パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

TPP:雇用なき企業利益の拡大を一次産業の壊滅的打撃を伴って進める道

2012年12月28日 | 格差社会
  『労働情報852号』から
 ◆ 自由貿易の名に隠されたTPPの危うさ

近藤康男(TPPに反対する人々の運動)

 ● 民主主義を置き去りにし、決めてはいけないことを決めるTPPに反対する。
 TPP交渉は、新たに参加したい国は勿論、交渉参加国においてもその情報は、国民は勿論、議員にも、一部を除き閣僚にも明らかにされないまま進められている。
 しかし、特定の大企業には情報が提供され、彼らの助言を求めながら進められており、米国ではその位置に600もの企業が正式に席を与えられている。
 個々の国や社会には固有の政策・制度・仕組みがあり、特に途上国は自国産業の育成途上にある。資本規制を含む金融やサービス・投資の自由化、関税撤廃、規制の同一化などで、“先進国”の基準を途上国にも適用することは、自らがたどってきた経済発展の道を新興国には閉ざすことでもある。
 また各国の固有の制度や社会的仕組みを可能な限り排除する発想が貫かれている。98年のアジア金融危機、リーマンショックなどへの対応としての資本規制や金融規制も排除されようとしている。
 これが、TPPを主導する国が誇らしげに掲げる「21世紀の基準、協定」である。
 ● TPPは米国主導ではあるが、内在する日本の論理・利害がちりばめられている。
 TPP反対を論じる時にしばしば、米国基準を押し付けられる、巨大外資が参入する、国益が侵される、等々の言葉が発せられる。
 確かにTPPは米国が北米自由貿易協定を発展させ、韓米FTAをベースにした枠組みである。
 しかし日本は、経済大国であり、対外的には多くの場合覇権的・加害者的存在である。そしてグローバルに事業展開をする日本の企業も同様に国内・海外の市場への参入拡大を狙っており、特にアジアへの進出促進につながる米国基準を歓迎しているのである。
 よく引き合いに出されるISDS条項・投資家対国家間紛争解決条項も日本企業の対外進出を守るものとして捉えられている。
 敢えて言えば、ISDSの事例の多くは資源・環境に関わる事例が多く日本が標的となる可能性は比較的少なく、途上国や法制度が未整備な国に対して加害者として賠償を求める可能性の方が大きいかもしれない。
 TPP推進の立場で言われる国益もマクロには当たっていない訳ではない。しかしそれは国内的には雇用なき成長、雇用なき企業利益の拡大を一次産業の壊滅的打撃を伴って進める道であり、対外的にはアジアにおける覇権的・加害者的立場を強化するものである。
 成長・企業利益・海外投資を全て否定するものではないが、TPPが担保する強者の論理は、非対称的に負の部分を肥大化する恐ろしさを秘めている。
 資本の性格は普遍的であり、日本の企業の論理も同様に資本としての原理に従っている。このことを不問にして“アメリカ”、“外資”という言葉を多用することには慎重でありたい。
 ● TPPは単なるグローバリゼーションではなく、米国主導の新たなグローバリゼーションの再編であり、地域の不安定要因になる危うさを持っている。
 WTOが頓挫し、乱立するEPA・経済連携協定、FTA・自由貿易協定は絡み合うスパゲッティ状態となり、非効率とブロック化の様相を呈している。
 それを再編すべく主導するのは米国であり、アジアの成長を取り込むとしてアジアでの存在を強化しようとする日本である。今アメリカはEUとのFTAを進めようとしており、手薄なアジアで日本を加えれば、一段と地政学的にもウィングを広げることにつながる。
 一方軍事的には、米海兵隊の豪州への配置、日・米・豪・比の海洋での合同演習、日米の離島奪還演習、自衛隊のテニアン島への部隊駐屯、自衛隊の米国防省駐在、日印海洋安保協議、等々の新たな連携が急速に進んでいる。
 TPPは“生きた協定である”として将来中国・ロシアの参加への道も開くものとしている。しかし、協定参加国間の経済的依存関係が強まり、外に対して排他的なものになれば、それはアジア太平洋地域の不安定要因を増すことにつながるものである。
 日本の存在は、米国にとって、グローバリゼーションの再編とアジアへの参入のためにも、TPPに欠かせないものとなっている。
 ● TPPは単なる規制緩和や自由化でもなく、そのことをグローバル企業に担保する制度的枠組である。
 そして、それを担保するものをTPPの「3点セット」と呼びたい。
 ■Regulatory Coherence・規制の内外一貫性:
   国内制度・政策を海外と調和させる。
 ■Transparency・透明性:
   政策過程への外資を含む企業の関与を強める。
 ■ISDS=Investor-State Dispute Settlement(投資家対国家間紛争解決):
   利益を損なわれたとする企業が政府を、世銀に設置された「国際投資紛争解決センター」に訴えることが出来る。
 一見もっともな内容のようでもあり、第13回交渉会合における説明会ではRegulatory Coherenceは指針であり、またISDSの対象とならないとされたが、本年2月の米国の意見公募での業界の強い要求、過去の事例(1月27日付豪州労組連合の首相宛書簡添付資料から)などは、グローバル企業の論理による国内規制の制約や政策領域の縮小を懸念させる深刻さを孕んでいる。
 透明性の章では、規制等について、今迄のもの新たなものを含め事前に開示し、意見を具申する機会を保証することが求められており、企業利害を他国の国内政策に反映させる道が開かれている
 現実にこのようなことが出来、かつ強い利害を持つのはグローバルに事業を展開する企業群となるだろう。
 TPP全体を貫いているのは、このような過程を経て、政策や規制を先進国の水準や企業利害を反映した、国内・国外を通して一貫性のあるものにするということである。
 先進的な環境規制や労働規制、途上国の国内産業政策などの促進は危ういものとなるだろう
 そしてISDS条項がある。これが出来るのも巨大企業に限られるだろう。
 賠償の対象には投資時点で既にあった規制によるもの、投資以降の規制により想定利益が殿損した場合、「間接収用」と言われる土地利用・政府調達基準・公契約の内容・金融商品や資本移動などに関する規制なども含まれる(投資章12条一2、11など)。
 また、迂回的投資によりTPPに未加盟の国の本社企業が加盟国の子会社を通じて加盟国を提訴することもあり得る。
 国内企業は国内法に縛られるが、外国資本は投資先の国内法を迂回して国際調停を選ぶことができるという点でも特権的である。
 「間接収用」の例外化を主張する国もあるが、米国は未だ首を縦に振っていない。

 ● TPPは弱い国々・地域社会、弱い立場の普通の人々にもっともしわ寄せをもたらすものである。
 強者の論理の拡大は貧困・格差を拡大する
 隣国、特に途上国とは互恵的な経済関係でありたいと思う。
 バスに乗り遅れるな、韓国に後れをとるなと叫ばれているが、その先には私たちの求める社会があるとは考えられない
 ※参考:TPP交渉の経過
  06年 5月 4力国協定発効チリ、シンガポール、プルネイ、ニュージーランド
  10年 3月 8力国で第一回会合4ヶ国+米国、ペルー、豪州、べトナム
  10年11月 マレーシア参加
  11年11月 日本、カナダ、メクシコ参加意向を表明
  12年 9月 メキシコ、カナダが交渉参加国に
  12年12月 11力国で第15回交渉会合開催
TPPに反対する人々の運動
http://antitpp.at.webry.info/
「STOP TPP!!市民アクション」
http://stoptpPaction.blogSPot.jp/

『労働情報852号』(2012/12/1)

コメント    この記事についてブログを書く
« 教員の非正規化は教育の機会... | トップ | 《累積加重処分取消裁判を支... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

格差社会」カテゴリの最新記事