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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

金正恩の訪中をテレビで知った安倍首相の失態と底が見えた外交力 (by 高野孟)

2018年04月04日 | 平和憲法
 平昌五輪以降の金正恩氏の「積極的外交」により、劇的な速度での展開を見せる朝鮮半島情勢。しかし、先日の金氏電撃訪中について一切の事前通告がなかった日本は、蚊帳の外に置かれていると言っても過言ではありません。
 ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中でその理由について詳細に分析、安倍首相はじめ政府・外務省やマスコミのレベルの低さにその原因を見ています。
 ◆ 朝鮮半島対話の流れから日本が取り残される理由
   ──偏光メガネを外して世の中を見ないと……


 平昌五輪をきっかけに朝韓、朝米の両首脳会議をひと連なりになるよう設営し、振り向きざまに自ら電撃訪中して朝中首脳会談を実現しそのプロセスへの支持を取り付ける──という金正恩=朝鮮労働党委員長の外交展開は、まことに鮮やかで、これで朝鮮半島“危機”は一気に多角的な対話による平和的解決の方向に切り替わった。
 周章狼狽しているのは安倍晋三首相で、彼は、米国が北朝鮮に対して軍事攻撃に踏み切ることを半ば期待し、そうなれば日本と韓国が両脇を固めて参戦するかのような勇ましいことを言ってきて、今更引っ込みがつかない
 南北が心を通わせて、まずは米国をたぐり寄せ、それを中国とロシアがバックアップするという新構図のドラステッィクな展開から完全に取り残されてしまったのが日本である。
 「ジャパン・タイムズ」のレイジ・ヨシダ記者は3月31日付の解説で「安倍は久しく自分の外交上手を自慢してきたが、この2週間の内にいくつもの屈辱的な挫折を被り、その力量は本人が言うほどのものではなかったという疑念に晒されている」と指摘した。
 とりわけ、金の訪中について彼の外交・情報スタッフが全く予測さえしておらず、「ニュースで初めて知った」と国会で告白しなければならなかったのは、かなり酷い失態だった。
 韓国と米国は中国から事前に通告を受けて知っていたのに、日本だけが知らなかったということは、日本がこの問題の当事者として国際的に認知されていないということである。
 こんなことになってしまうのは、安倍首相はじめ政府・外務省やマスコミが、この問題に関わる基本的な概念や用語さえきちんと理解し使いこなしていないという、国際的に見て幼稚園レベルに留まっていることに原因がある。以下、その数例を挙げる。
 ◆ 1.非核化?
 日本では「非核化」と言うと「北朝鮮の非核化」すなわち「北朝鮮に核を放棄させること」だと思っている人が多く、たぶん安倍首相もその一人ではないかと思われる。
 が、この言葉の国際標準に基づく正常な理解は「朝鮮半島の非核化」で、北朝鮮も韓国も中国も必ずそういう言い方をするし、米国も(一部の右翼やネオコンを別にすれば)公式にはそうである。
 その意味するところは、米国が朝鮮戦争以来の北に対する核攻撃の恫喝を止め、韓国はウラン濃縮施設と再処理施設を保有せずに核武装の権利を放棄し、そうすれば北も同様にするということである。
 この「朝鮮半島の非核化」がクローズアップしたのは、冷戦終結に伴って米ブッシュ父政権が全世界の米軍基地から戦術核兵器を撤収することを宣言し、その一環として在韓米空軍が保有していた航空機搭載の核爆弾も撤去したからである。この時米国は、北朝鮮が在韓米軍基地を査察することを認めるとまで発表した。
 それを受けて、盧武鉉と金正日の両政権間にも対話の機運が生じ、91年12月には南北間の和解と不可侵、交流と経済協力のための25条からなる包括的な「南北基本合意書」と、それに付帯する「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」とが結ばれ、共に92年2月に発効した。双方の総理が署名したその宣言の全文は次の通り。
南と北は朝鮮半島を非核化することで、核戦争の危機を除去し、わが国の平和と平和統一に有利な条件と環境を造成し、アジアと世界の平和と安全に貢献するために、次のように宣言する。
