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「もっと早く知りたかった」DVで妻を失った夫の涙。DV加害者を“治す”方法がある

2023年12月24日 | スクラップ

 

 

 

 欲望が渦巻く新宿歌舞伎町。トー横キッズにホス狂い、大久保公園のたちんぼ。危険と隣あわせの夜の世界で刹那的に生きている彼女たちは当然事件に巻き込まれることも多く、その度に世間からは「自業自得だ」と批判を浴びせられる対象となる。

 

 彼女たちは一体どうしてそこにいて、どう生きているのか。元夜職、元看護師の肩書を持つエッセイストでライターのyuzuka(@yuzuka_tecpizza)が取材する(以下、yuzuka寄稿)。

 

 

 

◆女性理事長に聞くDV加害者の支援

 

 どうして家庭内で暴力が起こるのか。それを防ぐ方法や対策はないのか。そんな疑問に答えてくれたのがNPO法人女性・人権支援センターステップ理事長である栗原加代美(くりはらかよみ)さんだ。彼女は全国でも珍しい、DV被害者・加害者の更生支援を15年以上にわたって行なっている。

 

 自身も暴力のある家庭で育ったという栗原さん。どうして彼女は被害者支援だけではなく、加害者更生支援に力を入れているのか。前回のインタビューに引き続きお話を聞いた。

 

 

 

◆「離婚か、ステップかと突きつけられた」


――どうして加害者側はDVによって相手を支配するようになってしまうのでしょう?

 

栗原:彼らのお父さんがそうしてきたからです。8~9割の加害者はそうです。自分自身も殴られ、怒鳴られ、否定されて育ってきたケースや、夫婦喧嘩をずっと見てきた、つまりは面前DVを受けてきた方がほとんどです。暴力だけを見て育っていて、感情の表し方が分からないから、「もうしない」と何度も謝っても繰り返してしまいます。

 

――どのような経緯でステップに相談にこられる方が多いですか?

 

栗原:最初の電話は、DVを受けた妻から来ることが多いです。「夫を更生プログラムに通わせたいんですけど、どうしたらいいですか?」と、ご相談をいただきます。「DVなんて言葉を使ったら叩かれてしまう」と怯えてるんですよね。それから、ある日突然、妻と子供に逃げられてしまったという加害者側からの相談も多いです。「前から妻に『あなたはDVだ』と言われていたんです」と、慌てて電話してくるんですね。あるいは「妻から、離婚か、ステップかと突きつけられた」というパターンも多いです。

 

 

 

◆面談でDV加害者の「意外な反応」

 

――そんな中、加害者側は最初の面談時、どのような反応をされることが多いですか?

 

栗原:ほとんどの加害者が、泣くんです。「もっと早く知りたかった。そうすれば、妻を失わずに済んだのに」と。

 

――加害者側も、苦しんでいる。

 

栗原:そうなんです。加害者もまた、両親や、そして社会の被害者でもあります。

 

――社会の被害者とは?

 

栗原:社会の中には、歪んだ価値観がたくさんあるんですね。例えば、力による支配を良しとする風潮がそうです。生徒よりも教師が上、子供よりも親が上、など、生活する中で多くの上下関係に支配されています。それから、ジェンダーバイアスもありますね。「女は家事をしなくてはならない」という社会の歪んだ価値観を学ぶことで「家事をしない女には怒っても良い」と思ってしまう。それがいかに危険な思想なのかと気づくのが、妻が家を出て行ってしまった後なんです。

 

 

 

◆DV加害者の支援プログラムとは?

 

――では、そんな加害者達に向け、どのようなプログラムを行うのでしょう?

 

栗原:オンラインで定期的に面談を行いながら、3つの学びの目標に向かっていきます。1つ目は「いかに怒りをマネジメントするか」、2つ目は「いかに思いやりを持つか」、3つ目は「いかに自分が幸せになるか」。この部分を、選択理論という考えの元に、毎週2時間、1年かけて計52回、夫婦で学んでいただきます。

 

 選択理論とは、アメリカの精神科医ウィリアム・グラッサー博士によって提唱された理論で、全ての行動は自らが選択しているという考え方です。この理論では、行動は他人や外的要因によって決まるのではなく、あくまでも自身の選択によって決まると考えられています。ステップではこの理論に基づき、自らの行動をコントロールする方法を身につけます。

 

――被害者側も一緒に参加するのですね。

 

栗原:ほとんどの方が、夫婦で一緒にプログラムを受けています。夫婦で学ぶことで、共通目標ができます。また、先にも述べた通り、被害者側が加害者に「DVの更生プログラムを受けてほしい」と伝えることも難しいです。「夫婦で一緒に学ぼう」と伝えることも、スムーズに介入できる方法のひとつだと思っています。

 

 

 

◆プログラムを受けて“治る”割合は?

 

――このプログラムを受けて、どれくらいの割合の方が“治る”のでしょう?

 

栗原:8割です。アメリカでは、DVをすると罪が重く、被害者が電話をすれば即逮捕。4年間ほど刑務所に入れられ、更生プログラムの強制執行になります。その更生プログラムとして取り入れられているのが、私たちが使っているのと同じ“選択理論”です。

 

 これを学んでいない加害者が65%の確率で再犯するのに比べ、学んだ加害者の再犯率は3%まで低下します。この結果を見た時に、もしも更生プログラムをやるなら、これを取り入れるしかないと思いました。結果、他の団体のDV加害者更生プログラムでの変化率は3%なのに対して、ステップでは変化率80%のところまで持っていくことができました。

 

――「治る」というのは具体的にどのような状態でしょうか?

 

栗原:怒り行動を出さなくなることです。怒鳴らない、叩かない、物を投げない、穏やかになります。

 

 

 

◆怒らない人になるコツは?

