湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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アイアランド (2012/3までのまとめ)

2012年04月19日 | Weblog
アイアランド

<20世紀英国ピアノの抒情詩人。管弦楽曲も少なからず残し、ピアノ協奏曲など比較的知られているが、ブラームスを代表とする中欧のロマン派音楽など様々な同時代要素に翻弄されたようなところがあり、寧ろピアノ独奏曲に純粋な感性があらわれ熱心な愛好者をもつようになっている。初期のピアノ曲はかなりモダンな晦渋なものも多かったが、次第に平易な方向に向かい、まるでドビュッシーの時代に引き戻すような夢見る美しさをほこる独奏曲「サルニア」に代表される、華麗な技巧を盛り込む一方でそっと染み入るような深い感動をもたらす静かな作品群が産み出された。自身も相当ピアノ演奏をこなしたようである。時代を考えれば保守的ではあるが、英国では今も親しまれる魅力的な作曲家。>

ピアノ協奏曲

○アイリーン・ジョイス(P)ボールト指揮LPO(LPO/naxos)1949/9/10ロイヤルアルバートホ-ルlive・CD

作曲家70歳記念演奏会の記録で、一貫してボールト・LPOがその役をになっている。ソリストは「逢引き」の劇伴でも知られるスターピアニストのジョイス。しかし演奏はしっかりしていてロマンティックに揺れることは無い。穏健と見られがちなアイアランドの、同時代イギリスの作曲家に対して先鋭ではあっても後衛では決してなかった「渋さ」を明快に描き豪快に弾き切っている。素晴らしいものだ。

チェロ・ソナタ

○サラ(Vc)作曲家(P)(columbia)1928/10/25・SP

古い録音だが、英国ではこのころ同時代音楽が沢山録音されており、その中で取り立てて音が悪いわけではない。しかし、バックスのように多様な表現手法をつぎ込んだりディーリアスのように独特のロマンチシズムを作為的にしつらえていくようなところのないアイアランドの曲は、録音群中いまひとつ記憶に残りにくいものがある。偏愛する旋法的表現や和声によってのみ個性を主張するため、保守的で幅が狭い印象をあたえる。ただ、逆にアイアランドに、たとえばピアノのための「サルニア」だけを求めるような偏愛組にとって、アンサンブル以上の規模の楽曲の中では親しみやすい内容だと思う。チェロの音域はこの音質ではやや聴きづらいが、特に特殊なことはやらせていないし、オーソドックスな楽曲構成ゆえわかりにくいことはない。晦渋に聴こえるのはとりとめのない音線の問題もある。女性チェリストを輩出した英国においてこのソリストの位置づけはわからないが柔らかくも纏綿とし過ぎずちゃんと弾いている。○。 (2010/3/25)

だいぶ後にdeccaに録音しduttonが復刻したヴァイオリンソナタ1、2番と、この録音が自作自演のソナタとして残っているもののすべてだそうである。曲はピアノの秘教的な雰囲気と名技的な書法にくらべ、ソリストはどこかで聴いたようなフレーズをならべ、3楽章の最後などほとんどドビュッシーのチェロソナタである。この楽章に関してはシャープなピアノとコントロールのよいチェロが瑞々しい音楽を紡いで秀逸だが、そこまでの陰鬱だったりロマンティックだったりする音楽はちょっとだれる。冒頭からしてソリストがふるわず、ろうろうと歌うのが得意なソリストではなかったのだと思う。ぎくしゃくしている。アイアランドは特殊なリズムも小気味よく跳ね上がるように、実に適切に処理していく(自作だから当たり前か)。ピアニストとしてとても腕のある人だったことが伺える。総じて○。時代なりの音。 (2011/11/9)

サルニア(1940-41)

エリック・パーキン(P)(CHANDOS)新録・CD
エリック・パーキン(P)旧録・LP

~アイアランドの作品には昔から興味があった。保守的なイギリス二十世紀音楽界にあって、フランス的な洗練された新鮮な精神の煌きが、音符の間から零れ落ちるような室内楽曲に触れた事があったからだ。しかしアイアランドのレコードはすこぶる少ない。現役盤としては恐らくパーキンの独奏曲全集が殆ど唯一のものだろう(シャンドス)。だが耳にした瞬間に自分がこの曲を切無い程に好きだと悟るような威力を持つ「サルニア」に遂に触れる事が出来た今、この作曲家がバタワース、ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズの系譜に並ぶ、優しい、自然、太陽の柔らかな陽射しと限りない草原のおりなす大地のうねり、それそのものの音を織り上げることのできる、本当に数少ないクラシック作曲家であると確信できた。今までもそうだったし、これからも恐らく再評価されレコードが増える類の作曲家ではあるまい。しかし、フェデリコ・モンポウのように、本当に一部のファンが限りなく愛で続けるであろう、珠玉の響を持つ独奏曲群、これがあるだけで、それがあることを私は知っている、それだけで良いように思えてしまうのだ。(1995記)

アイランド・スペル(1912)

<組曲「感謝祭」の一曲目。ごく単純なフレーズの執拗な繰り返し、それがやがて "decolate"されて、ドビュッシーの”金魚”のように夢幻的な音彩を繰り広げる。言ってしまえば通俗・安易な発想と片づけられるものだが、その余りの美しさゆえ「けなす」言葉も忘れてしまう。これはサティ、ドビュッシー、ラヴェル、モンポウ等に連なるかけがえの無い、しかし国際的には無名なイギリス穏健作曲家の「指の滴り」である。これ以上に単純平明で、かつ詩的繊細な曲を私はそうそう知らない。元々前衛を出発点としてのちロマン派の世界に立ち戻り、長らく亜流音楽を作り続けてきた作曲家であるが、ピアノ独奏曲に関しては、他の大規模の作品とは比にならない程の煌きを放つ。一旦その手法に慣れると、曲によっては飽きも来るが、例えばこの「ケルトの呪文」や3曲目「緋色のセレモニー」冒頭の極度に蟲惑的な走句など、永遠の水晶球の輝きを持っている。(1995記)>

エリック・パーキン(P)(CHANDOS)

二つの小品

~第1番「4月」(1924-25)


作曲家(P)(EMI)1950s・CD

素朴で世俗的な雰囲気がある。独特の抒情世界はアイアランドの詩人的気質を物語る。特に晩年のノスタルジックなピアノ独奏曲は、慰めに満ちた心優しい響きに溢れている。作曲家自らのピアノによる「4月」の録音からは、ディーリアスよりも純粋で、ヴォーン・ウィリアムズよりも身近な、人間らしい暖かさが滲み出ている。自然をうたうアイアランドの世界は、広大な空虚の中にある小さな命を見詰める優しい視線を感じさせる。泣けます。アイアランドのピアノ曲は良いです。エリック・パーキン大先生の録音が容易に手に入ります(ゆったりとした演奏です)。お勧め曲はあと「サルニア」です。アイアランドは20世紀のイギリスの穏健作曲家です。アイアランド自身は2回録音しています。

○作曲家(P)(columbia)1929/2/18・SP

自作自演の旧録。50年代の新しいものよりも快活で明るく、速さもあって若々しい印象。クリアな音ではあるが、どうしてもSPなりのノイズが気になるところもある。いい曲。○。
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