らぷんつぇる**

日々のささいな出来事をつづったり
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ひとりごとを言ってみたり。など。

『ノーベル賞受賞者の精子バンク 天才の遺伝子は天才を生んだか』

2008年06月28日 23時53分07秒 | Books
なんかぎょっとするタイトルですが…。
わたしは全くもって存在を知らなかったのだけど、かつてアメリカにはノーベル賞受賞者の精子を提供する精子バンクがあったのです。
それも、巷にあふれかえる劣悪な遺伝子から人類を救うには、天才の血を引く子供達を増やすのが一番だという優生学(ナチスがユダヤ人迫害に使ったいわくつきの。)に基づいた考えから作られたバンクだったのです。

ネットマガジンの編集長がインターネットを駆使し、この謎に包まれたノーベル賞受賞者精子バンクについて調べ上げまとめたのがこの本。
謎に包まれている、というのはこのバンクが閉鎖されたときに多くの資料が失われたから(あるいはもともときちんとしたデータ管理がなされていなかったため)。
そこで著者は精子のドナー、バンクを利用した女性と、バンクの精子によってこの世に生まれた子供達との接触を図る。
1980年に作られ、議論の的となり、1999年に静かに終焉を迎えたこのバンクは200人以上の子供を送り出したが、果たして彼らはバンクの狙いどおり「天才児」だったのか?

バンクを利用した女性やその子供とコンタクトをとるのは結構難しいと思うのだけど、著者はバンクから生まれた217人のうち30人と知り合いになることに成功しています。
すごいジャーナリスト魂。
さらには何人かのドナーの身元も明らかにし、ドナーと子供を会わせることにも成功しています。
このへん、かなり繊細なところだと思うけど。

このバンクはその優生学的な考え方からナチ的だと非難ごうごうだったのだけど、「お客さん」である女性達には人気があったのです。
なぜなら、このバンクはその当時唯一ドナーが選べる(ただし匿名)バンクだったから。
このバンク以前では、精子の提供はそのへんの医学生で間に合わせていたり、産科医自身のものを使っていたんだとか。
このバンクができたことによって、権威主義的だった不妊治療の世界にも商業主義的な風潮ができあがっていったというのはなんだか不思議な感じ。
ともかく、精子バンクのあり方自体に一石を投じた出来事ではあったんですね。

遺伝的な要素を最重視して「生まれが全て」みたいな立場のバンクに見えるのですが、著者が様々な子供に出会い話を交わした結果、行きついたのは皮肉なことに「どっちかというと、育ちが大事なんじゃない?」って結論。
これは面白い結果だと思います。
正しくは、精子バンクで天才児を増やそうという試み自体無意味(女性の方の遺伝的要素や、子供が育つ環境はまったく無視しているわけだから)ってことが再確認できたってだけなんだけど。

いやー、それにしてもノーベル賞受賞者の中にもヘンな人が山ほどいるなぁ。
差別主義者も普通にいるし。
科学的な頭の良さと人格のすばらしさとは無関係だってことがよく分かる本ですね、これ。
一番ナゾなのはバンクの設立者、グラハムなのだけど。
彼の思考回路はホント謎です。
彼は人種差別をふつーにするんだけど白人至上主義者ではなく、彼の頭んなかではユダヤ人>アジア人>白人>黒人なんだとか。
それも、ユダヤ人差別のあるような環境で育ったにも関わらず。
あと、島を買い取って国を作ろうとしたりとか。

アメリカにおける強制断種の歴史や精子バンク設立の背景もよく調べられているし、この著者は自分も精子ドナーを体験することまでやっているので(実際に提供まではしなかった)、煽動的なタイトルの割にはマジメな本です。
天才精子バンクのドナーが本当はどんな人間なのかを明らかにしていく過程は読み物としても面白いし。
アメリカのジャーナリストの書く文章の常として、明らかに相手にマイナス感情を持っているのがむき出しな場面(そこまでけなすかよ!!)も多々あって、それは若干気になるけど。

*データ*
著者:デイヴィッド・プロッツ
訳者:酒井泰介
出版社:早川書房
定価:840円(税別)
ISBN:978-4-15-050330-7

Table for Two

2008年06月28日 00時28分11秒 | いまどきのにほん
格差社会と言われるこの世の中。
日本の中でさえ問題になっているけれど、世界レベルで見てみれば「肥満に悩む先進国の人々」と「日々の食事にも事欠く発展途上国の人々」ていうかなりスケールの大きな問題に対峙せざるを得ない状況です。
なんてこった、やっぱり世の中は不公平だ。

んで、そんな不平等をできるところから解決していこうという取り組みが「TABLE FOR TWO」。
先進国のひとに低カロリーメニューを提供することでメタボ問題の解消を図り、一方でその売上の一部を飢餓に苦しむ国の学校給食に当てようという試みです。
やっていることはささいなことだけど、地球レベルの人間のつながりを感じる運動ですねぇ 。
なんと、意外にも日本初の運動らしい。

