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米特使の原爆正当化論  虚構に虚構を重ねた放言

2007年08月01日 | スクラップ



 米国のロバート・ジョゼフ核不拡散問題担当特使が三日、ワシントンでの記者会見で、「広島、長崎への原爆投下が戦争を終わらせ、結果的に何百万人もの日本人の命が救われた」と述べ、さらに「ほとんどの歴史家は同意すると思う」と付け加えた。

 無差別大量殺りくを目的とする原爆の使用は、明確な国際法違反であり、それを正当化する理由など、どこにもない。それを、あえて正当化しようとする特使の態度は、著しく道徳性を欠いている。

 さらに特使の発言には問題がある。それは、過去の米政府の公式の原爆正当化論をも逸脱し、個人的に勝手な誇張を加えている点だ。米政府は「原爆で百万人の米兵の命が救われた」と主張してきたが、「何百万人もの日本人の命が救われた」とわざわざ強調したことはない。特使の発言は虚構を付け加えた放言であり、不誠実の極みである。

 しかも、「ほとんどの歴史家は同意すると思う」というが、米国原爆研究の第一人者ガー・アルペロビッツなど、多くの歴史家は「原爆投下は不要だった」との見解を示している。ここにも、特使のうそがある。

 日本では久間章生前防衛相が「原爆投下はしょうがない」と述べ、辞任に追い込まれた。期せずして、日米政府の高官が原爆について無責任な放言を行ったことになる。

 これは由々しき事態だ。原爆について、政治家の思い付きの放言がまかり通るようになれば、日米両国民の正しい原爆理解が妨げられる。特に虚構の上に立脚した米国民の原爆観は、ますますゆがみ、核兵器廃絶の道は一層遠のく。米国民に、原爆の正しい知識を伝えていく努力が今こそ必要だ。

 そもそも、米政府の正当化論自体が虚構である。アルペロビッツ著「原爆投下決断の内幕」によると、投下命令を下したトルーマン大統領は、長崎に原爆を投下した直後の演説では「数千、数万人の米国の若者の命を救うために原爆を使用した」と述べたにすぎない。ところがトルーマンは、その人数を一九四九年四月に「二十万」に、その半年後に「五十万」に膨らませ、五九年に「百万」にまで膨らませた。「原爆で米兵百万人の命が救われた」とする「原爆神話」は、投下から十四年かけて米政府が意図的に作り上げた政治宣伝にほかならない。

 「原爆で命が救われた」とする原爆救命説には、「原爆で戦争が終わり、日本本土上陸作戦が回避できたため、米兵に犠牲を出さずにすんだ」との前提があるが、これも米歴史家たちの研究で否定されている。米軍は四五年七月には、「日本は降伏寸前で、もはや上陸作戦は不要」と判断していた。戦後の米戦略爆撃調査団の報告書も「日本の降伏に上陸も原爆も必要なかった」と明記している。

 にもかかわらず、米政府は原爆投下正当化論を主張し続け、それを多くの米国民が信じている。被爆地長崎から米国民に真実を伝えなければならない。(高橋信雄)





長崎新聞(2007年7月6日掲載)


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