◆ 高度成長期並の人手不足のウラで政府が気にする「ある不気味な数字」
23ヵ月ぶりのマイナスが示すもの (マネー現代)
◆ 高度成長期並みの人手不足だが…
深刻な人手不足が続いている。仕事を探す人1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、厚生労働省が10月30日に発表した9月の実績で1.64倍と、1974年1月(1.64倍)以来の高水準となった。
なんと44年8カ月ぶりというから、高度経済成長期並みの人手不足になっているということだ。
同日総務省が発表した労働力調査でも、就業者数が6715万人と過去最多を更新、会社に雇われている「雇用者」数も5966万人と最高を更新した。
人口が減っているにもかかわらず、働く人がどんどん増え、それでも人手が不足しているという未曾有の状態が続いている。
就業者数、雇用者数ともに2013年1月以降69カ月連続で増え続けている。まさに大横綱双葉山の69連勝に匹敵するほどの大記録と言っていい。
2013年1月は安倍晋三首相が年末に第2次安倍内閣を発足させた直後だったため、安倍首相は自らの経済政策アベノミクスの最大の成果としてこの「雇用の増加」を引き合いに出している。
2012年12月から5年9カ月の間に就業者数は6240万人から475万人、雇用者数も5490万人から476万人増加した。安倍首相が胸を張りたくなる気持ちも分からないではない。働く人が475万人も増えているのに、一向に求人倍率は下がらないのだ。
◆ 業種によって極端な偏りが
いったいどんな職業の人手不足が深刻なのか。
中分類で見ると「保安の職業」が8.65倍、「建設・採掘の職業」が4.99倍、「サービスの職業」が3.56倍、「輸送・機械運転の職業」が2.57倍、「販売の職業」が2.32倍といった具合だ。
さらに細かく見ると、建設の中でも「建設躯体工事の職業」が11.18倍、「土木の職業」が5.00倍、「建設の職業」が4.82倍といったところだ。
サービス業の中でも「家庭生活支援サービスの職業」が7.29倍、「介護サービスの職業」が4.16倍、「接客・給仕の職業」3.92倍となっているほか、
輸送では「自動車運転の職業」3.03倍だ。
人手不足と言われている建設関係、輸送関係、介護、飲食といったところが軒並み高い倍率になっている。
一方で、「事務的職業」の有効求人倍率は0.49倍。中でも「一般事務の職業」に至っては0.38倍。事務職として仕事を探す人が多い一方で、事務の仕事の求人は少ないということだ。
パソコンの普及などで、事務作業の合理化が進み、一般事務が仕事として姿を消しつつある、ということかもしれない。
◆ 不気味な夏以降の景気停滞
人手不足は簡単には収束しそうにないが、ここへきて気になる数字が出てきた。企業が新たに求人する「新規求人数」が9月は前年同月比6.6%減の93万1362人になったのだ。
新規求人数が前年同月比でマイナスになったのは、2016年10月以来、23カ月ぶりのことだ。
厚生労働省は、北海道胆振東部地震の影響などで、企業が求人を控えたとみているが、これが一時的な現象にとどまるのか注視する必要がありそうだ。
というのも、7月の西日本豪雨災害や8月の猛暑、台風の相次ぐ来襲などで、経済活動が停滞し、特に消費が急速に悪化している。
消費が落ち込めば、企業の売り上げが減少し、求人の増加を手控えるという「悪循環」になりかねない。
安倍首相は第2次安倍内閣発足以来、「経済好循環」を掲げてきた。
円安に伴う企業収益の好転を、賃金の上昇に結び付け、消費を拡大し、さらに企業収益を押し上げるという好循環を実現しようとしている。
それが、まったく逆に動き出しかねない状況に直面しているのだ。
安倍首相自らが財界幹部に呼びかけたこともあり、春闘では5年連続のベースアップが実現した。今年は「3%の賃上げ」を訴えたが、実際には賃上げ幅はなかなか上がっていない。
一時は消費が盛り上がるかに見えたが、夏以降、再び悪化の色を見せている。
