Luna's “Tomorrow is another day”

生活情報、人間、生きること…。新聞記事から気になる情報をスクラップ!

バイラル公告とネット右翼

2013年01月02日 | スクラップ






今年9月末、ネットに配信された一本の動画が話題となった。

モノクロの少し荒い画像。映っているのは交差点。左上には日にち、右上には秒単位で時間が表示されている。この特徴的な画面から、多くの視聴者は、道路に設置された監視カメラだと思うだろう。

当初映像は交差点の交通状況を淡々と映し続ける。そしてタイムカウンターが「00:03:30」を示すあたりで、自転車のようなペダルのついた三輪車が現れ、それからわずかに遅れて、画面奥からすごいスピードで直進するトラックが映る。もう事故を避けるのは不可能。両者がぶつかるかと思った瞬間、画面左から男性らしき人物が信じられないスピードで登場し、三輪車に手をかざし、身体全体で発光。三輪車とともにトラックの前から消え、交差点を外れた画面奥に瞬間移動する。一方トラックは急ブレーキをかけて交差点を過ぎた位置で停車し、あわてた運転手がタイヤなどを調べるようすが映る。

ネット上ではテレポーテーションの証拠映像だと話題になった。しかし後日、道路についたわだちなどから合成映像と判明。ゲーム会社のバイラル公告だろうと結論づけられた。

 

バイラル公告とは、話題性のある内容で人々の関心を引き、口コミで公告効果を高めるPR手法である。「バイラル」は「ウィルスの」といった意味となり、爆発的な情報伝達力を暗示する。バイラル公告と通常の広告との大きな違いは、商品そのものの告知を会社側が行うのではなく、インパクトについて人々が自由に語り合って広まっていく点にある。

また、一般的にインターネットで実施されることが多いため、通常のメディアでは許されない過激な内容も少なくない。これまでも覆面レスラーとダチョウが壁を爆破してスーパーマーケットを襲撃するといった監視カメラ風の映像など、さまざまな「作品」が公開されてきた。

こうした衝撃的な映像は当初からCMだとわかるものもあれば、監視カメラや一般人が偶然にとらえた記録映像だとして出まわることもある。それは作り手の自由なのだ。

冒頭の映像のように、一見CMとわからないものは、本物かどうかが話題となり、視聴者により検証が始まる。ただ、作りものの公告だと判明するころには、面白い映像として世界中にばらまかれてしまう。その奇妙な映像に真実味があればあるほど、より広く、より早く伝わってゆく。もしかしたらテレポーテーションがあるかもしれないという人びとの想いが、話題をウィルスのように爆発的に広めてゆくのである。

 


インパクトが真偽やモラルに勝る価値を持つ。
これがネット情報の特徴のひとつである。ネット右翼と呼ばれる人びとも「バイラル」的な手法により拡大してきた。問われるのはインパクトであり、思想性や真実性ではない。

ネット右翼の代表的な存在であり、在日外国人の排斥運動で知られる「在特会」の実態を描いた『ネットと愛国』(講談社・安田浩一・著)も、在特会には思想性がないと指摘している。ネット事情に詳しいライターである渋井哲也氏は同書で、ネットの魔力は「タブー破りの快感」だと指摘した。

「 “外国人は大事にすべき” といったような常識論を乗り越えてしまえば、あとは排外主義の競い合いですよ。これはナショナリストが指導したものではなく、もちろん愛国的な視点から生じるものでもありません」と語っている。そして、その背景には、正社員になれないなど、経済的に追いつめられた弱者の存在があるという。

 


昨今の中国や韓国との緊張の高まりは、排外主義的な「バイラル公告」を広げやすい環境を生む。真偽不明の映像がナショナリズムを刺激すれば、真実が検証されることなく、民意が一気に沸騰する可能性が非常に高い。しかもバイラル公告の流行は、映像の「ねつ造」に対する抵抗感を日々奪ってゆく。いつかウィルスのように広まったねつ造映像が冷静な批判を吹き飛ばし、世論をつくりかねない。

ネットの中で「マスゴミ」ともよばれる既存メディアの信頼の失墜と、十分な裏どり(=検証)をしないままの、いや、ねつ造すら許容されるネット情報の広がりは、ナショナリズムの高まりとともに危険性を増している。

 

 

(「月刊マスコミ市民」2012年11月号 No.526より転載)

 


 


 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「暴走する野田政権・背景に... | トップ | 領土ナショナリズム脱却のた... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

スクラップ」カテゴリの最新記事