1.南と北は核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない。
2.南と北は核エネルギーを、ただ平和的な目的にのみ利用する。
3.南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない。
4.南と北は朝鮮半島の非核化を検証するため相手側が選定し、双方が合意する対象たちに対し、南北核統制共同委員会が規定する手続きと方法で査察を実施する。
5.南と北はこの共同宣言の履行のために、共同宣言の発効後一か月の間、南北核統制共同委員会を構成・運営する。
6.この共同宣言は南と北がそれぞれ、発効に必要な手続きを経て、その文本を交換した日から効力を発生させる。
 あくまで南北の共同宣言であるから、文面に米国が出てこないのは当たり前だが、この宣言を出すよう韓国政府に働きかけ、文案まで示して押しつけたのは米国だったと、「東亜日報」は解説した(04年9月16日付電子版)。
 つまり、この時ブッシュ政権は、全般的な冷戦終結に伴い朝鮮半島の冷戦状態も一気に解消すべく、米韓朝3者が核をなくすことで合意するという意味での半島非核化を実現しようとした。これが「非核化」ということの原義である。
 また、94年10月の米朝の「枠組み合意」では、第3条「双方は核の無い朝鮮半島の平和と安全のために共に努力する」の中で、
1.米国は北朝鮮に対し、核兵器を脅威として用いないこと、ならびに使用しないことに関する公式な保障を提供する。
2.北朝鮮は朝鮮半島の非核化共同宣言を履行するための措置を一貫性を持って取り進める。
3.本合意文が対話を促進する雰囲気を造成していくことの一助となるため、北朝鮮は南北対話に着手する。
 と、上記の非核化共同宣言を受けて、朝米韓の3者が半島非核化に取り組むべき事が謳われている。
 もちろんこれらは、北の裏切り行為によって反故にされてしまうのだが、だからといって全く無駄だった訳ではなく、こうしたことの積み重ねの上に今日の状況が生まれているという経緯を無視してはならない。
 実際、韓国政府は未だに91年の非核化共同宣言を破棄せずに維持している。

 ◆ 2.条件付き? 段階的?
 朝中首脳会談の結果を伝える3月29日付「読売新聞」1面トップの見出しは「北、非核化に条件/『同時並行』要求」である。
 「同時並行」とは、金正恩が習近平との会談で「韓国と米国が善意をもって我々の努力に応じ、平和実現のために『段階的で同時並行的な措置』を取るならば、非核化問題は解決に至ることが可能となる」と述べたことを指している。
 この読売の見出しそれ自体に、北が非核化に何らかの「条件」を付けたり、さらには韓米に対して「同時並行」の対応措置を求めるなど、おこがましいことだ──裏返せば、国際社会に敵対する核武装というとんでもない犯罪行為をしているのは北なのだから、四の五の言わずに核を放棄すればいいのだという主張が見え隠れしている。
 非核化を「北朝鮮の非核化」と誤解するところから出発すれば、このように北に対して一方的な屈服を強いるかの論調になってしまうのは必然である。
 しかし非核化は米朝韓の相互作用であるという正しい理解に立つならば、お互いに条件を出し合って段階的に積み上げて行く、複雑極まりないプロセスなしには達成されないことなど、自明のことではないか。
 例えば、上述の91年「南北基本合意書」の第2章「南北不可侵」の中の第12条には、
南と北は不可侵の履行と保障のために、この合意書の発効後3か月以内に南北軍事共同委員会を構成・運営する。南北軍事共同委員会では、大規模な部隊移動と軍事演習の通報および統制の問題、非武装地帯の平和的利用の問題、軍人同士の交流および情報交換の問題、大量殺傷兵器と攻撃能力の除去をはじめとする段階的な軍縮の実行問題、検証問題など、軍事的な信頼醸成と軍縮を実現するための問題を協議・推進する。
 と規定され、また第13条では
南と北は偶発的な武力衝突とその拡大を防止するため、双方の軍事当局者のあいだに直通電話を設置・運営する。
 ことも謳われている。
 このような、朝米韓それぞれに条件を出し合って、踏み石を1つ1つ確かめるように踏み出して行く、ガラス細工を組み上げるようなプロセスがなければ「非核化」など始まりようもないのである。
 条件や段階がない方がいいかに言う読売論調は余りにガサツである。

 ◆ 3.核放棄? 核凍結?