企業では、ポーラや伊藤忠、ファミリーマート、日本航空などが会社レベルで取り組んでいるそう。
5月からは参議院や議員会館の食堂でも運動がスタートしたんだとか。
おおー、素晴らしいじゃん日本企業!
…と最初は思ったんだけど。

この程度の運動じゃ先進国の気休めにしかならないんじゃないかって気がしなくもない。
温暖化問題やら資源の枯渇やら食糧問題やら、「なんとかなるだろー」みたいな姿勢ではどうにもならなくなってきてる以上、何にもしないよりはなにか始めた方がまし、ではあるけど。

「世の中はどんどん豊かになる」ってのも幻想で、既得権を手放さなきゃいけない時代が目前に迫っているんだろうな。
レストランや公共施設のお手洗いで、洗った手を拭くためのペーパーを置かなくなるとか(実際研究室ではマイタオル持参が習慣になりつつある。よいことです)。
そんなちっちゃいことに始まり、そのうち電気の使用量が家庭ごとに制限されるとか。
特別な事情がないかぎり、マイカー禁止になるとか。。。

ほんとうに地球環境保護とか、貧困問題・飢餓問題を解決しようと思ったら、自分もそれなりに痛みを伴うアクションを起こさなければいけないんじゃないかな。
ただ社食を利用するだけで、飢餓問題に貢献できるっていうのは豊かに暮らしている人間の思い上がりかもしれない…。

そういえば、ちょっと前ヴォルヴィックがミネラルウォーターの売上に応じて、アフリカでの井戸普及を支援する運動をやっていたなー。
これでヴォルヴィックは売上を増やしたらしいけど、そもそも水道水が飲めるという水にめぐまれた日本で、わざわざ外国の水(日本に来るまでにとんでもない量のエネルギーを費やしている)を買うってこと自体が格差の象徴みたいな行動なのに…なんだかな。
ほんとに井戸づくりを支援したいならヴォルヴィックを買うお金をそのまま寄付すればいいのに。
結局大企業の手のひらで踊らされているワタシタチ。

なんだか最初に書こうと思ってたTABLE FOR TWO賛美が微妙な方向にずれてしまった。
TABLE FOR TWOって試み自体はいいと思うのよね…。
ただそのレベルでぬくぬくしててはいけないってことをわかっていれば。
次なる肥満・飢餓問題解決プロジェクトはずばり、メタボさん井戸掘りツアー!じゃないですか。
どうよ。

元ネタ→NBonline「低カロリー食事で、飢餓問題を援助」

『わたしを離さないで』

2008年06月14日 22時05分25秒 | Books
カズオ・イシグロ。
彼の本も初めて。
彼はもともと日本人で、生まれも日本なのだけど(今は英国に帰化している)、5歳の時に家族と共に英国に渡ってそこで教育を受け、英語での執筆活動を行っている作家です。
この本で英国の文学賞を総なめにしたそう。
すでに他の著作でブッカー賞をもらっているのだけど、この本もブッカー賞の最終選考に残ったのだとか。

*あらすじ*
自他共に認める優秀な介護人、キャシー・H。
彼女の仕事は提供者とよばれる人々のお世話。
かつてヘールシャムと呼ばれる学校で生活を共にした友人たちを介護したこともある。
もうすぐこの仕事を終えるキャシーがことあるごとに思い出すのは、ヘールシャムで過ごした日々。
図画工作に力を入れる授業や様々な不可解な決まり、マダムと呼ばれる女性の訪問…。
キャシーの回想を通して明かされていく真実とは…。


こ、この本、ホラーじゃないのにホラーです…。いや、この本こそ一級のホラーなのかな??
ジャンルとしてはSFに入るのかも。
ぽつぽつ出てくるキーワードでこの学校の目的やキャシーの未来が予想できてしまうんだけど、本の流れ自体がキャシーの回想で進むので、それがはっきり示されるシーンが異様に少ない。
それがさらに不気味さを煽っている感じ。
テーマとしては、いろんなとこで出てくるようなものなんだけど。

普通に考えたら超理不尽な環境に置かれているにもかかわらず、キャシー達がそれに逆らおうとしないってのも不気味。
正確に言えば、それなりのアクションは起こすのだけど、もっと怒って良いのでは、もっと過激な行動に出るのが普通では…??と思ってしまう。

具体的なことがあまり書かれていなくて、あとは読み手の想像に任されているため、頭の中で勝手に怖い想像が進んでしまうのがこの本のすごいところ。
先生達の不可解な態度の謎が明かされていく過程とか、怖いと言いながらかなりひきこまれる本です。
読後はすっきりしないけど。。。

*データ*
著者:カズオ・イシグロ
訳:土屋政雄
出版社:早川書房
定価:1800円(税別)
ISBN:978-4152087195

献血@サウジアラビア大使館

2008年06月07日 20時17分53秒 | いまどきのせかい
今yahooのトップページ見てたら気になるニュースが!

