らぷんつぇる**

日々のささいな出来事をつづったり
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ひとりごとを言ってみたり。など。

『廃墟の上でダンス チェチェンの戦火を生き抜いた少女』

2008年08月17日 14時43分05秒 | Books
ロシアがグルジアに侵攻しました。
そして、夏といえば終戦、平和祈念の季節です。
というわけで、今起きている紛争についての本。

*あらすじ*
ミラーナはチェチェンで生まれ育ったチェチェン人の少女。
14歳、初めてのダンスパーティに何を着ていくか友達とさんざん悩むが、そのパーティが開かれることはついになかった…ロシアがチェチェンに侵攻してきたのだ。
度重なる爆撃、イングーシでの避難生活、理由なき殺戮や逮捕、拷問、モスクワでの露骨な差別…。
未来の見えないなか、チェチェンの大学に通い続けたミラーナはやがて幸運の切符を手にすることになる。
フランスの学生ボランティア団体であるESF(戦争に巻き込まれたり、政治的・宗教的・民族的な抑圧を受けている地域の学生の手助けをする組織)の手助けによってフランスに留学したミラーナ。
猛勉強の末、ロシア本国の人たちでさえ憧れる名門、パリ政治学院に入学できることに。
ミラーナは平和な環境で勉強しながらも、故郷チェチェンで「自由な」新聞を発行することを夢見て、チェチェンに帰ることを心に誓うのだった。


これ、当然ノンフィクションです。
戦争中の出来事が生々しく書いてあり、平和ボケ気味の日本人にとっては「現代でさえこんな差別意識満載の故なき惨状が繰り広げられているなんて!」って衝撃かも。
これじゃあ北方領土なんて絶対帰ってくるはずないよ…。

プーチンは「チェチェン人はみなテロリスト」って言っているけど、、そんなわけないよなぁ。
しかも「テロ撲滅」を掲げているから他の国も手が出せないし。
チェチェンは石油がとれるので、紛争がおきやすい地域の典型でしょう。
ロシアやりかたが汚すぎるー。
ちなみに、プーチンの手の者に暗殺されたと考えられているジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤは、チェチェン問題を糾弾しようとしたジャーナリストでした。
ポロニウムによる中毒死事件で有名になったアレクサンドル・リトビネンコ氏もプーチン政権とチェチェン問題を批判していたし。
彼が毒物で倒れたのはアンナ・ポリトコフスカヤ事件の真相究明のためにイタリア人教授と会い、会食をしたあとだったそうです。
…言論の自由もないらしい。
正直、著者ミラーナさんの身の安全も心配です。
こんな国が国連安全保障理事会の常任理事でいいのだろか…。

ミラーナさんは本人の努力と精神力もあって運をつかんだけど、それを謙虚に受け止めて周囲の人々に感謝しつつ、絶対に故郷に戻ってチェチェンのために生きたいっていう姿勢がすごいです。
身近な人の死やむごい殺され方を間近で見ているのに…自分だったらそんな勇気が持てるかな??

日本に原爆が落とされた後も、核兵器は使われていないにせよ、世界中で紛争や虐殺が起きていて、人間はなにも学んでいないのかなぁって悲しくなりますね…。
イスラエルなんて、もともと虐げられていた人々が今度は虐殺をしているわけでしょ。

へんにグローバル社会なんて目指さずに、同じ民族・同じ宗教同士でちんまりコミュニティ作って生きていた方が、人間は幸せだったのかも、って思う。
宗教の違いで殺し合うくらいなら、無宗教でよいのに。
そういう点では、日本って宗教先進国だよね。
みんな見習え。

*データ*
著者:ミラーナ・テルローヴァ
訳:橘明美
出版社:ポプラ社
定価:1500円+税(ハードカバー)
ISBN:978-4591099599

『赤朽葉家の伝説』

2008年08月17日 14時05分53秒 | Books
お正月頃図書館で予約して、やっと借りられたシロモノ。
ちなみに、『私の男』の著者である桜庭一樹さんの本です。

*あらすじ*
「山の民」に置き去りにされた赤ん坊は、村の若夫婦に育てられ、のちに製鉄業で財をなした旧家赤朽葉家に望まれて輿入れする。
これが祖母、赤朽葉万葉。
万葉には4人の子供と夫の愛人の死後引き取って育てた子供が一人いたが、そのなかでもっとも美しく、もっとも荒々しい性格であったのが、のちに漫画家となる長女だった。
これが母、赤朽葉毛毬。
そして、現代。
語り手である私、赤朽葉瞳子には語るべき物語はまだ何もない-。
高度成長期、バブル崩壊を経て平成に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女達の物語。


フィクションなのだけど、現代史を踏まえた上で書かれているので、教科書なんかじゃわからない「一般庶民の歴史」が感じられて、それが一番面白かったかも。
自分がまだ生まれていない時代に、どんな時代背景があって(高度成長期やバブルなど)ふつーの人々がそれにどんな風に影響されて(製鉄業の盛衰や、バブル期に踊らされた人々)、どんな流行があったのかがこれを読むとわかりやすい。
それぞれの時代を象徴するような人も出てくるし。
例えば、制服のスカートをズルズルに長くしたいわゆるスケバンや、リーゼント頭の不良(?)が闊歩していた時代に東大目指して地味に勉強してた「マジメ・地味派」が、のちのバブルではじけまくるという構図、なるほどなーと思った。

内容的には祖母、母の世代の人々の数奇な運命をたどり(このへんの話はほんとに珍妙)、現代人の瞳子は「ほんとに話すことは何もないんだよねー」てな感じ。
瞳子の章は、祖母・万葉が死に際に残した言葉の謎解明のための章ですね。。。

なんだか最初のほうは「伝説」にふさわしく神懸かり的な雰囲気があったのに、現代に近づくにつれて現実色が濃くなってくる。
万葉は未来が見えるし、「山の民」は自殺した死者を葬りに現れるし、万葉の子供はへんな生まれ方をするし。
万葉の子供の名前もへんなんだけど、孫の名前は普通だしな。

ツボだったのは万葉の姑であるタツのしゃべり方。
「~なのよぅ」とか小さい「う」が入るのが何か良い。
キャラクターも、旧家の大奥様っぽくなくて(お高くとまってない)、でも周囲からは畏敬のまなざしで見られていて誰も逆らわないってのが新鮮。

系統としてはガルケスの『百年の孤独』っぽい。
あれよりはもうちょっと未来につづく感じがするけど。
『百年の孤独』も、たまに非現実的なシーンが出てくるし。

この作家さんの他の本も読んでみようかな、と思いました。
なかなか期待できそう。

*データ*
著者:桜庭一樹
出版社:東京創元社
ISBN:978-4488023935