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普天間移設 名護市民は既に答えを出した=井本義親(西部報道部)

2010年03月01日 | スクラップ



■今度は鳩山首相の番だ 迷走続けば反動大



 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を巡って、政府与党の迷走が続いている。沖縄県北部の名護市辺野古(へのこ)地区が移設先として浮上したのは13年余りも前のことだ。長く国の思惑に翻弄(ほんろう)されてきた市民は1月24日投開票の市長選で、明確に「移設NO」の意思を示した。「辺野古に海上滑走路を建設するのは駄目だが、陸上案なら可能ではないか」。そんな主張も出ている政府与党内の議論について、多くの市民が怒りをもって見つめている。

 この間に名護市では1回の市民投票と、計4回の市長選が行われた。どの選挙も普天間移設の是非が争点となった。いずれも壮絶な選挙戦となったが、市長選は今回を除いて移設容認派が勝利してきた。だが、結果だけを見て「名護市民には移設容認派も多いのでは」と思うのは早計だ。背景にある国の状況がまったく違うのだから。

 名護市の、そして沖縄県の民意を大きく「移設NO」に振れさせたのは、言うまでもなく昨夏の衆院選に際して県外への移設を主張した鳩山由紀夫首相の発言だ。

 移設反対を訴えた稲嶺進市長(64)を支援した玉城(たまき)義和県議は98年の名護市長選で惜敗した自身の経験も踏まえ、選挙期間中から勝利を予測していた。「今までは反対派でさえ『強引に迫る国に本当に対抗できるか』という思いをぬぐえなかった。今回は政権交代で国からの抑圧がない。自分の意思を示そうという流れができている」。私はこの言葉に、これまで3回の市長選で反対派が勝利できなかった原因を見たと思った。

 政権交代前、沖縄の民意は「アメとムチ」と評される金(振興策による国費投入)と力(政権の意思)で押さえつけられてきた。首相の発言はそのくびきから解き放ったが、私は市長選を経てもう後戻りできないところまで来てしまったとも感じている。市長選で敗れた島袋吉和氏(63)を支援した自民党沖縄県連が、普天間飛行場の県外移設を求める意見書案を2月県議会に提出することを決めたこともその表れの一つだろう。

 この13年間に名護市と国の間に複雑な感情が生まれたことも指摘しておきたい。それを感じたのは、市長選の取材で元市長の渡具知(とぐち)裕徳(ゆうとく)さん(80)を訪ねた時だった。渡具知さんは移設に反対だが「国が誠心誠意対応していれば、基地はとっくにできていただろう」と語った。

 渡具知さんがその一例に挙げたのは再編交付金だ。米軍再編を進めるため、国が受け入れ先の自治体に投じた総額は今年度までに約230億円。名護市も対象となったが、移設に向けた動きが停滞したとみるや、国が一時支給対象から外したことがあった。

 こうした対応の背景には「大金を出してやっているのだから言うことを聞け」という思いが透けて見える。「容認派だって感情的におもしろくないさ。そういうものが積み重なって今につながっている」。渡具知さんはそう分析したが、現在の政府与党も、別の意味で沖縄の民意を軽んじている気がしてならない。

 鳩山首相の発言をきっかけに膨らんだ沖縄の民意だが、現在は別の方向に向かい始めている。昨年11月8日に宜野湾市であった県民大会で、名護市の小学生が「総理、約束を守って」と訴える場面があったが、当時は鳩山首相への期待感と不信感が混在していた。ところが今は不信感と怒りが強まっている。

 そのきっかけは、名護市長選後の平野博文官房長官の発言だった。「(市長選の結果を)斟酌(しんしゃく)しなければならない理由はない」。反対派はもちろん、島袋氏でさえ「県民と市民をもてあそんでいる」と強い憤りを示した。

 今月20日に仲井真弘多(なかいまひろかず)知事と会談した平野長官は自身の発言について「まったく誤解だ」と釈明する一方、県外移設を求める知事に「ベストを求めていくが、ベターになるかもしれない」と語った。多くの県民はこの言葉を県内移設を示唆したもの、と受け取ったのではないだろうか。

 政権交代前は「アメとムチ」で移設受け入れを迫られ、今は名護市民がようやく示した民意を無視するかのような議論が進んでいる。万一、「辺野古陸上案」で落ち着くことになれば、期待を抱かせた分、反動も大きくなるだろう。これは、これまでよりひどい不誠実な対応と言えるのではないか。

 そもそも普天間移設問題について、市長選後への結論先送りを決めたのは政府だ。鳩山首相は移設先について「沖縄県民にも理解される結論を出す」と述べた。「言葉の軽さ」が指摘される鳩山首相だが、名護市民は既に答えを出している。あとは首相が自分の言葉にどう責任を取るかだ。



毎日新聞 2010年2月24日 東京朝刊


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