湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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アメリカにとってのフランス、断章

2006年07月21日 | Weblog
~ドビュッシーとラヴェルの芸術がアメリカの作曲家に影響を及ぼし始めたのは少々遅く1900年以後に属する。それ以前にはアメリカの作曲家達は各自の専門教育の仕上げの為にはドイツに留学するのが普通で、ウィーン、ベルリン、ライプツィヒ、ミュンヘン等が特に彼らの好んで訪れた所であった。ミュンヘンの有名な教師であったヨゼフ・ラインベルガーの対位法の講義は当時真剣に作曲に志すアメリカの学生達には、不可欠のようにさえ思われた。1901年ラインベルガーの死後、ミュンヘンの魅力は大いに失せて、作曲を学ぼうとするアメリカ人は次第にパリに留学して、そこのウィドール、ダンディ、ケクラン等の偉大な教師らから得るところ多い様になり、第一次世界大戦以後はパリはアメリカの音楽学生の誰も希望する留学地となった。アメリカ人の為に特に設立させたフォンテーヌブロー城の音楽学校(引用注:ラヴェルのオートグラフのところなどで触れた「アメリカ音楽院」のこと)とナディア・ブーランジェ女史は大きなあこがれの的となり、このことは1935年まで続いた。(「アメリカにおけるフランス印象主義と異国趣味」)

~クーセヴィツキーのボストン第一回公演の際のプログラムは明らかに余程慎重に選んだもので、その一部は寧ろ通俗的なヴィヴァルディ、ベルリオーズ、ブラームスの古典に敬意を表してあり、その後に1920年代にヨーロッパでセンセーションをまき起こしたオネゲルの新作「パシフィック231号」があった。そのタイトルから見ても、又その内容に於いても、この華々しい効果のある、大きな機関車を描写した最新作を選んだのはたしかにアメリカ工業の能率と活動に対する敬意を意味した。プログラムの第二部は最近のロシア音楽の傑作、スクリアビンの「法悦の詩」だけであった。この作品の演奏に当たってのクーセヴィツキーは彼のロシア人としての風格に熱情の嵐と憂鬱と絶望の極致をたくみに加味して文字通り完璧の出来栄えを示した。若し当日の聴衆の中にかつて30年以前のニキシュの演奏を聞いたことのある年配の人達がいたら、皆クーセヴィツキーこそは、あの不思議なロマンティックな魔術使といわれた大指揮者の最も正統な後継者であると痛感したに相違ない。(スクリアビンに対する通り一遍の酷評を引用した上で)オネゲルの「パシフィック231号」に関してもヘイルは手厳しく「たしかに面白いことは面白い。古えのギリシャの文人が音楽の使命の一つは「紳士流の喜び」を与えることだと言ったがこの作品はまさにその範疇で気がきいていることは事実だ。しかし音楽が気がきいているというのは大した代物でないという意味だ。」とくさした。他の批評はほとんど皆一致してオネゲルの音楽が大機関車を崇拝したものでアメリカ人の機械観にぴったりくるものがあると言っており、中でも、H.T.パーカーが10月14日号の「トランスクリプト」紙上に寄せた「パシフィック号に乗って」という記事は最も想像力豊かな又同時に正確な論評であった。

「この音楽を聞いて、その精巧な組み立て、終始一貫した整然とした無駄のない音の流れを嘆賞しない音楽家はあるまい。・・・その大きな機関車がいよいよ発車となるとこの音楽は声高く笑う。間もなく機関車は全速力で走りだす。走りながらこの音楽はキプリング流に、いわば、力とスピードの歓喜を小きざみに歌って行くのだ。
そしてこのパシフィックの終止の素晴らしさはどうだろう。あの古典の壮大な終止がこの音楽の終末の12節に圧縮されている。・・・ここに我々はバッハ、ベートーヴェンの音楽の再来を見る。現代に生きているオネゲルはただ現代の事物機関車を使ったに過ぎない。」
「パシフィック号」はアメリカで大成功をおさめた。(「クーセヴィツキーのボストンにおける最初の楽期」~ライヒテントリット/斎藤博之訳「アメリカ音楽の展望」より一部現代語訳)

・・・原著はクーセヴィツキーの評伝の形をとっており20世紀初頭から前半におけるアメリカの(高所得層や音楽家たちの)音楽受容の流れやクーセヴィツキーに関して論じたいならば一読すべき内容ではある。一部だけ抜いたがなかなか面白い感じですね。
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