 安倍首相は、核開発という違法行為に手を染めているのは北なのだから、北がまず一方的かつ全面的に核を放棄するのでなければ交渉も何もありえないという「核放棄」論の立場だけれども、北はもちろん韓国も中国もロシアも、さらに米国の外交政策担当者や議会の大勢も(ボルトンがホワイトハウス中枢に入ってくるとどうなるか分からないとはいえ)そう考えてはおらず、当面の出発点は「核凍結」で十分だという考えである。
 単純な話、米国はこれまで、中国、イスラエル、インド、パキスタンなど、いつの間にか核武装してしまった国々に対して、核放棄はもちろん、核凍結さえ求めたことはない。なぜ北朝鮮に対してだけそうしなければならないのか、合理的な説明は付かない。
 これに関連して、「短・中距離ミサイルだけ取り残される」という議論がある。
 米国が関心あるのは米本土に到達可能な大陸間弾道弾の全き完成を阻むことにあって、北がそれを放棄しさえすれば、これまでに蓄えた核弾頭と短・中距離ミサイルの保有は許容するのではないかというのが、安倍首相が取り憑かれている「日本=置き去り」不安の1つである。
 これは混濁した議論で、第1に、確かに米本土を直接狙える長距離ミサイル(ICBM)は米国にとって脅威となりうるけれども、中距離ミサイル(IRBM)でもアラスカ、ハワイ、グアム、日本・沖縄、フィリピンなどの米軍拠点は狙えるので、長距離ミサイルさえ抑えればいいとは米国自身が思っていない
 第2に、北は米本土に核ミサイルを撃ち込みたいという狂気に取り憑かれているからそれを開発しているのではなくて、米国との間に仮初めの抑止関係を形成して、一刻も早く1953年朝鮮休戦協定を平和協定に置き換える交渉をたぐり寄せたい。
 平和協定が成れば、北が食うや食わずの状態で核開発に励まなければならない理由そのものが消滅する。
 第3に、脅威とは能力×意思であって、北が日本に届く核弾頭搭載可能な中距離ミサイル能力を保持したとして、何もない時にいきなり日本にそれを撃ち込む意思を持っているかというと、持っていない。そんなことをする戦略的利益が何もないからである。
 もっと言えば、北は日本にそれほどの関心を持っていなくて、安倍首相が「北が虎視眈々とミサイル撃ち込みを狙っている」と怯えているとすれば、それは自意識過剰の思い込みでしかない。
 第4に、では北の核ミサイルが日本に撃ち込まれる可能性はないのかと言えば、大いにあって、それは米朝間で戦争が起きた場合に、米軍の出撃・補給・修理基地となる在日米軍基地と、15年安保法制によって集団的自衛権を発動してその米軍と共同作戦を展開しようとする自衛隊基地とを壊滅させるためである。
 逆に、戦争にならなければ、米日の在日基地が攻撃対象となることはない。

 ところで、第5に、米朝戦争はどのようにして起きるかと言えば、北が自分の方から仕掛けることは(自殺行為なので100%)あり得ず、トランプ政権の気紛れ的な先制攻撃か、双方が意図しない不測の偶発的衝突かのどちらかである。
 従って、米国が間違っても戦争を始めないように、また不必要な緊張を高めるような軍事圧力をかけないように抑え込むことが、北の対日攻撃を防ぐための最善策となる。しかし、その正反対をやってきたのが安倍首相である。
 ◆ 4.日米一体?