もうひとつ、雇用の増加が所得の伸びにつながっていない、という問題もある。
就業者数の増加で目立つのは65歳以上の高齢者と女性だ。
安倍首相が「1億総活躍」「女性活躍推進」を政策の柱のひとつとして掲げてきた成果が出ているとも言えるが、団塊の世代やそれに続く世代の人たちが働き続けている効果が大きい。
◆ 高齢者・女性就労者増で所得伸びず
9月の労働力調査でも65歳以上の就業者数は886万人と過去最多を更新したが、2016年5月からわずか2年4ヶ月で100万人も増えた。
第2次安倍内閣が発足した2012年12月には、65歳以上の就業者数は593万人だったから、293万人も働く高齢者が増えたのである。
65歳の定年で再雇用されているケースなどが多く、当然、給与は大きく下がる。つまり、雇用が増えても、給与総額自体の伸びは小さく、従って消費に回るおカネもあまり増えない、という状況になっているのだ。
女性の活躍にしてもそうで、確かに働く女性は増加している。
9月の女性の就業者数は2980万人と過去最多で、15歳から64歳までの女性の就業率は70.3%に達している。
8月に初めて70%台に乗せた後、9月もさらに率を伸ばした。
女性もパートで働く人が少なくないため、ここでも就業者数の伸びほどには所得は伸びていないとみていいだろう。
政府は最低賃金を大きく引き上げるなど、給与増を実現しようと躍起になっている。
期待ほど給与が増えない一方で、企業の内部留保、特に現金・預金は大きく増え続けている。まだまだ企業に給与を引き上げる体力はあるということだ。
人手不足に対応して、企業も思い切って賃上げをするなど、方針転換しなければ、結局は消費が減って企業の売り上げも落ちるという悪循環を招くことになりかねない。
今は、歯車が前に回るか、逆回転を始めるかの正念場だと見るべきだろう。
『マネー現代』(2018/11/1)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58250
23ヵ月ぶりのマイナスが示すもの (マネー現代)
磯山 友幸(経済ジャーナリスト)
◆ 高度成長期並みの人手不足だが…
深刻な人手不足が続いている。仕事を探す人1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、厚生労働省が10月30日に発表した9月の実績で1.64倍と、1974年1月(1.64倍)以来の高水準となった。
なんと44年8カ月ぶりというから、高度経済成長期並みの人手不足になっているということだ。
同日総務省が発表した労働力調査でも、就業者数が6715万人と過去最多を更新、会社に雇われている「雇用者」数も5966万人と最高を更新した。
人口が減っているにもかかわらず、働く人がどんどん増え、それでも人手が不足しているという未曾有の状態が続いている。
就業者数、雇用者数ともに2013年1月以降69カ月連続で増え続けている。まさに大横綱双葉山の69連勝に匹敵するほどの大記録と言っていい。
2013年1月は安倍晋三首相が年末に第2次安倍内閣を発足させた直後だったため、安倍首相は自らの経済政策アベノミクスの最大の成果としてこの「雇用の増加」を引き合いに出している。
2012年12月から5年9カ月の間に就業者数は6240万人から475万人、雇用者数も5490万人から476万人増加した。安倍首相が胸を張りたくなる気持ちも分からないではない。働く人が475万人も増えているのに、一向に求人倍率は下がらないのだ。
◆ 業種によって極端な偏りが
いったいどんな職業の人手不足が深刻なのか。
中分類で見ると「保安の職業」が8.65倍、「建設・採掘の職業」が4.99倍、「サービスの職業」が3.56倍、「輸送・機械運転の職業」が2.57倍、「販売の職業」が2.32倍といった具合だ。
さらに細かく見ると、建設の中でも「建設躯体工事の職業」が11.18倍、「土木の職業」が5.00倍、「建設の職業」が4.82倍といったところだ。
サービス業の中でも「家庭生活支援サービスの職業」が7.29倍、「介護サービスの職業」が4.16倍、「接客・給仕の職業」3.92倍となっているほか、
