劇場彷徨人・高橋彩子の備忘録

演劇、ダンスなどパフォーミングアーツを中心にフリーランスでライター、編集者をしている高橋彩子の備忘録的ブログです。

NYLON100℃若手、文楽、ゴールド・シアターに想うこと

2010-09-17 23:25:40 | 観劇
今週は、NYLON100℃の若手を中心としたNYLON100℃ SIDE SESSION #10『亀の気配』@サンモールスタジオ、
9月文楽公演一部&二部@国立劇場小劇場、さいたまゴールド・シアター『聖地』@彩の国さいたま芸術劇場小ホール を観て、
台本や演出といった内容とは別に、思ったことがある。今回はそのことについてちょっと書いておきたい。

■『亀の気配』は、08年のオーディションに合格し、研究生を経て今年メンバー入りした若手中心の公演である。 

 その拙さも瑞々しさもすべてひっくるめて「今後が楽しみ」と素直に思い、
今よりもむしろ将来の彼らを想像し、期待をつなぐことができる。
この公演後にみな、主宰のKERA氏から芸名をつけられるというのも話題であり、
若さが持つ可能性へのこちらの勝手な期待も手伝ってワクワクさせられる部分が大きいわけだ。

■一方、文楽は50~60代ごろになってようやく“本物”になるかわかるような、気の遠くなる世界(例外もあるけれども)。

 (いきなりだが)数年前に自殺してしまった大夫がいた。その真の理由はわからないし死者にむち打つ気は毛頭ないが、
過去の自分のメモを見返すと、かなりその力量を酷評していた。このことはまぎれもない真実である。
「続けていれば、いつか」と言われ/自分に言い聞かせ、それでも伸び悩んだり逆に調子を落としたりして、
気がつけばツブシの効かない40代になって悩む人もいることだろう。
健康・長寿は大前提で、さらに修業の中で一定のレベルに達していなければ認められるよしもない。
そのこと自体はどの分野も似た状況だと言われそうだが、決まりの多いこの芸能では、個性だけを武器に生きることはできないのだ。
教わった芸をストイックに踏襲・追求しながら徐々に工夫を加え、ようやく至芸が生まれるのが文楽なのだから。
なお、九月文楽は住大夫、蓑助、勘十郎がいいのはいつものことだが、『桂川連理柵』の嶋大夫が上出来で、芸質と合った切り場を見事に語り切った。


■では、ゴールド・シアターの場合はどうか。 

 これは55歳以上で募集され、結果として最高齢80歳、平均年齢55.5歳の素人でもって07年にスタートした劇団。
率いている演出家・蜷川幸雄自身も74歳である。
第四回となる今回の公演『聖地』のキャストは客演を除くと、最年少58歳、最高齢84歳。
彼らの今後だってもちろん楽しみだけど、その「今後」はたとえば『亀の気配』のそれとはニュアンスが違うし、
演技に求められるものも異なる。というか(程度問題ではあるが)拙さすら「味」として肯定できてしまう独特さがある。
こうなってくると、日頃重視される演技力とは一体何なのだ?などと、ある種、複雑な思いにもかられてしまう。
もっとも彼らの舞台の面白さが、超一流の演出家・作家ほかの存在にも起因していることは忘れてはならないが。

                    *  *  *

駆け足で恐縮だったけれども、舞台芸術にはそれだけの違い(豊穣さ/幅の広さ)があるということかもしれない。
可能性一つ、観客にとっての価値一つとっても、その所在はさまざまなのだと思う。
一口に舞台といえど、それぞれに残酷さがあり、魅力がある。だからこそ奥深く、感動に満ちている。

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