ダニエル指揮イングリッシュ・ノーザーン・フィルハーモニア(naxos)CD
1956年前半に作曲されたもの。私はこの曲がとても好きで、ウォルトンのオーダーメイド、特に戦後作品としては最も一般にアピールする曲だと思っている。すっかり前のめりのスタンスをやめて、地中海に隠居しつつ注文を受け作品を送るようになるウォルトンの、その時期の傑作だと思う。ウォルトンらしくないほどに、ガーシュインのキューバ序曲のようなわかり易すぎるアフリカ系の主題やボンゴなどアフリカ系楽器の響きは、注文主であるヨハネスブルグ市設立七十周年祭の音楽監督からの「いくつかアフリカの主題を含める」という条件によるものであり、対してウォルトンは2年前大ヒットしたコンゴのジャン=ボスコ・ムウェンダ「マサンガ」のメロディをEメロに据えるとともに、同時にアフリカ音楽協会からアフリカ音楽の録音を取り寄せてインスピレーションを得た。ひたすら楽天的で爽快に駆け抜ける曲は、現代的な意味での純粋なアフリカ音楽ではなく植民地時代のアフリカ「系」音楽の薄衣をまとい、それは恐らく南アフリカという国の当時辛い社会の上澄みにある、今風に言えばホワイトウォッシュされたものではあるけれど、それでもウォルトンは天才的で、管打のスリルと軽快さに頭で考える前に肩が揺れ出してしまうのである。また、この曲に中身がないことも自覚していて、ノンストップの熱狂的な「ギャロップ」などと自評しているが、南国風の雰囲気はウォルトンにはあまりなかったもので、行進曲「王冠」「宝玉と杖」が持っているエルガーの複製品的雰囲気からは一歩前へ出た感がある。素材はアフリカ音楽の剽窃でありながらきちっと西欧音楽に異化していて、念入りに3回ほど改訂しているが、その華々しくもスキのない出来は素晴らしい。主題を繰り返すしつこさを鮮やかなオーケストレーションとあとはスピードで押し切っているのもいい。その点この演奏は落ち着きすぎている。音楽が前に向かっていかず、アフリカ系楽器の力でリズムが跳ねるまではどうも大人しすぎるというか、あまりのっていない。この曲がアフリカで演奏されることがあるのかどうかわからないが、そちらの演奏家がやったらどうなるのか、とくにこのリズムがオケでどのくらい煽れるものなのか、聴いてみたい。