輸送では「自動車運転の職業」3.03倍だ。
人手不足と言われている建設関係、輸送関係、介護、飲食といったところが軒並み高い倍率になっている。
一方で、「事務的職業」の有効求人倍率は0.49倍。中でも「一般事務の職業」に至っては0.38倍。事務職として仕事を探す人が多い一方で、事務の仕事の求人は少ないということだ。
パソコンの普及などで、事務作業の合理化が進み、一般事務が仕事として姿を消しつつある、ということかもしれない。
◆ 不気味な夏以降の景気停滞
人手不足は簡単には収束しそうにないが、ここへきて気になる数字が出てきた。企業が新たに求人する「新規求人数」が9月は前年同月比6.6%減の93万1362人になったのだ。
新規求人数が前年同月比でマイナスになったのは、2016年10月以来、23カ月ぶりのことだ。
厚生労働省は、北海道胆振東部地震の影響などで、企業が求人を控えたとみているが、これが一時的な現象にとどまるのか注視する必要がありそうだ。
というのも、7月の西日本豪雨災害や8月の猛暑、台風の相次ぐ来襲などで、経済活動が停滞し、特に消費が急速に悪化している。
消費が落ち込めば、企業の売り上げが減少し、求人の増加を手控えるという「悪循環」になりかねない。
安倍首相は第2次安倍内閣発足以来、「経済好循環」を掲げてきた。
円安に伴う企業収益の好転を、賃金の上昇に結び付け、消費を拡大し、さらに企業収益を押し上げるという好循環を実現しようとしている。
それが、まったく逆に動き出しかねない状況に直面しているのだ。
安倍首相自らが財界幹部に呼びかけたこともあり、春闘では5年連続のベースアップが実現した。今年は「3%の賃上げ」を訴えたが、実際には賃上げ幅はなかなか上がっていない。
一時は消費が盛り上がるかに見えたが、夏以降、再び悪化の色を見せている。
もうひとつ、雇用の増加が所得の伸びにつながっていない、という問題もある。
就業者数の増加で目立つのは65歳以上の高齢者と女性だ。
安倍首相が「1億総活躍」「女性活躍推進」を政策の柱のひとつとして掲げてきた成果が出ているとも言えるが、団塊の世代やそれに続く世代の人たちが働き続けている効果が大きい。
◆ 高齢者・女性就労者増で所得伸びず
9月の労働力調査でも65歳以上の就業者数は886万人と過去最多を更新したが、2016年5月からわずか2年4ヶ月で100万人も増えた。
第2次安倍内閣が発足した2012年12月には、65歳以上の就業者数は593万人だったから、293万人も働く高齢者が増えたのである。
65歳の定年で再雇用されているケースなどが多く、当然、給与は大きく下がる。つまり、雇用が増えても、給与総額自体の伸びは小さく、従って消費に回るおカネもあまり増えない、という状況になっているのだ。
女性の活躍にしてもそうで、確かに働く女性は増加している。
9月の女性の就業者数は2980万人と過去最多で、15歳から64歳までの女性の就業率は70.3%に達している。
8月に初めて70%台に乗せた後、9月もさらに率を伸ばした。
女性もパートで働く人が少なくないため、ここでも就業者数の伸びほどには所得は伸びていないとみていいだろう。
政府は最低賃金を大きく引き上げるなど、給与増を実現しようと躍起になっている。
期待ほど給与が増えない一方で、企業の内部留保、特に現金・預金は大きく増え続けている。まだまだ企業に給与を引き上げる体力はあるということだ。
人手不足に対応して、企業も思い切って賃上げをするなど、方針転換しなければ、結局は消費が減って企業の売り上げも落ちるという悪循環を招くことになりかねない。
今は、歯車が前に回るか、逆回転を始めるかの正念場だと見るべきだろう。
『マネー現代』(2018/11/1)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58250
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