<サウジ大使館>「留学生の代わりに献血して」と呼びかけ

今月14日の「世界献血デー」にあたり、「全ての自国民が滞在国で献血するように」との指示を出したサウジアラビア政府。
そこで日本のサウジアラビア大使館でも実施しようとしたところ、多くの留学生がイギリス滞在経験があるなどの理由で献血できないことが判明。
困った大使館は「ごちそうするので日本のひとが代わりに献血に来てくださーい」とお知らせを出した次第です。

(以下引用)
ファイサル・ハサン・トラッド駐日大使(52)は「留学生が献血できないことには驚いたが、人類を救うことはイスラムの教え。1人でも多くの日本の方に協力いただきたい」と話している。大使たっての指令で、「金に糸目は付けず最高の素材」(大使館職員)の料理や菓子で礼を尽くすという。

イスラムすばらしー。
サウジアラビアも面白いこと考えるなぁ。
どんな料理が振る舞われるのかしら。じゅるっ。
土曜日だし、行ってみようかなぁ…。
誰か行きません??

受け付けは14日午前10時~正午と午後1~4時。問い合わせは同大使館(03・3589・5241)
混みそうだけど。。。
あ、いちおう予約(?)が10日までに必要みたい。
サウジアラビア大使館 献血への参加ご協力のお願い

東京オリンピック反対!!

2008年06月07日 00時50分42秒 | いまどきのにほん
なんかこのカテゴリ久しぶりだなぁ。
あんまり新聞を読まない(誇れる事じゃないけど)ので時事に疎い。
知識が浅い。
ののちゃんとか、読む前に読むべき記事があるはずなんだけど。

で、このニュースもテレビで見たわけで…。
2016年のオリンピック候補地の一つとして東京が選考に残ったんだとか。
しかもシカゴなど4つの都市のうちでもっとも高得点だったそうな。

いやー、そこまで話が進んでいたとはね。。。
個人的には東京でおりんぴっくなんかやるメリットがないと思うので、前回の選挙の時にもイシハラ氏には入れなかったんだけど。
すでに誘致のためのPRに莫大なお金をつぎ込んでいるみたい。はぁ。
お台場にも選手村の場所なんかがキープされているしね。。。

ただでさえ人間が多くてごちゃごちゃしてる東京に、オリンピック観戦の観光客がいっぱい来たら、地元民も迷惑だし、お客さんの方もうんざりすると思うんだけど。
渋谷の交差点みたいなのが東京の至る所で発生するって感じでしょ。
電車の乗り換えも複雑だし、そうするとタクシー使う→交通渋滞、みたいな状況が想像できてしまうんだけど。
オリンピックをしなくても人が集まってくるような場所で、オリンピックをする必要ってないと思うのよ。

で、経済効果。
そんなの、儲かるのは一部の大企業に決まってるじゃん。
昔ながらの都民かつ不況にあえぐ人々、つまりは下町の商店街の人とかに何のメリットが見込めるというのでしょーか。
もともと儲かっているところがますます儲かるだけじゃないのかな。
高級ホテルとか、建築業者とか、オフィシャルスポンサーのマックとか、コカコーラとか。
こういうところに勤めている人が儲けたお金を都内にばらまくとは限らないし。
少なくとも、商店街には落とさないでしょー。

オリンピックに使うお金があるなら他に使うべきところがあるでしょと思う。
新銀行東京もそうだし。
イシハラさん、ちゃんと責任感じてる??
あと、派遣やフリーター対策とか、福祉・医療とか、お金の使い道はいろいろあんのよ。

そもそもオリンピック誘致することの効果って、ちゃんと専門家が試算とかしてるのかな?
「だって地元でやりたいんだもーん」ってなノリだったらホント笑えるよ。
…たぶんそうなんだろうけどね。
あーあ税金払うのがやんなるぜ。

『バビロンに行きて歌え』

2008年06月03日 23時36分25秒 | Books
初、池澤夏樹。
最近は読んだことのない作家の本も積極的に手に取るようにしてる。
この本は、裏表紙のあらすじ読んで面白そうだったので。

*あらすじ*
ひとりの兵士が、夜中ひっそりと東京に上陸した。
日本ではアラブ系の目立つ顔立ちで、パスポートもなく東京をさまよい歩く異邦人。
ちょっとした巡り会いから彼に関わり合う人々。
年老いた獣医師、外交官、とあるバンドのメンバー、母を亡くしたばかりの青年、ブローカー…。
帰る場所をなくした兵士が、異国の地で新しい居場所を見いだしていくまでの物語。


ひとりの人を中心に、いろんな人生が絡んでくる話で、一話一話が短くまとまっています。
次はどんな立場の人が出てくるのかなーと楽しみになります。
最初は得体の知れないアラブ系外国人でしかも兵士なんていう完全なアウトサイダーだった主人公が、東京でいろんな人に出会い、会話を交わし、リアクションを見ていく中で、読み手にとってもどんどん身近な人間になってくる感じがウマイ。
そんなに物事がうまくいくかよーって思うけど。。。

でもこういう話を読んでると、結局ゼロから自分の居場所を作っていくには一芸か人間的魅力が不可欠なんだよなぁと思う。
…がんばろう。

*データ*
著者:池澤夏樹
出版社:新潮社
定価:400円(税別、文庫版)
ISBN:4-10-131811-5