らぷんつぇる**

日々のささいな出来事をつづったり
本や映画や食べ物の感想を載せてみたり
ひとりごとを言ってみたり。など。

『渚にて -人類最後の日-』

2008年05月03日 21時47分52秒 | Books
最近ブログが停滞気味なので、読み終わったばかりの本を紹介します。
なんか、最近そんな記事しか書いていないけど。
今回の本はちょっと古くて、初版が1965年。
図書館から借りたのだけど、すごい年代を感じる~。
だって貸し出しカードを入れるポケットが表紙の内側についているんだよ。
さすがにカードは入っていなかったけど…。
さて、『渚にて』、ジャンルはSFです。

*あらすじ*
第三次大戦の勃発により、4700個以上の水爆とコバルト爆弾が炸裂した。
戦争は短期間で終わったが、高濃度の放射能に汚染され、北半球は壊滅した。
かろうじて難を逃れたアメリカの原子力潜水艦スコーピオン号はオーストラリアのメルボルンへ避難してきたのだった。
しかし放射能は風に乗って確実に南下していた…。
人類最後の日が迫る中、人々は…。


こうやって書くと、ものすごくありきたりな筋書きですが…。
というか、ハリウッド映画でしょっちゅうネタにされてそう
が、この本のすごいところは、ハリウッド映画なら確実にパニックムービーになりそうなところを実にたんたんと、穏やかーに描いているところなんです。
人類最後の日が刻一刻と近づいているのにも関わらず、パニックに陥った人々が暴動を起こすでもなし、カリスマ的ヒーローが現れて人類を滅亡から救おうと奮闘するでもなし、自己中な権力者が何が何でも助かろうとシェルターに逃げ込むとかでもなし、人々はごく普通に、その「普通」の幸せをかみしめながら暮らしているだけなんです。
もう数ヶ月後には最後の日を迎えるとわかっているけれど、庭に木を植えたり、子どもにどんな職業に就いて欲しいか話し合ったり、すでに死んでいるに違いない家族におみやげを買ったり。
そういう努めてふつうに振る舞おうとする姿が胸に刺さる感じ。
普段は明るくて気丈なのに、もう子どもを持つことができないと悲しむモイラが、なんとも。

ほんとにこの著者は、人間の愚かさを書きながらも人間を信じているんだな…と思わされる作品です。
正直、個人的には「人類最後の日」がわかったらとたんに世の中カオスになると信じて疑いません。
だってまず電気ガス水道が止まるし、交通機関も麻痺するし、警察も、病院も機能しなくなりそうだし…っていうか、どれだけの人が自分の仕事に誇りと責任を感じているかにかかっている気がするけど。
例えば、宮大工さんならやりかけの仕事は投げ出さない気がする。
たとえ人類が滅亡しようとも、その仕事が彼/彼女の生きた証だから。
この話に出てくる潜水艦の艦長もそんなひとり。
一体今の社会で、どれだけの人がそんな仕事をしているだろう。
私は仕事、するかなぁ??
自分だったら、、、本を大量に自宅にため込み片っ端から読むかも。。
なんの生産性もないわな。。
『かもめ食堂』で「人類最後の日には美味しい料理を作って、友達を招いて食べる」ってなセリフがあったけど、それが最高かもね。

同じ著者の『パイド・パイパー 自由への越境』も良いので、おすすめ。
こっちのほうが読みやすいかも。
フランス滞在中に第二次世界大戦が勃発してしまい、滞在先で託された子ども二人と共に故国を目指すイギリスの老紳士の話。
旅程はほぼ徒歩で、しかもどんどん連れの子どもが増えていくんです。
けっこうハラハラします。

*データ*
著者:ネビル・シュート
訳:井上勇
出版社:東京創元社
ISBN:4-488-61601-1