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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

三宅晶子さんのお話を聞いて

2012年09月01日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 『河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会ニュース』№42から
 ◎ 「君が代」裁判に問う<自由>と<秩序>
   ~「良心の自由」の社会化の回路を開くために

吉田康子

 三宅晶子さんは、「『君が代』裁判に問う〈自由〉と〈秩序〉―「良心の自由」の社会化の回路を開くために」と題したお話で、一連の「10.23通達」に関する『君が代』判決文を読み直されました。
 裁判所は、「『君が代』不起立・不伴奏」を、各人の思想・信条や良心と切り離すことが可能である「外部行為」だと判断、そして、本来、教育のあり方を問う、大きな社会的争点であるはずの「日の丸・君が代」強制問題を、個々人の思想・信条の問題に矮小化しています。
 三宅さんは、そうした結果、教員たちの「日の丸・君が代」問題は、「式全体、学校全体、教育全体で行なわれている『強制』という社会問題であるということを検討していく回路が閉ざされていく」ことになったと指摘。
 さらに、「個々人が『外部行為』として良心の核心と異なる行動をするならば、式全体で行なわれていることに対して異なる意見・感情をもっている人がいることそのものが不可視になり、多数の、あるいは全体の「外部行動」が、互いへの大きな圧力となって、『もの言えぬ沈黙』をつくり出すだろう」(三宅さんレジュメ)と強調されました。
 裁判所の求めるように、学校で多数の人々が、自身の良心を抑え込み、自分の考えとは異なる行動をとるようになれば、どうなるのか。結果として、個人の良心や尊厳の尊重は軽視され、命令や秩序への追従のほうが「正しい」こととなってしまうと、三宅さんは警鐘を鳴らされたのでした。
 それはつまり、天皇制ファシズムへの反省から出発したはずの日本の「戦後教育」が目指していたものと逆行することにほかならないはずです。
 この日、今春、「不起立」で処分された田中聡史さんは、4月からの赴任先の新しい同僚は、田中さんを色眼鏡で見ることもないが、「概して職場の人たちは、私の『不起立』に関して無関心」と現状報告で述べられました。
 三宅さんのお話と関連づけて考えると、田中さんの同僚たちの「無関心」は、田中さんに対する「中立・不関与」というよりは、実は、田中さんという一人の同僚の信条(心情)軽視でもあるなと考えさせられました。
 結局、人が他者に対して無関心になるとき、そこでは他者への想像力が失われているのでしょうし、また、無関心が多数派となったとき、それは同調圧力となって、少数者の良心を押しつぶす傾向を持つでしょう。そのように考えると、田中さんが心情的に孤立に陥らないように支援ができればとも思いました。
 同時に、どこの学校でもこうした無関心に占められた負の状態にあると想像しますが、これを方向転換するためにはどういった働きかけが有効なのか、と考えると、結局は、「多様な価値観の共存」が大事なのだろうと思いました。
 最後に三宅さんは、映画『THE WAVE(ザ・ウェイブ)』から最後の10分ほどを紹介されました。映画は現代のドイツの高校を舞台に、授業の一環として「独裁制」の模擬体験をするあるクラスの一週間を描いたものです。
 教員との関係もフランクで、制服もなく、授業もいわゆるスクール形式でなく、日本の学校よりもずっと「自由」な教室が、「独裁制」の模擬授業を進めるうちに、みずから自由を制限するさまざまなルールをつくり、クラスを階層化し、独裁者への求心性と他者への排他性を帯びていきます。
 映画では、民族的、経済的などの要因から周縁化されていた孤独な青年たちが、「独裁」に身を預けていくことで「居場所」を得る様が描かれています。独裁者の意向を瞬時に汲み取り、また他者を排することで、自身の対外的地位と自尊心を高めた青年たちは、「授業」の打ち切りが宣言されると、もはや生きる場所を失ったと感じ、抵抗し、「悲劇」を引き起こします。
 これは、欧米で近年起きている排外的民族主義の青年による銃乱射事件を想起させるだけでなく、日本の現代の学校、日本の若者たちの心情でもあると想像できます。
 三宅さんは、「多元的価値の併存を尊重する『教育の自由』への侵害が、問題化されねばならない。/ここを突破するためにも、個人への権利の侵害へと集中していくだけでなく、大きなスパンで言えば、1985年文部省による『君が代』実施率調査以来の『強制』のシステムを視野に入れて、教育の『自由』を問う論理が求められるのではないか」と話の最後を締めくくられました。
 私は、「日の丸・君が代」の強制問題とともに、競争主義にもとづく一斉・画一的な教育の結果、存在が数値化・序列化されたまま閉塞社会に投げだされる、そうした若者たちの不安をも受け止められるように、日本の学校教育のあり方そのものをも問題化していければと思いました。
 ※『THE WAVE ウェイヴ』(監督: デニス・ガンゼル、2008年、ドイツ制作)
 あらすじ:高校教師のベンガーは特別授業週間で独裁制について学ぶクラスを受け持つことに。若くて生徒からの人気もあるベンガーは授業の一環として、生徒に独裁制を体験させようとある提案をした。それは授業中に自分を指導者とした独裁制を行うというもの。最初は嫌悪感を示す生徒たちだったが、やがてこれまでに味わったことのない一体感に興奮していく。そして生徒たちは自らを「ウェイヴ」と名乗って異物の排除を行うようになり…。この作品は1967年にアメリカ・カリフォルニア州の高校で実際に起こった事件を基にしている。(「goo映画」参照)
『河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会』(2012/8/24)
http://kaikosasenaikai.cocolog-nifty.com/
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