておれる。笑いながらつんで、大きいざまがいっぱいになった時、母が、「ひきり*10にたくさんなったからだれか拾いに来てくれませんか。」と言いに来た。家の前の人は、ひきりがでないからつみにきたんだから、前の家の人に行ってもらうことに決まった。前の家の人は話好きだからねんじゅう*11話しをしてくれたのに、その人がいなくなった後はちょっとさびしいようだ。その日は暑いので背中のシャツがびっしょりになって、くっついてしまうので気持が悪かった。
 だいたいいっぱいになったので家に帰った。桑つみをおきに行くとき時計を見たら九時すぎだった。休みに近かったので、少しひきりをひろったら休みになった。
 四十分も休んでから、少ししたら、お昼のサイレンがなってしまったので仕事に来てくれた人に、食べに行ってもらった。二十分ぐらいしたらまた来てくれたのでまたひろった。午後からは夕方までひきりひろいをした。

*1 くんないな:ください
*2 根すぐり:桑の下枝取り
*3 桑つみ:桑を摘む道具
*4 みかい:竹のかご
*5 桑つみ:桑の葉を摘みとること
*6 聞いとかなかった:聞いておかなかった
*7 ざま:竹の背負い籠
*8 ゆうべ:昨夜
*9 立てどおし:長くのばしている桑の木
*10 ひきり:繭を作るようになった蚕
*11 ねんじゅう:いつも

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」


1 草むしり 七郷中学校一年一組 ゆりこ

2010-12-30 17:56:44 | 七郷中学校

 ゆうべ父に、「明日はかいこん*1の草むしりだから早く起きるのだよ」と言われたので、今朝は五時ちょっと前に起きた。私は、かいこんの畑へはしばらくいかなかったので、「もううんと*2草がはえているだろうなあ」と思いながら畑にでかけた。
 もう稲は青々としてとてもきれいだ。畑についてみると思わず「わあー」と言ってしまった。だって私が想像していたよりとてもすごく草がはえていて、ひどい所は草の丈と桑の丈で同じぐらいだ。
 私が、「この草はむしりよさげだから手でむしるね。」と母に言うと、「鎌でむしりな。」と母は言った。私はそんなに根が張っているのかなあと思いながらためしに手でひっぱってみたら、とても引っ張りごくがあって手だけではとてもむしり続きそうもないと思った。
 少したつと、もう暑くなって、ひたいの方から汗が伝わってきて、目に入って目がいたいほどだ。着物は汗にぬれて背中にくっついてしまいそうになって、太陽が照りつけて背中がいたい。そして暑いからといって立つと頭がぼおーとして目が回るようだ。
 それから休みをした。喉が乾いていて、お茶を茶わん一ぱいに飲んだ時のうまさ*3といったら、まるでココアでも飲んだようだ。
 それからまたむしり始めた。私は、暑い時の畑仕事はつらいなあと思った。でもこの草の実を落としてしまえば、また来年になると草がぞくぞくとはえてしまうのだと思うと、早くむしりきれば*4いいなあと思う。それから母の方を見ると、うんと*5離れてしまったのでたまげてしまった。「かあちゃんはいら早いん*6。」と私が言うと、母は「だって商売だもの、ゆりこみたいにのろくてはしょうがないよ。」と言って笑った。
 私は、「ようし、かあちゃんなんかおっついじゃい*7」と思いながら、今度はばりばりむしった。けど*8いくら一生懸命にむしっても、おっつげないので残念だがあきらめた。
 それから、「とうちゃん、何時頃。」と聞くと、父は太陽の方を見て、「今十一時ごろだろ。」と言った。私は、「あと一時間か。」と言いながらまたむしりつづけた。そのうち二本目がやっとむしり終わったので、少し腰を伸ばしながらむしった所を見た。とてもせいせいしたようだ。そしてむしった草が行儀良く並んでいてとてもいい感じだ。それに比べて、まだむしってないほうは暑苦しい感じがして早くむしってやりたいと思った。それからまた一生懸命にむしったら三十分ぐらいして昼のサイレンが鳴ったのでむしるのをやめた。半日で私は三さくと少ししかむしれなかった。「あと二時間むしればひどい所はむしりおわるだろう。」と父は言った。私は、「早くむしり終わればいいなあ」と思った。
 帰りに手が痛いので見ると、もう右手に豆ができてしまった。母に豆を見せたら、「ずいぶんやわらかい手だなあ。」と言った。私も、「ずいぶん弱い手だなあ。」と思った。
 ご飯を食べて、昼休みをしてから三時半ごろまた畑にでかけたが、まだ太陽が照りつけているので畑につくともう汗が出て、洗ったブラウスがもうぬれてしまった。私は、「遠い所の畑は来るのによいじゃあない*9からいやだなあ。」と思った。それからまたむしり始めたが、はじめの内は鎌をにぎっていると豆がおされるのでいたかったが、そのうち一生懸命になってむしったら手など痛くなくなってしまった。

*1 かいこん:山を切り開いて作った畑
*2 うんと:たくさん
*3 うまさ:おいしさ
*4 むしりきれば:むしり終われば
*5 うんと:とても
*6 いら早いん:すごく早いね
*7 おっついじゃい:おいついてしまおう
*8 けど:けれど
*9 よいじゃあない:容易でない

   大塚基氏編「ある夏休みのことです」