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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

葛飾ビラ配布事件

2008年12月29日 | 平和憲法
 ▼ 葛飾ビラ配布事件 最高裁判決に向け 集い
三上英次

 12月19日(金)午後6時半より「かめありリリオホール」にて〈葛飾ビラ配布弾圧事件 最高裁勝利をめざす大集会〉が、「ビラ配布の自由を守る会」主催で開かれた。

 事件は、4年前にさかのぼる。

 2004年12月23日、午後2時過ぎ、オートロックの設置されていない葛飾区のマンションのドアポストに、区内在住の男性(荒川庸生氏)が共産党区議団だより、都議団ニュース、区民アンケート及び返信用封筒、計4種のチラシを配布していたところ、ある住民からの110番通報により住居侵入罪で逮捕される。

 その後、男性は、正月をはさむ23日間の拘留ののち起訴。2006年8月、東京地裁(大島隆明裁判長)は、「犯罪などの不法行為が目的ではなくマンションに昼間、7~8分入ること」について「許容されないとの社会的合意はない」と指摘、「どのようなときに許されるかは社会通念を基に、立ち入りの目的やマンションの形態などで判断するほかない」とし、当該事例に関して「立ち入り拒否の掲示は商業ビラの配布を禁止する趣旨にも読み取れ、掲示も見えにくい」などの理由により、住居侵入罪は成立せず無罪判決を下した。

 それに対して、東京地検は、控訴。東京高裁(池田修裁判長)は、マンション管理組合が住民の総意で部外者の立ち入りを禁止しているとし、住民意思に反する侵入と認定する。そして、被告の荒川氏を無罪とした1審東京地裁判決を破棄し、改めて罰金5万円とする逆転有罪判決を言い渡したのである。

 オートロックの無いマンションでの、わずかな時間のビラ配布に対して有無を言わさぬ逮捕は、事件当時から様々な反響を呼んだ。これと似た事件としては、同じくビラ配布ながら、75日間も拘束された立川自衛隊官舎ビラ配布事件(2004年2月)が思い出される。この事件も1審では無罪だったが、2審で罰金刑の有罪判決が言い渡され、被告は上告するものの、最高裁(今井功裁判長ほか2名)は上告を棄却し、高裁判決が確定している。

 「葛飾事件」の控訴審判決について補足すると、「5万円の罰金刑」とは言うが、未決拘置日数を考慮し、1日5000円で換算すると、被告男性は実質的に支払う金額はない。従って、この事件は、非常に、ある特定の政党や特定のビラのみをターゲットにした見せしめ的意味合いが強いことは、事件当初から言われてきたことである。

 特に注意すべきは、2004年以降、マンションや集合住宅での政治的主張のあるビラ配布が、住居侵入や国家公務員法違反で起訴されるケースが続いているということだ(後述)。市民団体の反戦ビラ、特定政党の機関紙配布などが摘発されており、「言論や表現の自由」を強く制限するものとして、市民団体などから「弾圧」として強く批判されている。

 「葛飾事件」の場合、逮捕、起訴された区内在住の男性は40年以上もビラ配布を続け、それまで何ら住民とはトラブルめいたことは無かったという。今回の起訴となった2004年12月の、マンション滞在時間も、およそ7、8分程度と東京地裁は認定している。プライバシーや市民生活での防犯意識の高まりはあるにせよ、言論・表現の自由は、どの程度制約を受けるべきか、世間の耳目を今も集めている事件と言える。

 会場は、約640の座席がほぼ満席で、モニターでロビーに中継されるほどの盛況ぶりで、市民の関心の高さがうかがえた。

 あいさつでは、全労連寺間誠常任幹事が、現在の「派遣切り」の事例などで、派遣労働者にしっかりした情報が伝わっていない場合でも、たった1枚のビラが、適正な解決への糸口になることを紹介した。そして、言論の自由、表現の自由を担うものとして、ビラの重要性が力説された。

 続いて、日本共産党・小池晃参議院議員が演台に立ち、今年5月の国分寺市議ビラ配布事件でも、立川事件(2004年2月、最高裁判決2008年4月11日)が言及されるなど、いくつかの事件で、立川事件最高裁判例による悪影響が見られていることを説明した。同時に、小池議員は、いくつかの言論弾圧事件はあるが、「弾圧の広がりは許していない。それは全国的な連帯の成果である」として、今回のような草の根レベルの連帯の必要性を強調した。
 さらに、ビラの役割について、「ビラは、国民の命と暮らしを守る役割を果たしている」、「ビラ1枚が、ある人の人生を変え、命を守っている」と説明し、会場からも随所で拍手が沸いた。

