“おひとりさま”という言葉が話題になり、とくに女性がひとりでレストランに入ったり温泉でのんびりしたりすることに、本人も世間もあまり抵抗を感じなくなったようだ。私もかなりの“おひとりさま派”なので、この傾向は大歓迎。
ただ、この時期になるとそれまでひとりで元気にあちこち出かけていた人も、ちょっと心に変化が生じる。診察室に来るシングル女性の中にも、こんなつぶやきが多くなる。
「もうすぐやって来るクリスマスが恐怖なんです。今年もまたひとりか、って」「師走も近づき、街もカップルやファミリーばかりですよね。ひとりで歩くのがつらい……」
しかし、よく考えてみると、ひとりでクリスマスや年末をすごす人はいくらでもいるし、家族がいても仕事や受験でそれどころではない、という人もいる。繁華街も楽しそうなカップルばかり、などということはなく、ひとりの人、暗い顔の人も大勢いる。
それなのに、強い孤独感や不安感にとりつかれると、人間の目というのはすぐに正しく見えなくなってしまうのだ。「まあ、いろいろな人がいますよ」といくら説明しても、「いえ、違います! 私以外はみな幸せそうな顔をしています!」と強硬に主張する人もいた。もちろん彼女もふだんは、冷静で客観的なもののとらえ方ができる人だ。
こういう人には、まず「人間のものの見え方って、簡単にゆがむんですよ」と話し、目で見えていることも実はあまり信用できない、ということを理解してもらう。そして、年末が近づき慌ただしい気分になるとさらに心の目のゆがみは進みがち、という話をして、自分もそうかも、と気づいてもらう。
とはいえ、そう言いながら私も、この時期になると「ああ、あれもやっていない、これもまだだ」と年初に計画したのにできなかったことを思い出しては、「今年は何ひとつできなかった」などと思い込んでしまう。
計画通りに行かなかったとしても、それなりに職場に通い、仕事をしたはずだ。それだけでも「まあ、よくやったじゃないか」と思ってもいいはずなのに、なぜか「今年の目標達成率は10%だ」などと極端な評価を自分に下したくなってしまうのだ。
「私以外はみなハッピー」「今年の私は0点だ」などと極端なことを考え出したら、要注意。今のうちに、ちょっと休んでリラックスしておいたほうがいいかもしれない。そして“おひとりさま”でも“今年は不本意”でも、みな楽しい年末を迎えたいものだ。(香山リカ)
毎日新聞 2008年11月26日 地方版
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