Luna's “Tomorrow is another day”

生活情報、人間、生きること…。新聞記事から気になる情報をスクラップ!

プレート運動、7億年前に始まり、14.5億年後に終了説【地震のはなし】

2020年03月29日 | スクラップ

 

 

 

■そのとき地球はどうなる? 地中海にはかつて「失われた大陸」も
 

 地球の地殻はジグソーパズルのピースのようなプレートに分かれていて、常に動いている。私たちはふだん気づかないが、プレートの運動はすばらしい芸術作品を生み出してきた。地球に山と海があり、恐ろしい地震や激しい火山噴火があり、今この瞬間にも新しい陸地が誕生しているのは、プレートがずっと動いてきたからだ。


 スケールが大きくてダイナミックなそんなプレートの運動は、多くの研究者を魅了してきた。最近発表された研究結果のうち、なかでも注目の研究結果を紹介しよう。

 

  ひとつめは、地球のプレート運動が約14億5000万年後に幕を閉じるというものだ。膨張した太陽が地球をのみ込むのは約54億年後と考えられているので、それよりもだいぶ前になる。中国地質大学の地質学者である成秋明氏が、30億年前からの地球のマグマ活動の強さのデータを駆使して、プレートの下にあるマントルが冷える速度を推定し、2018年に学術誌「Gondwana Research」に論文を発表した。

 

  論文は論争を呼んだ。一部の専門家は、プレート運動が終わる日を正確には予想できないと主張している。けれども、地球の地質活動がいつかは停止するという点では、科学者たちの意見は基本的に一致している。

 

  では、プレート運動が終わるとき、地球はどんな世界になるのだろう?

 

 

 

■「私たちがよく知っているような世界は終わります」
 
 米国地質調査所と共同研究を行っている地球物理学者のケン・ハドナット氏は、その日が来たら、「私たちがよく知っているような世界は終わります」と言う。

 

  地殻のジグソーパズルは完成し、もはやプレートが移動することはない。造山運動は停止するが、地球にはまだ大気があるため、風と波による浸食が山々をなだらかな高原へと変えてゆく。最終的には、平坦になった大陸の大部分が海中に没する。

 

  地震は起こるだろう。とはいえ、マグニチュード7以上の地震は過去のものとなる。火山が残っても、爆発的な噴火はほとんどない。

 

  ちなみに、プレート運動が生じなかった火星には、太陽系最大のオリンポス山(標高2万6000m)など、いくつかの巨大火山がある。プレート運動がないため、1カ所で長期にわたり膨大な量の溶岩が供給されたからだ。

 

  また、現在同様、山脈や盆地は形成されるだろう。プレートの下の部分が剥がれて、高温の下部マントルに落ちてゆき、代わりにマントル物質が上昇して地殻を押し上げるからだ。その際、小さな地震が起きたり、マグマポケットができたりすることもある。

 

 「金星の表面は、そのようにして形成されました」と、米テキサス大学ダラス校のプレートテクトニクスの専門家ロバート・スターン氏は言う。金星もまた、プレート運動が十分に機能しなかった惑星だ。

 

  けれどもやがて、地球の温度がさらに下がれば、地球最後の火山の活動も終わる。マントルは冷たくなり、地球は「水星のような死んだ惑星になります」とスターン氏は言う。

 

 「プレート運動が終わった後に起こることは多くありません」とハドナット氏は言う。地球は平らで退屈な場所になり、ついには膨れ上がった太陽にのみ込まれてしまう。

 

  プレート運動が終わる日については、3億5000万年後や50億年後など、これまでに様々な主張がなされてきた。スターン氏は、「プレート運動はいつか終わるものであり、それがいつやってくるのかというのはすばらしい問題提起です」と言う。とはいえスターン氏は、論文の推論には基本的に反対している。「プレート運動が終わる時期の予想は、どんなものも信じていません」

 

