=週刊・本の発見(レイバーネット日本)第354回(2024/7/18)
☆ 闘うことが未来に残すただ一つの財産
『戦雲(いくさふむ)ー要塞化する沖縄、島々の記録』(三上智恵、集英社新書、2024年1月刊、1200円)
評者:志真秀弘
著者三上智恵は『標的の村』、『沖縄スパイ戦史』(大矢英代との共同監督)などのドキュメンタリー作品、さらに『証言 沖縄スパイ戦史』をはじめとした著作でよく知られている。
著者はたたかいの場にいて、闘うひとと共にいる。だからこそ「敗北感にまみれ」てしまう。そんな著者の悔しい思いは17年2月からの足掛け7年の南西諸島各島のたたかいを記録した、この「撮影日記」に滲んでいる。真正直な気持ちは、必ず伝わる。読むものの行動を促す。
「頑張っても踏ん張っても、沖縄県と国との裁判はことごとく負け、辺野古の埋め立て土砂は投入され続け、ミサイルも戦車も島に入って来る。・・・ならば私のやってきた報道もドキュメンタリーも、何の役にも立たなかったということなのか?」
著者の自問自答を変えてくれたのは、共に闘うおばあの歌声、また現地の人たちの力強い声だ。たとえばこんな言葉が聞こえる。
「大事なのは勝つことではなくて、闘ったか、闘っていないか。子や孫のために闘ったという事実が、未来に残せる唯一の財産」なんだ。
それだけではない。長野の上映会で沖縄撮影日記(のちに映画『戦雲(いくさふむ)』となる)を見た人たちの声に著者はハッとさせられる。
平和が瓦解するような出来事が伝わっていない。このままでは沖縄だけの話にされてしまう。
「自分の敗北感とか、自作映画のクオリティ云々は、もはやどうでもいい。ただひたすらに大事な動きを世の中に伝える、その地を這うような仕事から逃げるな、と自分に活を入れ直した」。
本書には各章にQRコードが付され、そこから映像を見ることができる。
その映像によって現地のたたかいの息遣いに直接触れることも可能になる。装幀画(山内若葉)も南西諸島の魂を思わせるような作品である。
一昨年暮(22年12月)、政府は防衛費倍増(5年間で43兆円)、敵基地攻撃能力の保有などを明記した新たな「安保三文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を閣議決定した。
すでに「台湾有事」「中国の脅威」あるいは「北朝鮮のミサイル」に備えるとして、2016年与那国島、19年奄美大島、宮古島に陸自駐屯地が置かれ、20年にはミサイル部隊が宮古島駐屯地に配備された。
「安保三文書」はこれをさらに増強しシェルター設置、弾薬庫大増設などを急展開させようとしている。「安保三文書」は南西諸島にミサイルを並べ、報復攻撃の戦場となってもやむをえないとするものだ。
だが、国会はもちろん、本土のメディアもこの軍備増強の急展開にどれだけ警鐘を鳴らしただろうか。
いや国会やマスコミのせいにだけ、してはいられない。私自身が、危機をどれほど実感していただろうか、傍観者に過ぎなかったのではないか。本書にそう問いかけられている気がする。
なお映画『戦雲(いくさふむ)』も監督の覚悟が伝わってくる素晴らしいドキュメンタリー。ぜひ見てほしい。これからも各地で自主上映が行われるだろう。
『レイバーネット日本』(2024-07-18)
http://www.labornetjp.org/news/2024/hon354
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