 他の類似の事件関係者として、堀越明男氏、宇治橋眞一氏も壇上にあがった。両名とも、国家公務員法違反(政治的行為の制限)として、特定のビラ配布が違法とされたのだが、特に「堀越事件」は、法廷で公安警察の周到な尾行、ビデオ撮影が明らかにされた事件として、記憶に新しい。

 2004年3月3日、警視庁公安部は、社会保険庁職員である堀越明男氏を国家公務員法違反で逮捕、起訴したが(東京地裁罰金10万円)、休日でのビラ配布について、公安部は約1年前の2003年4 月から極秘に内偵を進め、その行動をビデオ撮影などもしていたというものだ。これについては、このあと小田中聰樹 東北大名誉教授の講演で「象が蟻を踏みつぶすが如き」との表現があったが、おおいに得心する次第である。演台の堀越氏は、「ビラの配布が何の実害を及ぼさないこと」、及び「商業ビラには何のおとがめもなく、政治的主張を持ったビラに対して警察権力が及ぶこと」に強い危惧の念をしめしていた。

 続いて、午後7時過ぎから小田中聰樹 東北大名誉教授の記念講演が始まる。

 まず小田中氏は、タウンミーティングや政府広報、その他あふれるような情報の中で本当に知りたいことが伏せられている現在の社会のありように言及し、「1枚のビラが真実を暴くこともある」し、「現実に、そうしたビラが政治や経済の実体を暴いている」とビラの意義を説明した。

 さらに現代の日本を鳥瞰すると、国内においては「貧富と格差」の問題があり、対外的には「イラク、アフガンなどでの軍事活動」そして「アメリカに追従する日本」という図があることを小田中氏は話し、同時進行的に、治安権力の動きが強くなっていると指摘する。そこで、具体例として挙げたのが、上記の「堀越事件」である。これは、約1年間かけて公安警察がターゲットとする人物を尾行し、時にビデオ撮影などをして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反で起訴されたものであり、健全な民主主義社会を築く上で看過できない捜査手法であろう。

 確かに小田中氏の言う通り「市民らの相互の啓蒙は、権力者にとっては障害である」。しかし、同時に、今の状況は「象が蟻を踏みつぶすが如き」とも言える。これは、単なる一事件をとらえての発言ではなく、立川事件(2004年2月)以降の、堀越事件(2004年3月)、そして、今回の「葛飾事件」(2004年12月)、さらには世田谷事件(2005年9月)、国分寺市議ビラ事件(2008年5月)といった、特定の言論を封じ込めようとする警察権力の動向を捉えてのものだと思われる。

 そういう不穏な国家権力に対抗するものとして、小田中氏は、「お互いの連帯、啓蒙」を挙げ、それには「表現の自由」や「言論の自由」が不可欠であると力説する。また、「ビラをまくことは、本来は〈公共の福祉〉に合致するものであるが、公権力は公共の利益(おおやけの秩序)に反するものとして有罪にしようとしているのは、実におかしなことである」との指摘も大いに頷けるものであった。

 さらに、従軍慰安婦問題を取り上げようとしたNHKに対する政治介入、教育現場での「君が代」強制、そして自衛隊情報保全隊の活動にもふれて、相互啓蒙活動の基盤となる「表現の自由」の大切さを、小田中氏は強く訴えた。

 講演末尾で、「治安維持法などが廃止となり、言論の自由が回復する1945年10月15日以降に本当の戦後が始まる」ことを語りかけ、「言論の自由こそが戦後の民主主義の魂」であり、そういう言論の自由、表現の自由を「次の世代に受け渡していく責務」があり、「言論によってのみ、歴史の教訓を未来に伝えていくことができる」と締めくくった。

 そのあと、朗読劇、後藤寛主任弁護人からの報告、そして、荒川氏も登壇し、現在の心境そして未来への強い決意が聞かれた。

 4年前の、日常どこにでも見かける光景から思わぬ形で〈事件〉へと発展した「葛飾ビラ配布事件」、集会では「裁かれるのは荒川氏ではなく、最高裁裁判官自身であり、私たちの人権意識である」由の発言があったが、ある意味で至言であった。

『JANJAN』(2008/12/21)
http://www.news.janjan.jp/living/0812/0812203831/1.php

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