なんかぎょっとするタイトルですが…。
わたしは全くもって存在を知らなかったのだけど、かつてアメリカにはノーベル賞受賞者の精子を提供する精子バンクがあったのです。
それも、巷にあふれかえる劣悪な遺伝子から人類を救うには、天才の血を引く子供達を増やすのが一番だという優生学(ナチスがユダヤ人迫害に使ったいわくつきの。)に基づいた考えから作られたバンクだったのです。
ネットマガジンの編集長がインターネットを駆使し、この謎に包まれたノーベル賞受賞者精子バンクについて調べ上げまとめたのがこの本。
謎に包まれている、というのはこのバンクが閉鎖されたときに多くの資料が失われたから(あるいはもともときちんとしたデータ管理がなされていなかったため)。
そこで著者は精子のドナー、バンクを利用した女性と、バンクの精子によってこの世に生まれた子供達との接触を図る。
1980年に作られ、議論の的となり、1999年に静かに終焉を迎えたこのバンクは200人以上の子供を送り出したが、果たして彼らはバンクの狙いどおり「天才児」だったのか?
バンクを利用した女性やその子供とコンタクトをとるのは結構難しいと思うのだけど、著者はバンクから生まれた217人のうち30人と知り合いになることに成功しています。
すごいジャーナリスト魂。
さらには何人かのドナーの身元も明らかにし、ドナーと子供を会わせることにも成功しています。
このへん、かなり繊細なところだと思うけど。
このバンクはその優生学的な考え方からナチ的だと非難ごうごうだったのだけど、「お客さん」である女性達には人気があったのです。
なぜなら、このバンクはその当時唯一ドナーが選べる(ただし匿名)バンクだったから。
このバンク以前では、精子の提供はそのへんの医学生で間に合わせていたり、産科医自身のものを使っていたんだとか。
このバンクができたことによって、権威主義的だった不妊治療の世界にも商業主義的な風潮ができあがっていったというのはなんだか不思議な感じ。
ともかく、精子バンクのあり方自体に一石を投じた出来事ではあったんですね。
遺伝的な要素を最重視して「生まれが全て」みたいな立場のバンクに見えるのですが、著者が様々な子供に出会い話を交わした結果、行きついたのは皮肉なことに「どっちかというと、育ちが大事なんじゃない?」って結論。
これは面白い結果だと思います。
正しくは、精子バンクで天才児を増やそうという試み自体無意味(女性の方の遺伝的要素や、子供が育つ環境はまったく無視しているわけだから)ってことが再確認できたってだけなんだけど。
いやー、それにしてもノーベル賞受賞者の中にもヘンな人が山ほどいるなぁ。
差別主義者も普通にいるし。
科学的な頭の良さと人格のすばらしさとは無関係だってことがよく分かる本ですね、これ。
一番ナゾなのはバンクの設立者、グラハムなのだけど。
彼の思考回路はホント謎です。
彼は人種差別をふつーにするんだけど白人至上主義者ではなく、彼の頭んなかではユダヤ人>アジア人>白人>黒人なんだとか。
それも、ユダヤ人差別のあるような環境で育ったにも関わらず。
あと、島を買い取って国を作ろうとしたりとか。
アメリカにおける強制断種の歴史や精子バンク設立の背景もよく調べられているし、この著者は自分も精子ドナーを体験することまでやっているので(実際に提供まではしなかった)、煽動的なタイトルの割にはマジメな本です。
天才精子バンクのドナーが本当はどんな人間なのかを明らかにしていく過程は読み物としても面白いし。
アメリカのジャーナリストの書く文章の常として、明らかに相手にマイナス感情を持っているのがむき出しな場面(そこまでけなすかよ!!)も多々あって、それは若干気になるけど。
*データ*
著者:デイヴィッド・プロッツ
訳者:酒井泰介
出版社:早川書房
定価:840円(税別)
ISBN:978-4-15-050330-7
わたしは全くもって存在を知らなかったのだけど、かつてアメリカにはノーベル賞受賞者の精子を提供する精子バンクがあったのです。
それも、巷にあふれかえる劣悪な遺伝子から人類を救うには、天才の血を引く子供達を増やすのが一番だという優生学(ナチスがユダヤ人迫害に使ったいわくつきの。)に基づいた考えから作られたバンクだったのです。
ネットマガジンの編集長がインターネットを駆使し、この謎に包まれたノーベル賞受賞者精子バンクについて調べ上げまとめたのがこの本。
謎に包まれている、というのはこのバンクが閉鎖されたときに多くの資料が失われたから(あるいはもともときちんとしたデータ管理がなされていなかったため)。
そこで著者は精子のドナー、バンクを利用した女性と、バンクの精子によってこの世に生まれた子供達との接触を図る。
1980年に作られ、議論の的となり、1999年に静かに終焉を迎えたこのバンクは200人以上の子供を送り出したが、果たして彼らはバンクの狙いどおり「天才児」だったのか?