 

――「怒らない人になる」というのは可能なのでしょうか?

 

栗原:イラっとする時には、必ずその前に“不快”だという感情があるんです。誰だって、相手が自分の思い通りにならないと、不快になることがありますよね。大事なのは、不快になった時に、プラス思考を取り入れ、いかに早く切り替えるかです。この切り替えが早ければ早いほど、周りからは“怒らない人”に見えます。いつも1秒、2秒で切り替えることができれば、全く怒らない人に見えますよね。周りからは「仏様のようだ」と言われます。ステップでは、この「怒りの初期消化」を身につけるんです。

 

――ちなみに、治らない人2割の方は、そのあたりを身につけるのが難しいということでしょうか?

 

栗原:彼らは頑固な、岩のような硬い自分なりのプライドを持っていて、「絶対に俺の言っていることが正しい」と言った感じで、こちらの言葉を一切聞き入れないんですね。そういう方は指導しても実践ができないので、変わりませんよね。その結果、ほとんどの方が離婚します。

 

 

 

◆加害者の改善で夫婦仲が良くなることも

 

――反対に、改善が認められた場合は、夫婦仲も修復される方が多い?

 

栗原:加害者側の改善が認められた段階で、被害者側には会ってもらうようにしているんです。その頃には、加害者側の顔が変わっています。眉間の皺がなくなり、目つきが変わり、笑顔が溢れ、表情が穏やかになっている。それを一目見た被害者側は「別人のように変わった」と言うことが多いです。今まで怯えていたのに「そばにいて癒される」というんです。不思議ですよね。

 

――影響が出ていた子供たちはどうなりますか?

 

栗原:かんしゃくや発達障害が治るケースが多いです。夫婦関係が良くなることで、家族みんなの状態が改善されます。

 

 

 

◆DVの「ゆでたまごの法則」

 

――ステップがあることで、「別れる」以外にも選択肢が増えるわけですね。

 

栗原:行政は、DVがあると「別れろ」一択です。しかし、妻は夫を愛していて、子供も、親とは離れたくないと泣きます。一度、被害者側から聞いたのは「別れなければ子供は返さない」と、無理矢理別れさせられた、と。しかし、無理矢理引き裂いたところで、「本当は別れたくなかった」と、こっそり戻って付き合ってしまう。その方は今でも仲良くお付き合いを続けています。行政だってつけ回して監視することはできませんから、表面上の措置には意味がありません。

 

――DV被害者に相談をされたら、どんなアドバイスをすれば良いですか?

 

栗原:1人で抱え込まないこと。互助会などに参加したりして、自分の気持ちを話すことは大事です。また、身体的な暴力がある場合は警察には相談しておき、何かあったときにはすぐに駆けつけてもらえるようにしましょう。

 

 それから、これは私がよく被害者に伝えているのですが、「ゆでたまごの法則」を頭に入れておいてほしいなと思います。卵はよく茹でて真ん中で切ると、白身と黄身が綺麗に別れますよね。この白身が加害者、黄身が被害者です。何か暴言を吐かれても、このゆで卵のようにしっかり境界を作り、自分の中には入れないことが大事です。

 

 例えば「お前は人間失格だ!」と言われても、「私はそうじゃない」と聞き流し、決して自分の中に入れないでください。相手に言い返せなくても、自分の中で唱えるだけで良いです。こういった言葉を自分の中に受け入れてしまうと、白身と黄身の境界がなくなり、スクランブルエッグのように混ざりあってしまいます。自分の中で「NO」と、境界を持つ。その「NO」が通用しなくなったら、警察介入など、次の段階になります。

 

 

 

◆取材を終えて「本当の意味で前に進むために」

 

 DV被害者への支援をはじめたきっかけについて、幼少期の頃のお話をしてくださった栗原さん。毎晩起こる家庭内暴力に怯え、家族と畑に逃げ込みながら、「こんな目に遭う女性を助ける活動をするのだ」と、その頃から強く胸に誓っていたそうだ。幼い少女の目標は実現し、ステップでの活動は、現在も多くの被害者たちの希望となっている。

 

 実際にステップのプログラムによって夫婦の関係を修復できた被害者の方に、栗原さんが言われたという言葉が心に残っている。「これでやっと、“元被害者”になれました」。加害者がいる限り、被害者はいつまでも被害者のままである。加害者が更生してやっと、被害者は“元被害者”となり、本当の意味で前に進めるのかもしれない。

 

「別れればいい」と、傍観者は簡単に口にするが、実際に行動に移せる人が、どれだけいるのだろうか。別れるでもなく、逃げるでもなく、もう一度向き合うことができるのなら。その選択肢に救われる被害者は多いように感じた。

 

 次回は、ステップの加害者更生プログラムを経て、実際に家族関係を修復するに至った中島さん(仮名)にお話を聞いた。そこで浮かび上がったのは、切ない暴力の連鎖による加害者側の苦悩だった。

 

 


【栗原加代美】

1946年、旧満州生まれ。共立女子大学英文科卒。2001年、神奈川県にDV被害者保護シェルター開設。2011年、「選択理論」を用いてDV加害者更生プログラム開始。NPO法人女性・人権支援センターステップ理事長。日本選択理論心理学会会員。2013年に国際ソロプチミスト社会貢献賞、2021年に社会貢献者表彰を授与される

 

【yuzuka】

エッセイスト。精神科・美容外科の元看護師でもある。著書に『埋まらないよ、そんな男じゃ。モノクロな世界は「誰かのための人生」を終わらせることで動きだす。』『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』など。Twitter:@yuzuka_tecpizza

 

 

 

<TEXT/yuzuka>
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