◆ 労働法適用は国際常識
立ちはだかる公務員法のカベ (労働情報)
従来から非正規労働者の優先的な解雇・雇止めの可否が議論されてきたが、近年、労働契約法(以下、労契法という)等の個別立法の中で非正規労働者の雇用保護等を図る立法政策が展開されている。
すなわち、平成24年の労契法改正により、判例上形成されてきた雇止めの法理が法律上明文化される(19条)とともに、一定の要件を満たすならば労働者が無期契約への転換を請求できる旨の規定(18条)も設けられるに至っている。
しかし、<u公務員法が適用される労働関係には、労契法が適用されない。これは、正規公務員のみならず、非常勤職員も同様である。
そのため、短期任用を反復更新されてきた非常勤職員を任命権者が任期満了のみを理由に雇止めをすることにつき何の規制も存在しないのが現状である。
公務の労働関係に労契法が適用されないことに関する立法政策上の根拠は、概ね二つ考えられよう。
第一は、現行公務員法の解釈として、公務員とその雇い主である政府または地方公共団体との勤務関係は契約関係とみなされていない。それゆえ、公務の労働関係には労契法の適用はないとされている。
第二の根拠は、現行公務員法を前提とする限り、正式な採用手続きを経ることなく任用された彼/女らを長期にわたって任用し続けることを抑制すべき要請が存在することである。
非常勤職員の安易な雇止めに何らかの法的規制を加えようとする場合、このような公務員制度の根幹に触れる論点が存在するため、その解決策を見出すことは容易ではない。
しかし非常勤職員が著しく増加し、彼らが安心して働ける環境づくりが強く求められている昨今の状況を考慮するならば、少なくとも、民間の非正規従業員と同様な水準にまで雇用を保護する措置が講ぜられるべきではなかろうか。
そのためには、やや大胆であるが、思い切って非常勤職員を公務員法の適用から除くことも検討すべきであろう。
このような立法例は、異例ではなく、すでに地公法の特別職非常勤職員(3条3項3号)について存在するところである(4条2項)。
もっとも、この範疇に属する職員の勤務関係も、一般的には労働契約関係とは解されていないため、非常勤職員を公務員法の適用から除くとともに、その勤務関係を契約関係とする旨の規定を設けることが必要となろう。
このように勤務関係を契約関係とすることは、広く国際的にも採用されている政策である。
ヨーロッパ諸国において、一般にパート労働者または有期雇用労働者の雇用ならびに処遇が立法政策上の課題となることはあっても、公務部門の有期雇用に関して特別に論じられることは少ない。
各国の制度については更なる考察が必要であるが、あえて推測するならば、多くの国において公務員の勤務関係は契約関係ととらえられており、民間の有期雇用労働者に適用される労働立法は、原則として、公務で働く労働者にも適用されるからであろう。
『労働情報 945号』(2016年10月15日)
立ちはだかる公務員法のカベ (労働情報)
清水敏(早稲田大学教授)
従来から非正規労働者の優先的な解雇・雇止めの可否が議論されてきたが、近年、労働契約法(以下、労契法という)等の個別立法の中で非正規労働者の雇用保護等を図る立法政策が展開されている。
すなわち、平成24年の労契法改正により、判例上形成されてきた雇止めの法理が法律上明文化される(19条)とともに、一定の要件を満たすならば労働者が無期契約への転換を請求できる旨の規定(18条)も設けられるに至っている。
しかし、<u公務員法が適用される労働関係には、労契法が適用されない。これは、正規公務員のみならず、非常勤職員も同様である。
そのため、短期任用を反復更新されてきた非常勤職員を任命権者が任期満了のみを理由に雇止めをすることにつき何の規制も存在しないのが現状である。
公務の労働関係に労契法が適用されないことに関する立法政策上の根拠は、概ね二つ考えられよう。
第一は、現行公務員法の解釈として、公務員とその雇い主である政府または地方公共団体との勤務関係は契約関係とみなされていない。それゆえ、公務の労働関係には労契法の適用はないとされている。
第二の根拠は、現行公務員法を前提とする限り、正式な採用手続きを経ることなく任用された彼/女らを長期にわたって任用し続けることを抑制すべき要請が存在することである。
非常勤職員の安易な雇止めに何らかの法的規制を加えようとする場合、このような公務員制度の根幹に触れる論点が存在するため、その解決策を見出すことは容易ではない。
しかし非常勤職員が著しく増加し、彼らが安心して働ける環境づくりが強く求められている昨今の状況を考慮するならば、少なくとも、民間の非正規従業員と同様な水準にまで雇用を保護する措置が講ぜられるべきではなかろうか。
そのためには、やや大胆であるが、思い切って非常勤職員を公務員法の適用から除くことも検討すべきであろう。
このような立法例は、異例ではなく、すでに地公法の特別職非常勤職員(3条3項3号)について存在するところである(4条2項)。
もっとも、この範疇に属する職員の勤務関係も、一般的には労働契約関係とは解されていないため、非常勤職員を公務員法の適用から除くとともに、その勤務関係を契約関係とする旨の規定を設けることが必要となろう。
このように勤務関係を契約関係とすることは、広く国際的にも採用されている政策である。
ヨーロッパ諸国において、一般にパート労働者または有期雇用労働者の雇用ならびに処遇が立法政策上の課題となることはあっても、公務部門の有期雇用に関して特別に論じられることは少ない。
各国の制度については更なる考察が必要であるが、あえて推測するならば、多くの国において公務員の勤務関係は契約関係ととらえられており、民間の有期雇用労働者に適用される労働立法は、原則として、公務で働く労働者にも適用されるからであろう。
『労働情報 945号』(2016年10月15日)
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