  未来の地球物理現象を予想することは、「現時点での人類の能力をはるかに超えている」とハドナット氏も言う。それでも氏は、研究は有益だと強調する。これらの論文はいずれも完全ではないものの、問題の複雑さと、私たちの知識と実際の地球とのギャップを浮き彫りにするからだ。

 

 

 

■地中海にあった太古の「失われた大陸」
 
 次に紹介するのは「歴史的偉業」と評された研究だ。

 

  2019年に同じく「Gondwana Research」に発表された論文によると、ヨーロッパのアドリア海を取り巻く山岳地帯は、グリーンランドほどの大きさの大陸の残骸だという。論文の筆頭著者で、オランダ、ユトレヒト大学の地質学者であるダウエ・ファン・ヒンスベルゲン氏らの研究チームは、過去2億4000万年にわたる地中海のプレート変動の歴史を詳しく再現することに成功し、太古の昔に存在したその大陸を「大アドリア大陸」と名付けた。

 

  大アドリア大陸は、まずパンゲアという超大陸から分離して形成された。しかし、複数のプレートが容赦なくぶつかり合うなか、この大陸は数カ所で地下深くに引きずり込まれてしまう。

 

  その際、まるで巨人が巨大なリンゴの皮を剥くように、上に重なるプレートによって最上層が削り取られた。その残骸が、イタリアの背骨と呼ばれるアペニン山脈のほか、トルコやギリシャ、アルプス、バルカン半島の山々を形成する礎となった。

 

  一方、沈み込むことも削り取られることもなかった大アドリア大陸の名残は、現在のイタリアのブーツのかかと部にある。ベネチアからトリノにかけて散在し、クロアチアのイストリア地方でも確認できる。つまり、失われた大陸の断片は絶好のリゾートとなっているわけだ。

 

  大アドリア大陸の崩壊が始まった時期はおよそ1億年前。現在の南ヨーロッパにぶつかり、地中海地域全体に広がる複数のプレートの下に潜り込んだ結果、大陸の残骸は30カ国ほどに散らばった。大陸が手当たり次第に沈み込み、「その後、現在の雑然とした地中海に落ち着いたのです」とファン・ヒンスベルゲン氏は話す。

 

  しかし重要なのは「大陸は消滅しても、その痕跡は残る」ことであり、山岳の形成もこうした痕跡の一つだと同氏は言う。その痕跡が、古代のジグソーパズルのピースをより正確にモデル化する大きな助けになった。

 

  今回の論文は「明らかに歴史に残る偉業です」とオーストラリア、シドニー大学の地球物理学者ディートマー・ミュラー氏は言う。論文が扱っているのは、地中海地域という比較的小さな部分だが、この研究の驚くほどの精緻さは、地球規模の研究にも決して劣りはしない。

 

 

 

■原因は「雪玉の地球」、物議を醸したプレート運動の新説
 
 最後を飾るのは、2019年に科学誌「ネイチャー」に発表され、物議を醸した研究だ。そのテーマは、プレート運動の始まりについて。7億年ほど前に地球全体が氷に覆われて雪玉のようになった「スノーボールアース(全地球凍結)」が、現在のプレート運動が始まる引き金になったというものだ。

 

  その時期、氷河の激しい侵食作用により、地表が厚さ数kmも削り取られた。論文は、その堆積物がプレート運動が始まるのに必要な潤滑剤の役割を果たしたのではないかと主張している。

 

  しかも、論文を書いた研究者たちの考えでは、それが起きたのは1回だけではない。著者である米メリーランド大学のマイケル・ブラウン氏とドイツ、ポツダム地球科学研究センター(GFZ)のステファン・ソボレフ氏は、以前に発表されたデータに基づき、24億5000万年前から22億年前にかけて起こった別の全地球規模の氷河期も、同じように過去のプレート運動を引き起こしていたのではないかとみる。

 