バンクを利用した女性やその子供とコンタクトをとるのは結構難しいと思うのだけど、著者はバンクから生まれた217人のうち30人と知り合いになることに成功しています。
すごいジャーナリスト魂。
さらには何人かのドナーの身元も明らかにし、ドナーと子供を会わせることにも成功しています。
このへん、かなり繊細なところだと思うけど。
このバンクはその優生学的な考え方からナチ的だと非難ごうごうだったのだけど、「お客さん」である女性達には人気があったのです。
なぜなら、このバンクはその当時唯一ドナーが選べる(ただし匿名)バンクだったから。
このバンク以前では、精子の提供はそのへんの医学生で間に合わせていたり、産科医自身のものを使っていたんだとか。
このバンクができたことによって、権威主義的だった不妊治療の世界にも商業主義的な風潮ができあがっていったというのはなんだか不思議な感じ。
ともかく、精子バンクのあり方自体に一石を投じた出来事ではあったんですね。
遺伝的な要素を最重視して「生まれが全て」みたいな立場のバンクに見えるのですが、著者が様々な子供に出会い話を交わした結果、行きついたのは皮肉なことに「どっちかというと、育ちが大事なんじゃない?」って結論。
これは面白い結果だと思います。
正しくは、精子バンクで天才児を増やそうという試み自体無意味(女性の方の遺伝的要素や、子供が育つ環境はまったく無視しているわけだから)ってことが再確認できたってだけなんだけど。
いやー、それにしてもノーベル賞受賞者の中にもヘンな人が山ほどいるなぁ。
差別主義者も普通にいるし。
科学的な頭の良さと人格のすばらしさとは無関係だってことがよく分かる本ですね、これ。
一番ナゾなのはバンクの設立者、グラハムなのだけど。
彼の思考回路はホント謎です。
彼は人種差別をふつーにするんだけど白人至上主義者ではなく、彼の頭んなかではユダヤ人>アジア人>白人>黒人なんだとか。
それも、ユダヤ人差別のあるような環境で育ったにも関わらず。
あと、島を買い取って国を作ろうとしたりとか。
アメリカにおける強制断種の歴史や精子バンク設立の背景もよく調べられているし、この著者は自分も精子ドナーを体験することまでやっているので(実際に提供まではしなかった)、煽動的なタイトルの割にはマジメな本です。
天才精子バンクのドナーが本当はどんな人間なのかを明らかにしていく過程は読み物としても面白いし。
アメリカのジャーナリストの書く文章の常として、明らかに相手にマイナス感情を持っているのがむき出しな場面(そこまでけなすかよ!!)も多々あって、それは若干気になるけど。
*データ*
著者:デイヴィッド・プロッツ
訳者:酒井泰介
出版社:早川書房
定価:840円(税別)
ISBN:978-4-15-050330-7