☆ 「優生保護法」裁判、最高裁で勝訴判決 概要と意義 (『週刊新社会』)
優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会事務局 池澤美月
2018年に始まった優生保護法裁判で、今年、5つの事件が最高裁大法廷で審理されることになった。
原告は、北海道の小島喜久夫さん、宮城の佐藤由美さん(仮名)、飯塚淳子さん(仮名)、東京の北三郎さん(仮名)、兵庫の高尾辰夫さん(仮名)、高尾奈美恵さん(仮名)、小林喜美子さん、小林寳二さん、鈴木由美さん、大阪の空ひばりさん(仮名)、野村花子さん(仮名)、野村太郎さん(仮名)の12名。残念なことに、高尾辰夫さんと小林喜美子さんは亡くなっている。
最高裁大法廷は、最高裁で審理される事件のうち、極めて重要な問題について、大事な判決を出す事案でのみ開かれる。最高裁で判断される事件の1%未満、1年間で数件しか該当しない。
「戦後最大の人権侵害」とも言われる優生保護法下での強制不妊手術は、司法の場でも重要視されたのだ。
☆ 除斥期間の適用が焦点
弁論期日の5月29日、原告と弁護団が、15人の最高裁判事を前に意見を述べた。
判決の日、129名分の傍聴席を求めて、約1000人が最高裁に並んだ。
15時、最高裁は、旧優生保護法の不妊手術に関する規定が憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを認め、原告に対する賠償を国に命じる判決を下した。高裁で原告の請求が認められなかった仙台の事件については、高裁が誤りで審理をやり直すべきという判決を下した。
これまでの裁判で勝敗を分けていた「除斥期間」について、本件で国が除斥期間の適用によって損害賠償責任を免れることは、「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない」とした。従来の、除斥期間を適用した判例については「いずれも変更すべきである」とした。
これまでに提訴していない被害者も含むすべての被害者について被害回復が果たされるべきものであると前面に打ち出した。
「完全勝訴」だった。
新里宏二弁護団長も「考えられる中で最も良い判決」と評価した。判決内容の詳細は、優生保護法被害全国弁護団HPで読める。
☆ 「憲法に違反」と国はその責任を取っていないとの判決
最高裁は、国の人権侵害行為を直視し、人権保障の最後の砦としての役割を果たした。
国は、本判決を尊重し、旧優生保護法による被害の全面的回復に向けて、早急に行動しなければならない。
国の旧優生保護法と強制不妊手術が憲法に違反する人権の侵害であり、国は今なおその責任を取っていないことを指摘したことの意義は大きい。
☆ 障がい者も当たり前に暮らせる世界に
判決が言い渡されたあと、原告らが建物の外に並んだ。
東京の北三郎さん(仮名)は、自ら筆で書いた「今までありがとございます」の旗を持って笑顔を見せた。
北海道の小島喜久夫さんは、パートナーの麗子さんとともに「勝訴」の旗を掲げた。
その後、衆議院第一議員会館で記者会見・報告集会が行われた。会場では約600人、zoomでは約800人が参加した。
兵庫の小林寳二さんは、体調の不安があったが、無事に現地で判決を見届けられた。強制不妊手術を受け、ともに訴訟を起こしたパートナーの喜美子さんは2022年に亡くなった。「妻も喜んでいると思う」と語った。
同じく兵庫の鈴木由美さんは、「苦しんでいる人がまだいる。障がい者も当たり前に暮らせる世界にしていきたい」と語った。
宮城の佐藤由美さん(仮名)の義理の姉である路子さん(仮名)は、1年前の仙台高裁では敗訴だったことに触れ「最後にみんな一緒に並んでいい判決で本当によかった」と話した。
1990年代から声をあげ続けた飯塚淳子さん(仮名)も、嬉し涙を流した。はじめは「当時は合法」と突っぱねられていたが、長い間ねばり強く闘い続け、仲間を増やしてきた。
私は、仙台高裁で敗訴した日、失意の飯塚さんと帰路をともにしたことを思い出していた。最高裁で手を取り喜び合えたことが本当に嬉しかった。
様々な人がこの運動に加わり、広がって、2023年9月からの約8カ月間で、最高裁判所に対する「正義・公正の理念に基づく判決をもとめる」署名が計33万3602筆集まるなど、裁判闘争でありながら、裁判闘争にとどまらない運動となった。
また、今回、最高裁は傍聴人向けの手話通訳者を公費で手配した。優生連や弁護団が何度も求めてきたことだ。司法の場での手話通訳、加えて車椅子対応などの諸々の配慮がなされたことは、優生保護法裁判のメインテーマでこそないが、大きな意味をもつ。
判決直後に首相が「7月中に原告らとの面会」と口にした。報告集会で「ホントの解決これからだー」と皆でコールしたように、国と対峙し続ける必要がある。それに、原告への、あるいは障害のある人への社会の中での差別や中傷がすぐになくなるわけではない。
今後もこの最高裁勝訴という大きな成果を胸に、差別のない社会をめざしていこう。
『週刊新社会』(2024年7月17日)
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