 「証拠の保存状態に問題があるのは明らかです」とブラウン氏は言う。「今ある証拠でどうにかするしかありません」。それでも、一部の科学者は、断片的な地質記録を最大限に活用して、広い視野で古代の地質過程を捉えようとする研究チームのこうした試みを賞賛する。

 

 「これだけ総括的な展望が示されたのは今回が初めてです」と話すのは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のタラス・ゲリャ氏だ。「それがこの論文の優れた点の1つです」

 

  一方、懐疑的な研究者もいる。米ミネソタ大学ダルース校のビッキー・ハンセン氏はその1人だ。まだ論争が決着していない問題について、この論文はあまりにも断定的に結論を下している、と異議を唱える。

 

 「ごまかしが多い論文だと思います」とハンセン氏は言う。「これこれの時期に大規模なプレートの沈み込みがあった、などと言ってはいけません。我々はプレート運動が始まった時期さえわかっておらず、今でも激しい、非常に激しい論争が続いているのですから」

 

 


■堆積物は「潤滑剤」という着想
 
 ことの始まりは2016年だった。ソボレフ氏は、プレート運動の起源と進化に関する研究会でブラウン氏とタッグを組んだ。

 

 「2人が手を組めば面白い研究ができると気づいたのです」とブラウン氏は言う。

 

  彼らは話し合っているうちに、堆積物が過去と現在の地球を結びつける手がかりになるかもしれないと気がついた。期待できるアイデアを手にした2人は、現在のプレートの沈み込みについて、数値モデルを使った実験を開始。すると、現在のプレートの速さを再現するには、堆積物の潤滑材としての特性が必須であること、そして、堆積物が多すぎればプレートの動きが速くなりすぎ、少なすぎれば遅くなりすぎることが確かめられた。

 

  それで、本当に全地球凍結が現在のプレート運動を開始させたと言えるのだろうか?

 

 「それはニワトリが先か、卵が先かという話です」と言うのは、米テキサス大学ダラス校のロバート・スターン氏だ。同氏は今回の研究に関わっていない。

 

  スターン氏は以前に行った研究で、今回の論文とは正反対の結論を導き出している。つまり、プレート運動の開始が7億年前のスノーボールアースを引き起こしたのではないか、というのだ。プレート運動が始まったことで火山活動が活発になり、二酸化硫黄が成層圏に放出されて地球が冷やされ、全地球凍結に至ったという説である。氏は今回の研究の結論について興味深く感じているが、納得はしていない。

 

  堆積物が本当にプレートの潤滑剤になるのかという問題もある。それを支持する過去の研究もあり、ゲリャ氏はこのアイデアを「意外ではない」と言うものの、地球規模でこのプロセスを考えたことはなかったと打ち明けた。

 

  しかし、プレートの潤滑剤になりそうなものは堆積物だけではない、とポルトガル、リスボン大学ドン・ルイス研究所の海洋地質学者ジョアン・ドゥアルテ氏は忠告する。堆積物が主要な潤滑剤であるなら、堆積物が厚いほど沈み込みは速くなるはずだが、実際にはそうならないことをドゥアルテ氏らは検証した。その代わり、数値モデルや室内規模の実験で、主要な潤滑剤は水であることが示されたという。水は堆積物だけでなく、沈み込むプレートに含まれていた鉱物からも出てくる。

 

  それでもドゥアルテ氏は、今回のような研究は重要だと考えている。なぜなら、科学者たちに異なる角度から問題を考えさせ、かつての地球が今とは全く違う惑星だったことを改めて教えてくれるからだ。

 

  ブラウン氏は、今回の結論をめぐる論争こそが、まさに科学のプロセスの一部なのだと言う。

 

 「私たちが使用したデータの範囲では、仮説はうまくいっています」とブラウン氏。「今度は、別の研究者が私たちの仮説に間違いがあることを示す番です」

 

 

 

この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。

文=Robin George Andrews、Maya Wei-Haas/訳=三枝小夜子、牧野建志

3/29(日) 18:02配信  ナショナル ジオグラフィック日本版

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