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ハマス、別の顔 「テロ組織」指揮官、昼間は診療所勤務

2009年03月02日 | スクラップ




 パレスチナ自治区ガザ地区を力で支配し、イスラエルとの戦いを続けるイスラム原理主義組織ハマス。欧米から「テロ組織」に指名され、原理主義のイメージから国際テロ組織アルカイダなど過激一辺倒の集団と混同されがちだが、果たしてその実態は?【ガザ市(ガザ地区北部)で前田英司】

 


■幼稚園から大学まで運営、被災地炊き出し…

 ガザ地区北部のモスク(イスラム礼拝堂)に隣接した建物の一室で、ハマス系の福祉団体が診療所を運営している。基本診察料はわずか10シェケル(約230円)。誰でも利用でき、貧しい患者には薬も無料で提供する。

 事務長のアブモアズさん(44)には家族や親友しか知らない、もう一つの顔がある。ガザ北部で170人の戦闘員らを束ねるハマス軍事部門「カッサム隊」の野戦指揮官だ。取材を申し入れると、難民キャンプの自宅に招かれた。アブモアズさんはアラブ風に寝そべりながら話し始めた。

 「一日は夜始まる」。午後8時過ぎ、170人の部下が持ち場に展開する。全員、目出し帽のようなマスク姿。街の様子を見張る偵察員がいれば、イスラエル軍の攻撃に備える狙撃手やロケット弾製造の技術者もいる。アブモアズさんの元には刻々と報告が入る。

 明け方まで現場を回り、モスクで祈ってから就寝。午前11時に起床してモスクで祈り、その後は家族とだんらん。午後3時から診療所へ。「給料の2%をハマスに『上納』するのが決まり」と言う。

 ハマスは87年、ガザで誕生。イスラエルとの和平交渉に踏み切ったパレスチナ解放機構(PLO)に属さず、綱領で「イスラエルのせん滅」を掲げる。かつての自爆攻撃で過激な一面が突出したが、パレスチナ人の間には地道な社会福祉活動で根を張っている。

 幼稚園から大学までの独自の教育機関、ラジオ局やテレビ局まで持つ。先のイスラエル軍の攻撃で破壊された現場では真っ先に炊き出しをして、支援物資を配った。ガザ市のアブサダ・アズハル大准教授(政治学)は「特に女性の間でハマスへの評価が高い」と話す。

 ハマスは団結力が強く、腐敗とは縁遠い。パレスチナを牛耳ったPLO主流派ファタハが権力抗争に明け暮れ、汚職にまみれたのとは正反対だ。06年には初めてパレスチナ総選挙に参加し、ファタハに勝利。「ファタハへの嫌気がハマス支持を拡大させた」とアブサダ准教授は指摘する。

 同じイスラム原理主義ながら、アルカイダは欧米への攻撃を続ける。一方、ハマスはイスラエルの建国とその後の戦争で「奪われた」土地の奪還を目指すが、欧米を排斥する考えはなく、単純に同一視はできない。

 ただ、ハマスがファタハを武力でガザから追い出したのも事実だ。ガザの人々はハマス批判を公言しない。ある地元記者は「ハマスを追及すると命が狙われる」と漏らす。ファタハ系武装組織に属するアブイブラヒムさん(30)は「ハマスとは血塗られた関係だ」と憎悪をにじませた。両者の反目は停滞する中東和平プロセスにも暗い影を落としている。

 

毎日新聞 2009年3月2日 東京夕刊


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