劇場彷徨人・高橋彩子の備忘録

演劇、ダンスなどパフォーミングアーツを中心にフリーランスでライター、編集者をしている高橋彩子の備忘録的ブログです。

ルグリが!ド・バナが!~マニュエル・ルグリの新しき世界Aプロ~

2010-02-05 00:59:22 | 観劇
マニュエル・ルグリの新しき世界Aプロ ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団 スーパーコラボレーション @ゆうぽうとホール



パトリック・ド・バナ。
モーリス・ベジャール・バレエ団やスペイン国立ダンスカンパニーで、
ベジャール、イリ・キリアン、ナチョ・ドゥアトなどの作品を踊ってきた、
ダンサーにして新進の振付家である。

今回、マニュエル・ルグリが彼の才能に惚れ込んで実現させたのが、
このオール・パトリック・ド・バナ プラグラム。
ルグリがいかに楽しそうに彼との共同作業について語ったかは、
『エル・ジャポン』の拙インタビューでお読みいただきたい。

そして今夜。素晴らしい公演だった。

■まずオレリー・デュポンとフリーデマン・フォーゲルの『クリアチュア』。
生命体の営み、あるいは秘儀のようなものを感じさせる。
男性が女性を抱き上げるリフトはキリアンを彷彿とさせるし、
がに股の動きやしっとりとした叙情性にはナチョ・ドゥアトの影響も感じられる。
それはしかし、この振付家の才能を否定するものでは決してない。
美しく躍動感あふれる、魅力的な作品だった。
(フォーゲルは怪我をしているようでやや精彩を欠いたが、だいじょうぶなのだろうか)。

■次にルグリの『ザ・ピクチャー・オブ・・・』。
繊細で情感豊かで、観る者を引き込まずにはおかないエネルギーにあふれている。
振りにエモーションを込める集中度の高さに圧倒される。
昨年だけでも彼の舞台を何度も観ているというのに、
その瑞々しさに改めて、信じられないものを観ている気持ちになった。
パリ・オペラ座で定年を迎えた年齢にして、この充実ぶりはどうだろう。
祈りにも似た敬謙さをも漂わせるその舞台は、彼自身の踊りへの姿勢にも重なって見えた。

■最後に新作『ホワイト・シャドウ』。
煙るオリュンポスの山に女神たちが集まってくるかのような幻想的なオープニングから、
アルマン・アマーのエキゾティックな音楽とともに、
太古のパワーを感じさせ、それでいて斬新な動きが続く。
神秘的/神話的世界をドラマチックに描く点はベジャール譲りか。
女神エルダのような存在感を放つ吉岡美佳がいい。
(余談だが、バナはベジャールの『ニーベルングの指環』ヴォータン役で来日している)。
長い袖を振る群舞や、カンフーや武術を想起させる男性5人の踊りは、アジア的。
同じ振りが繰り返される箇所も、見せ方に工夫があって飽きさせない。
とにもかくにも、緩急に富んだ構成力が見事だった。
圧巻はルグリとバナのデュオ。ともに優れたダンサーなのは間違いないが、
緻密でシャープなルグリと伸びやかで余白を感じさせるバナは好対照だ。
高沢立生の照明や野村真紀の装置、井秀樹の衣裳も個性的だった。
――出演者全員が鮮やかに走り抜いた感のある1時間。
畳みかけるように繰り出される踊りはエネルギーに満ち、極めて印象深かった。

ルグリはもちろんだが、バナへの拍手が大きかったのは、
彼の才能に観客が感銘を受けた証だと思う。
この若き振付家の世界を堪能する、忘れ難い一夜となった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする