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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

ミャンマー新政権樹立から半年

2016年12月23日 | 平和憲法
 ◆ 道は平坦ではない 広がる改革の息吹 (労働情報)
中嶋滋(元ITUCミヤンマー事務所長)

 昨年11月の総選挙において上下院及び地方議会(州/管区)の全てにおいて「地滑り的大勝」を果たしたNLD(国民民主連盟)は、アウンサンスチー「国家顧問」主導のもと民主化推進に積極的に取り組んでいる。
 しかし、軍事独裁政権時に制定された現行憲法下での種々の国軍への特別権益保障、NLDが最重要課題と位置づけ最優先している憲法改正実現への戦略的対応の影響もあり、民主化推進の道は平坦なものではない。
 ◆ 立ちはだかる国軍の力べ
 新政権に期待されている基本課題は、
 ①少数民族軍事組織と国軍との間の武力闘争の全面停止/和平実現と少数民族の自治権保障を基礎とする全民族統合の平和的連邦国家の建設、
 ②ASEAN(東南アジア諸国連合)の中で最低にまで落ち込んだ経済水準を立て直すとともに膨大な格差の解消による持続可能なバランス良い経済発展、である。
 その不可欠な基盤が、民主化推進に他ならない。
 現憲法の国軍への特別権益保障は、利権確保と支配の永続化を可能とするものだ。その要石が、国/地方議会を通じて議員総数の4分の1を非選挙軍人議席が占めていることである。
 憲法改正上下院議員の4分の3を超える賛成がないと発議できないことから、国軍は事実上の拒否権を持っている。
 また、国軍にはクーデターは不要で、国家安全保障評議会の議を経て非常事態宣言がなされれば全権を国軍司令官が掌握することが憲法で規定されている。
 軍事独裁政権下はもとより民政移管後も、政府各省の要職は国軍出身者に占められていた。
 民主的改革の推進は、総選挙直後に多くの国民が期待した早期で抜本的なものにはなっていない。
 労働分野の改革も例外ではなく、経営者/使用者側の強硬な対応もあって、労働現場の実態は、組合活動を理由にした解雇事案が新政権発足以降むしろ増加しており、厳しさを増しているという指摘もある。
 ◆ 動き始めた労働法改革
 そうした状況下で、労働法の体系的で抜本的な改正に向けた取り組みが進められていることは、評価され期待されるべきだ。関連事業法を含め23あると言われるミャンマーの労働関係諸法規の多くは、イギリス植民地時代のインド法を引き継いでいる。
 カバーする領域も水準も国際労働基準から大きく遅れ、体系的に整備されておらず、労働者の基本権を網羅して保障するものになっていない
 その抜本的な改革に向けて、アメリカ政府の呼びかけに日本デンマークの両国政府が賛同しILOが技術的協力を約しEUが後に加わった「ミャンマーにおける基本的労働権及び慣行促進に関するイニシアチブ」が、昨年からステークホルダー会議など具体的な活動を進めている。
 アメリカ政府がミャンマーに課していた経済制裁を解除する条件に、人権/労働権の保障を求め、その具体的実施に向けて提起したものが「イニシアチブ」であった。
 日本は、欧米諸国がミャンマー軍事独裁政権に対し厳しい経済制裁を課していた時、JICAを通じ「人道的支援に限る」としつつかなり広範な「援助活動」を続け、国際人権団体などから厳しく批判された
 その中で「イニシアチブ」に共同し専門家の派遣など積極的な支援活動を進めていることが、「失地回復」にとどまらない評価につながるよう期待される。
 ◆ 待たれる公務部門の組織化
 ミャンマーの労働組合運動は、基本的には「労働組織法」によって律せられている。この法律には多くの問題点があるが、最大の問題は結社の自由の原則に反する非常に厳しい登録制度にある。
 登録組合以外は労組活動をしてはならないとされていて、活動停止/解散命令が出されることもありうる。改正されるべき制度上の問題はあるが、持続的な活動展開には実際上登録が必要となっている。
 耕作地10エーカー以下の自作農にも団結権が認められているが、すべての労働組合は、①基礎労組、②タウンシップ組織、③州/管区レベル組織、④全国組織、⑤全国連合会(ナショナルセンター)の5段階での組織結成/登録が求められる。
 ①から④は同一産業分野内の組織でなければならず、①から順を追って積み上げて組織化しなければならない制約が課せられている。
 ①は、同一事業所/工場(農民の場合は同一地域)などで労働者30名以上で結成可能となる。
 ②は、同一タウンシップ内の同一産業分野の複数の①の組合で結成可能。
 ③は、同一州/管区内の同一産業分野の複数の②の組織で結成可能。
 ④は、全国産業別組織で、複数の③の組織で結成可能。
 ⑤は、複数の④の組織を結集して結成される。
 ②から⑤は同一区域内/同一産業区分の10%以上の労働者の結集が条件とされているが、この条件は実際上は厳密には適用されていないようだ。
 本年9月現在、①が2113、②が122、③が15、④が8、⑤が1、という登録状況となっている。
 連合および加盟組合が連帯支援活動を進めているCTUM(ミャンマー労働組合総連合会)は、ITUC(国際労働組合総連合会)に加盟するミャンマー唯一の⑤のナショナルセンターで、①779、②51、③6、④3、が結集している。
 ここで問題なのは、農民組合の比重の高さだ。加盟基礎組合779の約80%を占める。就労人口の65%以上が農民であるとはいえあまりに高い。
 農民組合には労使関係はなく、構成比率のあまりの高さはナショナルセンターとしての活動展開にバランスを欠く場面をもたらしかねない。
 それとともに問題なのが、鉄道を除き公務部門(郵政、通信、教員、環境・清掃、保健医療、福祉、上下水道など)がほとんど組織化されていないことだ。
 公務部門が国軍の影響下に置かれてきた結果だが、この壁を突破しない限り、全産業労働者を代表する強靭なナショナルセンターの確立と運動展開の展望は切り拓きえない。
 ◆ 労使関係先鋭化の動きも
 最後に、最近の特徴的動向に触れておきたい。それは昨年9月からの最賃制の導入に伴う雇用契約の再締結を含む労使関係の先鋭化だ。
 ミャンマーの製造業の中心の一つに縫製業があり、労働組合の組織化が進んでいる分野である。
 週68時間労働(週休1日、週48時間制、4時間超勤が5日)で、日本円に換算して月1万2千~1万5千円程度の収入が平均的な水準だ。
 最賃制導入前は極めて低い時間給に様々な手当(皆勤、皆超勤、生産、指導など)をつけて長時間労働をせざるをえなくしていたが、導入後は時間単価が上がる分を手当を削減して人件費増加を防ぐ手法が多く取られた。
 縫製技術に長けたベテラン労働者の引き抜きや少しでも高い賃金の工場に移動する労働者が多くなり生産計画実施が難しくなって、労使対立が先鋭化するケースが増えている。
 ベテラン労働者が大墨に他工場に移り増産計画が不可能であるにもかかわらず会社側が一方的に計画を押し付け、長期ストに突入した事例も出ている。そうした状況下で、組合執行部に対する不当解雇も増加している。
『労働情報 946号』(2016/11/1)

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