 安倍首相はずっと、「対話のための対話は不要」であって「最大限の圧力をかけ続ける」という「圧力のための圧力」(?)路線で「日米は100%一致している」と言ってきた。
 対話のための対話とは何であるか定義不明のままでは、この言い方は単に対話を拒否するという意味にしか聞こえない。
 まあ恐らく本人の主観的意図としては、北がまずもって圧力に耐えかねて「ご免なさい」と膝を屈して核放棄を宣言すれば対話に応じないでもないということなのだろうが、これには何の成算もないばかりか、圧力をかけ続けてどこで相手が暴発するかの計算が成り立っておらず、全く以て戦略の体をなしていない。
 米国は確かに、安倍首相にそう言われれば「最大限の圧力をかけ続ける」ことに同意するが、しかし一度たりとも「対話は不要」と宣言したことはない。
 安倍首相がそのことを分かっていなくて「100%一致」と言ったのか、分かっていて国民を騙そうとしたのかは不明だが、いずれにせよ、この「100%一致」が「最大限の圧力をかけ続ける」には掛かっているが「対話のための対話は不要」には掛かっていないという厳粛なる事実を指摘してきたのは、たぶん本誌だけである。
 だから、このことを巡って「日米一体」であったことなど一度もなかった
 なのに、就任前のトランプに50万円のゴルフクラブを土産に会いに行くことから始まって、米日両国でゴルフ2回、事あるごとに電話会談数十回、娘のイヴァンカの事業への過剰寄付等々、まるで新米の営業マンのベッタベタ接待術総動員のようなへつらいぶりで親密さを演出してきたことの反動が、ここへきて一挙に出てきたのだと言える。
 トランプが3月22日、対日貿易赤字への不満を露わにして「安倍首相と話をすると、ほほ笑んでいる。『こんなに長い間、米国を出し抜くことができたとは信じられない』という笑みだ。こんな時代はもう終わりだ」と語ったことは、安倍首相が夢見た「日米一体」幻想の破裂を意味していると言える。
 ◆ 5.拉致?
 それで度を失った安倍首相が、急ぎ日米首脳会談を設定して、何を言いに行くのかと思えば「拉致問題を忘れないでくれ」とお願いするのだという。
 拉致はもちろん日本にとって重大関心事ではあるけれども、米国はもちろん韓国や中国にとってはそうではなく、従って、今、北の核をどうするかで命懸けの勝負を賭けようとしている時に、余計なことを持ち込まないでくれ、それは日朝の2国間関係の中で自分で解決してくれと言われてしまうに決まっている。
 そもそも、2002年9月の小泉純一郎首相の訪中による日朝平壌宣言に基づいてその1カ月後に5人の拉致被害者が“一時帰国”した際に、その5人を返さないという政府決定を主導して平壌宣言を破壊し、日朝間の交渉パイプを切断したのは安倍官房副長官であり、それを前後の見境ない右翼から「勇気ある決断」とか褒めそやされて勘違いしたのが「外交に強い安倍」という幻想の始まりである。
 実際には、拉致問題1つとっても、それから16年を経て何一つ進展しておらず、そのことを家族会や支援団体から糾弾され始めている。
 にも関わらず、自分でそれを打開する方策は何も打ち出せないまま、日米首脳会談でトランプに「何とかしてくれ」と頼みに行くなど、正気の沙汰ではない。
 すべてを反共・反中・反北・反韓という時代錯誤の偏光レンズを通じてしか世の中を見ていないので、安倍首相はますます世界が見えなくなり、外交的な立ち往生に陥っている。
 ※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
http://www.mag2.com/m/0001353170.html
 ※プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
 1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
『高野孟のTHE JOURNAL』(2018.04.03)
http://www.mag2.com/p/news/355388?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_0403
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